MS.11 平凡魔法使いは、意地を見せる


「料理の注文

 昨日と違って、今日は問題無い」



 恥ずかしい思いをしている僕とは違い、リルシアさんとテトラさんは、平然とした表情で、料理の注文を始めた


 あのぉ、そろそろ降ろしてもらえたりはぁ・・・しませんか、そうですか



「問題無い、つったって、タダ食いの権利が公式的な物になっただけじゃねぇか」



 それは・・・


 確かにそうだね

 状態としては、僕も二人も何も変わってない

 お金が無いから、他人頼りで食べてる


 そして、二人とは違って、僕は宿もタダで泊まらせてもらっている


 うぅ、情けない

 ちゃんとお金を払えるようになるためにも、この試験は必ず合格しないと



「抱っこされてるんだ

 坊ちゃんの方は、魔力切れの症状がかなり酷そうだな

 強制的に、魔力回復スペシャルにするぞ


 嬢ちゃんたちの方は、そうでもなさそうだからな

 好きなメニューを選んでくれ」



 あっ

 ねえ、待って

 もう大丈夫


 いや、確かにまだ、魔力が回復しきってるとは言えないし、頭だって痛いけど

 でももう、大丈夫だからぁ


 ねぇ

 お願いだから降ろしてよぉ







「意外です

 まさか、もう回復しているとは・・・

 かなり深刻な魔力不足に見えたのですが


 魔力の回復速度は、一般的な魔法使いよりやや遅めを想定していたのですが・・・想定よりも回復速度が速い、ということでしょうか?」



 違います

 意地と根性で立っているだけです


 でも、バレたら逆戻りしそうなので、黙ってます



「注文

 キャベツとレタスのサラダ

 ポテトポテトフライドポテト

 それぞれ、一人前」



 えっ?


 ポテトポテトフライドポテト?

 ここって、そんなとち狂ったような名前の料理があるの?



「名前だけ見りゃ、狂ってるとしか思えないような料理を初見で行けるのか

 見た目によらず、随分とチャレンジャーな嬢ちゃんだな」



 僕の聞き間違いでも、リルシアさんの読み間違いとかではないんだ

 本当に、ポテトポテトフライドポテトっていう料理名なんだ・・・・・



「違う

 ポテトポテトフライドポテトは、ナートの氏族の伝統料理の一つ

 豆腐とポテトを使って作った団子を平たく切って焼いたポテトで挟んで揚げた料理

 美味しいかどうかは、作り手によって変わる

 でも、肉類が食べられない私にとっては、特別で貴重な料理」



 えっと

 豆腐要素が完全に失われた、微妙なネーミングはさておき、そのポテトポテトフライドポテトっていう料理は、リルシアさんの氏族の伝統料理なんだね


 豆腐・・・・・そっか

 前にエレンさんから聞いたことがあるけど、エルフ族って確か、殆どの人がお肉の料理を食べられないんだよね

 だから、特別なのかも



「なるほどな

 嬢ちゃんは、エルフだったか

 なら、挽き肉や卵は使わない方が良さそうだな


 それで、そっちの嬢ちゃんは?

 そろそろ決まったかい?」



「は、はい

 ロカフォージャのホワイトシチューを一人前

 それから、サディンチュナのサラダサンドを二つ、でお願いします」



 ロカフォージャは、酪農で有名なロスフォート子爵領のブランド牛の名称で、デサトフィアの街があるアノン地方では、一番高級な牛肉のこと


 サディンチュナは、ツナのフレークと鰯の粉末を混ぜたもので、割と好き嫌いが分かれる

 僕は微妙にザラザラした感じが苦手だけど、好きな人はかなり好きなイメージもある



「ほいよ、っと


 じゃあ、エルフの嬢ちゃんがこの札

 剣士の嬢ちゃんは、この札


 それから、坊ちゃんは、この札だ」



 今回ビルフォードさんから受け取った札には、



 328


 ウィリーセントラル * 3

 中



 と、書かれている


 ウィリーセントラルって、聞いたことないなぁ

 どんな料理なんだろう?




「メニューにまさか、ウィリーセントラルがあるとは思いませんでした

 珍しいですね


 ウィリアムズ侯爵家は、気難しいことで有名ですから、他所での提供許可を得ることは難しかったはずですが・・・

 どうやらここには、なかなかの猛者つわものがいらっしゃるようですね」



 どうやら、テトラさんはウィリーセントラルのことを知っているみたいだ

 どんな料理か聞いてみよう



「ご存知無いのも仕方がありません

 あたしも道場の同期に、ウィリアムズ侯爵家の者がいたからこそ、偶然知っていただけです

 そういったようなツテが無ければ、知る機会すら無い、といった立ち位置にいる、最早失われかけのレシピです



 ウィリアムズ侯爵家の初代当主ウィリーは、平民でありながら王宮の厨房長を30年に渡って務めた人物だったそうです

 そして、そのウィリーが職を辞した日、当時の陛下に贈った最後の品が、彼のオリジナルレシピであるウィリーセントラルだったそうです




 歴史のある料理ではありますが、物だけ見れば、惣菜になったカンノーロです」




 歴史のある料理なんだなぁと、感慨に耽っているところに、料理の実態の説明を聞いて、冷水を掛けられたような気分になった



「テトラは、いつもそう

 偉大なる歴史に、敬意を払わない

 過去の思い出に、想いを馳せることもしない


 だから、直ぐに同じ過ちを繰り返す


 テトラはもっと、過去に敬意を払い、言動を振り返って、反省するべき」



「ハァアアッ!?

 アンタねぇぇェエーーーー


 どでかいブーメラン、ぶっ刺さってるの気付いてないわけ!?

 他人のことを心配するより先に、自分の言動を省みなさいよ!

 だいたい、アンタは、いつもいつも

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・」




 二人の口喧嘩は、徐々にヒートアップしていってるし、きっと長くなりそうだね



 うぅッ

 二人の甲高い怒声が、頭に響くよぉ

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