MS.9 - 2 平凡魔法使いは、冒険者ギルドの入所試験を受ける


 フィオリーネさんの説明を聞いたテトラさんとリルシアさんは、二人で話し合いを始めていた


 話の内容的に、どうやら二人には何かしらの制限か課題が課されているらしく、既に合格が決まっている上で、活動開始時点での階級を決めるために、この試験を受けているみたい


 それはつまり、二人とも白札付きということで、テトラさんが白札付きなのは予想していたけど、リルシアさんも白札付きだとは思わなかった



「ウルバス殿は、あたしたちよりも先か後

 どちらのタイミングで挑戦したい、といったような希望はありますか?

 特にないのであれば、あたしたちが先に挑みましょうか?」



「んー

 えっと、ちょっと考えてみます」



「はい、分かりました」



 先ずは、あのゴーレムの種類を調べてみよう





「〈鑑定〉」



--------------------

・名称

 戦闘訓練用ゴーレム.タイプ


・強さ

 挑戦者のステータスレベルを参照


・性能

 攻撃魔法使用不可

 物理防御力上昇

 自動再生

--------------------





 成程

 このタイプのゴーレムの場合、僕が先に試験に挑んでも、後から挑んでも、得られる利益には、大差が無い


 扱う戦法が違う以上、二人の戦闘方法はあまり参考にならない上に、ゴーレムが壊れたり、魔力不足による魔法の不発を期待したりすることもできない

 かと言って、今の疲れ具合だと先に挑むのは不利


 だったら、今は疲労と魔力の回復を優先して、後から挑む方が無難かな



「あの、僕は後からでも良いですか?」



「了解しました

 では、あたしたちが先に挑みましょう」



 そう言って、テトラさんはゴーレムの目の前まで、軽い足取りで進んで行った



「始めます」



 テトラさんの開戦宣言と同時に、ゴーレムが動きだした

 ゴーレムの動きをしっかりと見つめながらテトラさんは、ゆっくりと剣の柄頭に手を当てた

 そして、テトラさんの剣が鋭く甲高い音を立てて銀色の剣光を放った瞬間、ゴーレムの動きは止まった


 あまりにも一瞬の出来事過ぎて、何が起きたのかが見えていたにも関わらず、何が起きたのかが全く理解できなかった




「ほぅ、成程

 流石は、……と言ったところか」




 試験を終えたテトラさんは、少し満足気な表情で戻ってきた



「えっと、お疲れ様、です?


 その、僕には剣の動きとかは全然見えなかったんですけど、ビュンッキラッ、って感じでとっても、凄かったです!」



「・・・えっと、その、申し訳ないのですが、本当にビュンッキラッでしたか?」



「はい

 殆ど一瞬のことだったんですけど、確かにビュンッキラッでしたよ」



「そ、そうですか」



 僕の言葉を聞いた途端、テトラさんの満足そうな表情は崩れ、少し悲しそうな、それでいて悔しそうな表情になった


 あっ、あれ?

 僕、何か良くないこと言っちゃたのかな?




「いい加減、諦める

 その力は紛れもなく、テト自身のもの

 他の誰かにあげることはできないし、真似することも出来ない

 唯一無二


 だから、大切にして、磨く

 それ以外の道はない」



「だ、だが・・・


 いや、そう、だね

 あぁ、分かってはいるんです

 だが、まだ受け入れられないんです


 何で、あたしだったのでしょうか・・・

 何で、兄上や姉上ではなかったのでしょうか・・・」




 んー、よく分からないけど、今さっきの現象は、テトラさんのスキルによるものなのかな?



 勇者のパーティで旅をしていた時に聞いた話だけど、貴族や代々継承している家業のある家なんかでは、優れたスキルや家業に向いたスキルが発現した人が家を継ぐことになるらしい

 だけど、そういったスキルを持つ子供が必ずしも、上の方の子とは限らないせいで、次期当主の指名を行った後で覆ることもよくあるみたい


 テトラさんの実家のことなんて、何も知らないけれど、雰囲気には貴族っぽさがあるから、きっと、いろいろと苦労したんじゃないのかな




「次は、私


 たぶん、すぐ終わる

 それじゃ」




 そう言って、リルシアさんがゴーレムの待機している方向へ歩きだしたように見えた次の瞬間、突如としてリルシアさんの姿が霧のように消えた

 慌てて視線を動かしてリルシアさんの姿を探していると、ゴーレムの前方に立っているリルシアさんが見えた


 ゴーレムが動き出すのと同時に、リルシアさんも動き出し、魔法の詠唱を始める



{機敏の意志よ、我に力を

 疾風を巻き起こすは、緑霊りょくれいの祈り

 四角しかどの祝福、器に注ぎ

 俊敏なる風よ、我が器を支え給え

超加速アクセラレーション》}




 器ってことは、今、リルシアさんが使っている魔法は、アクセラレーションのエンチャント?

 分類を考えれば、エンチャントとして使えなくは無いと思う

 だけど、アクセラレーションは加速度合いを消費する魔力量で調整するタイプの魔法だから、エンチャントとして使っても効果が薄いはず

 なのに、使いこなしている?

 それってもはや、少し使えるとか苦手じゃないとかの次元じゃないよ


 リルシアさんが使っている矢のの部分は、魔力許容媒体か魔道具を使用しているみたいで、ゴーレムにやじりが刺さると鏃だけを残して消えていたので、ゴーレムの状態が見やすい



 リルシアさんによる、緩急がついた不思議な矢の連射によって、あっという間にゴーレムの全身は鏃塗れになっていた



「うん、上出来


 これで、お終い」



 そう言って、リルシアさんは最後の一撃を放つための準備を始めた



{破壊の意志よ、我に力を

 衝撃放つは、黒霊こくれいの叫び

 三角みかどの祝福、器に捧げ

 彗弧の煌めきよ、我が器を支え給え

隕石激打メテオストライク》}




 強力な攻撃魔法を矢みたいな細くて小さい物に付与できるなんて・・・・・もしかして、リルシアさんは付与魔法のエキスパート?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る