MS.9 - 1 平凡魔法使いは、冒険者ギルドの入所試験を受ける


 僕たちが朝食を食べ終えると、ククリさんはすぐに厨房へ戻って行った

 ククリさんの影が食堂内から完全に消えると、食堂の入口辺りの方に他のお客さんの姿がちらほらと見え始めた


 もしかしたら、って思ってたけど、やっぱりさっきまでこの食堂内には、結界魔法が張られていたみたいだね



 んー、なんとなくだけど、他のお客さんたちが入ってくる前に出て行った方がいいような気がする


 ぼんやりとしながら譫言うわごとをこぼしているロッサさんを、椅子から無理矢理引きずり下ろして肩に乗せた

 いくつかの補助魔法を使えば、小さな体格の僕でも、ロッサさんの巨体を支えることが出来る


 そうして、なんとかロッサさんを抱えることに成功した僕は、ロッサさんの身体が周囲の椅子やテーブルに当たらないように気を付けながら、ゆっくりと歩いて食堂の外に出た


 人避けの魔法を使うのは、練習以外だと初めてだったから、効いているか分からなくて不安だったけど、誰ともぶつからずに部屋まで戻れたから、たぶん効果はあったと思う



 ロッサさんには悪いけど、流石に試験に遅刻したくないから、先にギルドまで行ってしまおう

 書き置きを残して、っとこれで大丈夫なはず



 ここはギルドからあまり離れていないから、道が分からなくてもちゃんと辿り着ける

 でも、時間がかかるかもしれないから急がないとね










 加速魔法を使えば速く走れるから、ギルドにも早くつくとは思うけど、試験時に体力不足になってたり、疲労困憊で倒れたりしないかな?


 無理しない程度に頑張ろう










 ギルドに着くと、やや疲れ気味の顔色をしたフィオリーネさんが、左側の受付カウンターの手前に立っていた



「あら?

 ボウヤ、一人で来たの?

 バルバロッサは、どうしたのかしら

 昨夜は、一緒に帰ったはずよね?」



「あぅ、えっとぉ

 その、ロッサさんは、お疲れだったので

 その、宿で寝ています」



「あぁ、成程

 了解


 それじゃあ、ボウヤの試験の案内役は、私が代わりに務めようか

 こっちだ、ついてきてくれ」







 フィオリーネさんに続いて歩いていると、地下にあるとてつもなく広い部屋へ着いた



「ここは訓練室だ

 新人冒険者や戦闘技能に不安がある者、魔法を練習する者なんかがよく使っている

 今日の試験の実技科目はここで行う


 あとは・・・そこの二人

 あの二人は、ボウヤと一緒に今日の試験を受ける子たちだ」



 そう言って紹介されたのは、昨日の夜パフェを食べてもらった二人組だった



「あっ、どうも

 昨晩は助かりました」



「いえいえ、そんな

 僕も助かりましたので」



 二人の名前は、テトさんとリルさんだったかな?

 僕とテトさんが頭を下げあっていると、リルさんにすごく冷めた声で、

「二人とも、何しているの?」

 って言われてしまった



「それで、キミは・・・誰?

 私はキミの名前を知らない

 知っていない・・・・・


 昨日はお互いに名乗らなかった?」



「ハッ!?

 確かに、そうだったような気がします

 恩人に対してなんと失礼なことを


 あたしは、テトラ・エバンスです

 職業は、剣士

 麒凰隼華きおうしゅんか流剣術道場出身で、クラスはS

 最後に参加した順位戦では、一位を獲得しています」



 麒凰隼華流剣術ってたしか、アルトさんと同じ流派だよね

 クラスは階級のことで、順位戦で5回連続で優勝するか、3年以内に10回優勝するか、物凄く大きな功績を挙げないとSクラスにはなれないって、アルトさんが言ってたはず


 今は、アルトさん効果で、麒凰隼華流剣術道場の入門者は他の流派より遥かに多いから、通常時よりSクラスになることって、大変なんじゃないのかな


 と、いうことは、テトラさんってかなりの実力者で間違いないよね?


 もしかしたら、白札付きなのかも



「ん

 私は、リルシア・ナート

 職業は、弓士

 エルフの森の一つ、ナートの氏族の出身で、少しだけなら魔法も使える

 でも、エンチャント以外の魔法は苦手」



 ナート・・・リルシアさんは、エレンさんと同じ氏族の出身だね

 お互いに連絡を取り合ってたりするのかな?

 んー、気を付けないとなぁ


 弓士だけどエンチャント魔法は使う・・・エレンさんもそうだったけど、もしかして、そのスタイルがエルフには一般的なのかな?

 いや、同じ氏族なんだから戦闘スタイルが似ていることもあるか



「僕は、ウルバス・ロンディーニです

 職業は、魔法使いです

 防御魔法が得意です

 でも、まだスキルが発現していないので、使える魔法の種類は少ないです」



 うぅ、恥ずかしい

 二人と比べると自分の能力なんて、ちっぽけなものに感じてしまう



「自己紹介は終わったか?

 であれば、試験について説明しよう


 と言っても、この試験に説明することなど、殆ど無いのだが


 ・・・そうだな

 訓練室の中央にゴーレムがいるのが見えるか?

 あれに攻撃をして、戦闘不能にする

 それが、実技試験の内容だ


 制限時間は無し

 受験者かゴーレムのどちらかが戦闘不能になるまで続行する

 戦闘開始前のリタイアは有りだが、その場合は問答無用で不合格とする

 試験中に負った怪我に関しては、冒険者ギルドが責任を持って無償で治療する


 使用する武器や防具は自由

 魔法の使用制限も基本的には無い

 ただし、訓練室内部に張っている防御結界を破壊した場合は、不合格と看做す


 最後に、火薬やレギオン魔法以上の危険度に該当する広範囲戦魔法などの使用、周囲への配慮が不足するような行為が見られた場合も不合格とする


 説明は以上

 挑戦する順番を決めたら、好きなタイミングで開始してくれ」

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