MS.8 平凡魔法使いは、一夜明けて・・・
「あ、ぅ、んんんー
シス?
あれっ?いない・・・
ここ、どこ・・・・・あっ!そうだった」
目を覚ますと、見慣れない天井が視界いっぱいに広がっている
それを認識するのとほとんど同時に、いつもと違う感覚に落ち込んだ
僕は本当に勇者のパーティを出たんだ、という事実に一晩経って冷静になった今、漸く向き合えるようになった
昨日の僕は、無意識のうちにかなり気を張っていたみたいで、カレンとの距離が大きく離れた、という実感が薄かった
だけど、人生で初めてカレンと離れ離れの夜を過ごしたことで、急激に寂しさが込み上げてきた
「うぅッ
シスぅ・・
僕強くなるから、
もっと、強くなるからぁぁ
だから、だからッ・・・
うぐっ・・・・・」
溢れてきた涙が零れないように、上を向く
村を出る時に、もう泣かないって、お父さんと約束したんだ
強くなるために
守りたいものを守るために
深い深呼吸を繰り返して、無理矢理、心を落ち着かせていると、バルバロッサさんが声を掛けてきた
「どうしたんだ?ウルバス
怖い夢でも見たのか?」
目が覚めた時にバルバロッサさんが視界に入っていなかったことで、すっかり忘れていたけれど、この部屋を借りているのはバルバロッサさんだ
だから、当然のことだけど、さっきの呟きとかは最初からバルバロッサさんに聞かれていたし、泣きかけていたのも見られていた
そのことが少しだけ恥ずかしくて、
「な、なんでもないです」
って、素っ気なく返してしまった
「シス、か
デサトフィアじゃ、子供に付ける人が少なそうな名前だな
お前の幼馴染の名前とかか?」
うぇ!?
そこまで聞こえてた!?
「そ、そうですけど・・・
で、でも、シスのことをシスって呼んでいいのは僕だけなので、バルバロッサさんは呼んじゃダメです」
理由は分からないけど、僕たちが小さい頃に交わした約束
僕はカレンのことを"シス"って呼んで、カレンは僕のことを"エーベ"って呼ぶ
二人だけの特別だから、バルバロッサさんであっても、呼んでほしくない
「ダメです、って言われてもなぁ?
俺はその、お前の幼馴染には会ったことがないと思うんだが
名前も知らない、会ったこともない子に、勝手に渾名を付けて呼ぶっていうのも変だろ?」
うぅ、ごもっともです
でも、シスだけはダメだからなぁ
かと言って、正直にカレンだって言ったら、今言ったシスが、勇者のカレンだ、っていうことがバレるかもしれない
それも良くないんだよね
んー、そうだなぁ
カレン、かれん、か れ ん・・・
「レン、です
バルバロッサさんは、シスのことをレン、って呼んでください
僕のことは、ウルバスじゃなくてウルって呼んでいいので、シスのことはレンって呼んでください!
お願いします」
「お、おぅ・・・・
レン、だな?
分かった、そう呼ぶことにしよう
それから、俺はお前のことをウルって呼ぶ
だから、ウルは俺のことをロッサって呼べ
俺が世話したガキどもの殆どはそう呼ぶからな」
「分かりました、ロッサさん」
「起きたなら、さっさと着替えて準備しろ
少しでも遅くなると、ゆっくり朝食を食うことなんてできねぇぞ」
ロッサさんに促されるまま、急いで着替えて、試験に必要な物の確認をしていると、
「荷物は後でいい
朝食は、ここの食堂で食べられるからな
今の時間帯はまだ、宿泊客にしか食堂が使えないが、もうあと数十分ほど経てば、一般にも開放される
そうすりゃ、ククリの手料理目当ての客がわんさかやって来る」
って言われたので、試験に必要な物の準備を一旦止めた
「そ、そうなんですね」
ククリさんって、本当に人気な人なんだなぁ
「着替え終わったなら、さっさと行くぞ」
ロッサさんに付いて行くと、食堂に他のお客さんはいなかった
適当なテーブルの席に着くと、直ぐに厨房の方からククリさんが出てきた
今日の朝食の献立は、レタスのサラダとコーンスープ、そしてオムライスの3品で、それを見たロッサさんは、何故かげんなりとしていた
ロッサさんはオムライスが苦手なのかな?
オムライスは、カレンが唯一作れる料理だったから、僕たちがまだシナエス村にいた頃は、週に2、3回は食べていたんだ
カレンのオムライス作りは、お母さんたちからは「カレンがとる行動の中で唯一、年頃の女の子らしい行動」と評されていた
そして、いつもお父さんたちは「カレンが作ったオムライスは、どんなに微妙でも、残すことだけは絶対に許さないからな」と言っていた
最初の頃は、すぐに飽きてしまいそうだったけど、そのことに気付いたカレンは、具材を変えたり、ソースで絵を描いたりしてくれていたから、いつも楽しく食べられていたんだ
ククリさんが持ってきた、おそらくロッサさんのものと思われるオムライスには、トマトソースでハートが描かれていた
そういえば、カレンもよく、オムライスにトマトソースでハートを描いていたなぁ
料理を運び終えたククリさんは、ロッサさんの隣まで椅子を引っ張ってくると、ロッサさんに給餌を始めた
そして、それを受けたロッサさんは、されるがままになっていた
給餌は、僕の両親もよくやっていたし、カレンも時々やってくれていた
給餌は、仲が良い人同士や家族同士では、普通のことだってお母さんが言っていたんだよね
成程
つまり、ロッサさんとククリさんは、とっても仲が良いんだね
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