MS.7 平凡魔法使いは、複雑な大人の世界をしったかぶれなかった
夕食を食べ終わったバルバロッサさんに案内されるがままに、初めて夜の街中を歩いている
家に居た頃はお母さんに、勇者のパーティに所属していた頃はユリーカさんに止められて、日が沈んでからの外出をしたことは、ほとんどなかったんだ
夜の街は日中に比べると、賑やかというよりは、騒々しいといったような感じで、あちこちで小さないざこざや喧嘩が発生していた
「ギルドの外で発生した喧嘩には関わるなよ
例え仲裁したって利益は無い上に、傷害罪か公務執行妨害で騎士に捕まることになるぞ
一応、屋外で発生した喧嘩の仲裁は、騎士団の管轄らしいんだよ
まぁ、騎士たちがそう言っているだけだがな
少しでも手柄を上げたい騎士が、喧嘩の仲裁で実績のかさ増しをしてるんだ
そして、それを妨害されると困るから、公務扱いにすれば、あら不思議
公務執行妨害罪も引っ付いて、一度に上がる手柄が二つ
一石二鳥になって、おいしくなった
だから、奴らは何がなんでも手柄にするために、傍にいるだけで、あらゆる難癖をつけてくるぞ
それに、軍と違って騎士団は、家を継げなかったり、新たに家を興すことを認められなかったりした、貴族証を持たない貴族が多く所属している
ロアンタークの奴みたいに、貴族証を持たない成人貴族には、まともなやつが殆どいなくてな、騎士団は問題児の寄せ集めってわけだ
なんせ今なら、ノブレス・オブリージュをきちんと理解して、行動出来るような貴族であれば、独立して新しく家を作ることが許されているからな
問題児だって分かっているなら、採用しなければいいって思うんだけどな、お貴族様特有の事情があって、断ることが出来ないような相手が一定数いるんだとよ
おかげさまで、騎士団の住民人気度は年々下がり続けていて、デサトフィアの騎士団なのに、デサトフィアの民は所属せず、外から来た貴族ばかりが増え続けている
騎士団と軍の亀裂も深まり、他の地域では嫌われやすい軍の方が、圧倒的に人気が高くなっている」
バルバロッサさんの話を聞いていると、貴族という身分も、中々大変なんだなと思う
家を出る前にお母さんが、「貴族は中間管理職だ」とか「互いの足の引っ張りあいをずっとしているような、愚者が多い」とか言っていたけど、本当にそうなんだなぁ
「明日も聞くことになるだろうが、覚えておいた方がいいから、先に言っておくぞ
冒険者になるからには、貴族とのツテがまったく無いと困ることが多い
これは名のある貴族の後ろ盾が無いと、実入りのいい仕事、特に護衛や単発警備みたいな報酬のでかい仕事が受けにくいからだ
とはいえ、問題のある貴族も多い
冒険者ギルドで、ブラックリスト入りしているような家もたくさんある
そういう家とは繋がりができないように、注意するんだぞ
覚えの無い貴族や親しい間柄じゃない貴族から、ギルドを通していない依頼やクエストは絶対に受けるなよ
報酬が支払われなかったり、依頼の難易度が詐称されていたりしても、相手を訴えることが出来ないからな」
バルバロッサさんから、冒険者としての心得のようなものの話を聞いているうちに、宿の前に着いたらしく、バルバロッサさんが宿の人と話し始めた
バルバロッサさんがずっと泊まっていた宿は、かなり古そうな建物で、大通りに面している建築物の中で唯一の木造家屋だった
看板には『銀狐の手袋屋』と書かれているような気がするけど、ここは宿屋のはずだから、"手袋屋"だと思った部分は、読み間違えているのかもしれない
「ウルバス、こっちの話はついたぞ
今晩は、タダで泊まっても良いってよ」
「こんばんは
はじめましてですね、小さなお客様
私は、ククリと申します
この『銀狐の手袋屋』で、今代の亭主を務めております」
「あ、やっぱり
手袋屋で合ってたんだ
っと、はじめまして
僕は、ウルバスです
今日は、急な話にも関わらず、泊めていただきありがとうございます」
「ふふふ
ご丁寧にありがとうございます、とても可愛いらしい小さなお客様」
綺麗なお姉さんであるククリさんに頭を撫でられちゃったから、ちょっとだけ恥ずかしくて照れてしまった
その瞬間、背中に寒気を感じたから、周辺に視線を向けたんだけど、原因らしきものは見つからなかった
バルバロッサさんに案内されて、部屋までついて行く
部屋に着くとバルバロッサさんから、ククリさんはかなり人気な人だから、嫉妬されているのかもしれない、って言われたんだ
成程
都会というのは、人同士の関係性を複雑化させやすいんだね
たぶん、大人同士だからかもしれないけど
「大人になるっていうのも、大変ですね」
「・・・・・あぁ、そうだな」
歯切れの悪いバルバロッサさんの様子を見る限り、この話題を深掘りするのは避けた方が良いような気がする
「バルバロッサさんは、なんでこの宿の名称には"手袋屋"っていう言葉が含まれているのか、理由を知っていますか?」
「あぁ、手袋屋の理由か
その話はここじゃ結構有名だからな
デサトフィアにいる間に図書館や本屋にでも行って、銀狐の手袋屋の物語でも探して読んでみるといい
なんて言ったて、デサトフィアの子どもたちの愛読書だからな
あの物語を読まないなんて、人生損してるようなものだからな」
どうやら、『銀狐の手袋屋』という名称には、有名な物語になるほどの出来事が関係しているらしい
バルバロッサさんにオススメされたことだし、いずれ読みに行こうかな
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