MS.6 平凡魔法使いは、将来のために・・・


 少女二人組による、特大級のパフェの大食いは驚くことに、たったの30分で終わった


 パフェを完食した二人組は、周囲にいるおじさん冒険者たちに絡まれ始めていたので、食堂職員のお兄さんが直ぐに帰していた


 そして、食堂でたむろしていた冒険者たちの殆どが帰っていった後、バルバロッサさんが食堂に現れた



「おう、ウルバス

 たったの数時間しかいなかったのに、面倒な奴に絡まれて大変だったな


 おぉ、ビル

 丁度良いところに来たな

 トカロの生姜焼き定食の大盛り一人前とフィムカッチャのセットを頼む」



 来たばかりのバルバロッサさんは、冒険者たちが残していった食器を片付けている最中の食堂職員のお兄さんを捕まえると、さっさと料理の注文をしてしまった



「はい、閣下

 いつものですね」



 トカロは、オークから変異して確立した種のうち、特に食用に向いているお肉が豊富な種族なんだよね

 豚肉に比べるとちょっとお高いけど、食べ応えが良くて、料理もしやすいことから、食堂で扱われる食材として人気なんだって



 フィムカッチャは聞いたことないから、どんな料理なのか、見るのが楽しみだなぁ



「で、ウルバスは何を食べたんだ?」



「僕は、ハンバーグとパフェを食べました」



「あぁ、成程な

 それであれに巻き込まれたのか


 そりゃあ、災難だったな」



「でも、初めて食べたハンバーグは、とっても美味しかったです」



「そうかそうか


 そういえば、ウルバスはデサトフィアの外から来てるんだったな

だから、ハンバーグを食べたことが無かったのか


 なら、食べられて良かったな

 あれはな、デサトフィアが都市として成立した頃からずっと作られているデサトフィアを代表する郷土料理なんだぞ」



「そう、なんですか?

 ハンバーグは今まで聞いたことがなかったので、そんなに古くからある、由緒正しい料理だとは思いませんでした」



 デサトフィア街の成立に関する情報は、魔法や魔術を学ぶ者なら誰でも知っている

 ユリーカさんの御先祖様に当たる、アノン大公家の2代目当主であった魔導王が、エストレイマ王国の初代陛下の御息女の一人と一緒に魔法研究のために切り開いた土地、そこが今のデサトフィアだと言われている


 エストレイマ王国建国初期から存在する、数少ない都市

 その一つであるデサトフィアの成立当初からある郷土料理が、ここまで無名なことってあるのかな?



「ハンバーグはな、デサトフィアの初代領主、つまりアノン大公家の2代目当主に、デサトフィアを開拓した褒美として、初代陛下が振る舞ったという伝承があるせいで、デサトフィア以外の地域では、大きなパーティーや式典とかでしか作られていなかったんだ


 そのせいかな

 デサトフィア以外の地域では作り方が失伝してしまったんだ


 まったく、本末転倒してるだろ?」



 そう言って、バルバロッサさんは首を横に振ると、肩を竦めて、小さな溜め息を一つ吐いた


 ハンバーグの知名度の低さの原因が、製法失伝による廃れなら、この街の料理人に頼めば、作り方を教えて貰えるかもしれない


 もし、アーツの〈料理〉を習得出来れば、レベル上げの足掛かりになるし、他の人に手料理を振る舞えるようにもなる

 一石二鳥、必ず習得しておかないとな




 そんな事を考えているうちに、バルバロッサさんが注文した料理が出来上がったらしく、お兄さんが料理を運んできた



「お待たせしました

 トカロの生姜焼き定食大盛り一人前とフィムカッチャセットです」



 気になっていたフィムカッチャのセットとは、フィム茶とフォカッチャのセットのことを指していたみたい

 フィム茶は、フィム麦と呼ばれる、魔術で加工された特殊な麦を使用して作られる麦茶の一種なんだけど、王国の法では15歳未満が飲むことを禁じられているんだ


 普通のフォカッチャは、たくさんの塩をまぶしているから塩辛いけど、どうやら、バルバロッサさんが用意してもらっていたフォカッチャは、塩まみれではないみたい


 どうやって食べるのかを見ていると、トカロの生姜焼きを丁寧に二枚のフォカッチャで挟んで、サンドイッチに変身させていた


 成程

 だから、フォカッチャが塩まみれじゃないんだね





 バルバロッサさんが夕食を食べている間、僕は厨房にいる料理人さんたちに、街の南方のエリアで、料理を習うなら、誰に教えを乞うと良いのかを聞いていた



「俺のオススメは、"霧夜の白蛇邸"っていう旅館の厨房長をしているアイリスだな

 俺の可愛い妹弟子だぞ」



 いろんな人の話を聞く中で、一番多く挙がった名前が"霧夜の白蛇邸"の料理人頭を務めているアイリスさん、という人物

 アイリスさんは、冒険者ギルド本部の食堂の厨房長の妹弟子の一人で、他の兄弟弟子たちよりも優れた技術を持っているらしい


 厨房長さんが推薦状を書いてくれるらしく、明日の試験が終わったら取りに来て欲しいと言われた

 料理人さんたちが言うには、バルバロッサさんと一緒に南のエリアに行くなら、間違いなく"霧夜の白蛇邸"に行くことになるらしく、貰っておいて損は無いとの事だった


 少し申し訳ない気もするけど、アーツとレベルのためには手段を選んでいては効率が悪い

 だから、貰えるものは貰っておかないと、だね


 それに、料理は上手になって困るようなものじゃないから、腕を磨くことは良いことだらけだよね


 南に行ったら、早めに挨拶しに行かないとな

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