MS.5 平凡魔法使いは、デザートを満喫する


 お兄さんが作ってくれると言っていたプリンを待ち続けていると、食堂の厨房付近が賑やかになってきた

 そちらの方に視線を向けてみると、大きなグラスのカップに入った、特大級のプリン?のような・・・少なくとも、僕の知っているプリンとは全く違う、派手めな見た目のデザートを持ったお兄さんが、厨房から出てきたところだった


「よう、坊ちゃん

 おまたせ!」


「うわぁーー


 おっきいぃ!」



「厨房長のお手製、特大級パフェが到着したぜ!」



 どうやら、この大きなデザートは パフェ というものらしい

 それにしても、このパフェは特大級の名に恥じない程の深さを誇るグラスのカップに盛り付けられていて、その深さは僕の使っているワンドの長さよりも深く、さらにカップの上からはみ出る程たくさんのフルーツがのっかっている



 つまり、とにかく量が多い


 せっかく作ってもらったけど、夕食に定食料理を食べてから大して時間が経っていないのもあって、流石に、こんなにたくさんは食べられないよなぁ


 うーん、どうしよう?


「んぁ?


 どうしたんだ?

 坊ちゃん



 って、流石に食えんかこんなには

 さっきハンバーグ定食食ったばっかりだもんな


 そもそも、このパフェの量自体、大食い用と大して変わらんし、坊ちゃんみたいなお子様には流石にキツイよなぁ」



 指摘される前に冷静になれる思考力が残っていたのなら、もっと少なめに、小さいものを作ってくれれば良かったのに



「あっ、そうだ!


 なぁ坊ちゃん、これの食べきれない分を他の誰かにあげてもいいか?」



「それは、もちろんです!

 絶対に食べきれないと思うんですけど、余らせるのは、もったいないので、食べたい人がいるなら食べて欲しいです!」



「おう、そうか

 ありがとな


 なぁなぁ、そこのお嬢ちゃんたち

 確か、料理を注文するにはお金が足りないって言ってたよな?


 こっち坊ちゃんのパフェなんだがな、量が多すぎて食べきれそうにないんだよ

 それでよ、このパフェのあまりを貰うってのはどうだ?

 坊ちゃんも食べていいって言ってるからよ


 どうするかい?」



 お兄さんが声を掛けたのは、僕の座っている席から少し離れた席で、おそらく持参したのであろう水筒に入っている飲み物をコップに注いでいた、二人組の少女たちだった

 片方の少女は剣士のような出で立ちで、もう片方のおそらくエルフと思われる少女は、魔法使いのようにも、弓士のようにも見える曖昧な出で立ちで、両者共に、いかにも駆け出しの冒険者、と言わんばかりの雰囲気を醸し出していた


 そして、やっぱり、この食堂を普通に利用したらお金が要るのかぁ

 僕、バルバロッサさんのお世話になりっぱなしだなぁ

 仕方がないこととはいえ、自分自身を不甲斐なく感じるよ

 この恩に報いるためにも、明日は頑張って絶対に試験に受からないとな



「えっと、確かにあたしたちにとっては都合がいいですけど・・・本当に良いんですか?」



「う、うん

 僕一人じゃ、この量は食べきれないから」



「そう、ですか

 歳下の少年に奢られるなんて屈辱的ですが、あたしたちが今日の夕飯にありつけられていないことは事実

 ・・・背に腹は代えられません

 有難く、御相伴にあずからせていただきます」



「同席いただきありがとうございます」



 確か、ユリーカさんはいつも、こんな感じで返答していたはず

 合ってたかな?



「ん、意外

 ちゃんとしている」



「ちょっと!

 リルもお礼ぐらい言いなさいよ!


 そんなだから、エルフは社会性が無いとか言われるのよ」



「テト

 エルフに社会性を求めるのは間違っている


 エルフが氏族の郷を出ることは滅多に無いし、郷を出たエルフが郷に帰ってくることはもっと無い

 その上、エルフが郷を出る度に、外界の情勢や環境、常識も変わっていることが多い

 私たちの郷で、旅に出て郷に帰ってきた最後にエルフが帰ってきたのは、3000年くらい前

 その頃はまだ、エストレイマ王国もなかったらしいし、当時の外界記録の手記に記されている地名も人物名も、今じゃ一切残ってない


 よって、覚えるのは無駄」



「ハァー

 少なくとも、アンタが今、郷を出ている事に変わりはないんだから、覚えなさい!

 郷に入れば郷に従え、って言うでしょ!」



「?

 言わないよ?たぶん

 だって今、初めて聞いたもん、その言葉

 成立が新しいんじゃない?」



「くぅー

 人の揚げ足ばっか取りやがってぇ!」



 二人の言い合いが終わるまで眺めていようかなと思ったけど、どうやらパフェはそれを許してくれないらしい


「おーい、お嬢ちゃんたち


 早くしないと、パフェに使っているアイスクリームが溶けちまうぞ」



 お兄さんが言った通り、パフェの上部にのっている山が溶け始めていた

 あの山は、アイスクリームで出来ていたんだね、ってあれ?

 確か、アイスクリームってかなりの高級品じゃなかったっけ?



「あ、アイスクリームですか!?

 高級品をあんなに大きな山になるほど使うだなんて・・・なんと剛毅な」



 あ、合ってた



「おう、そうだな

 だが、アイスクリームの値段が跳ね上がる原因の冷やす工程さえどうにかなれば、後は安いもんよ


 うちの厨房には、氷魔法が使える奴が何人か居るからな

 アイスクリームが量産出来るって訳だ」



 なるほど

 そう言えば、勇者のパーティにいた頃はユリーカさんがアイスクリームをよく作ってくれていたけど、その時に、アイスクリームの材料自体はそこまで高くない、って言っていたような気がする


 魔道具が作れるようになったら、アイスクリームが簡単に作れる魔道具を開発してみるのも良いかもしれないなぁ



 そんなことを考えているうちに、お兄さんが、僕と同じテーブルの席に着いた少女二人組の分と僕の分を合わせて3組の小さなカップとスプーンのセットと柄が異常なほど長いスプーンを持ってきてくれたので、3人で少しずつ取り分けて食べ始めた


 僕が取ったのは、チョコレートソースがかかったアイスクリームとサクサクしているココアクッキー3枚、そして、元々出てくると聞いていたプリン


 少女たちの方はかなり空腹だったのか、ガツガツと勢いよく食べていっているから、パフェがみるみるなくなっていくのを唖然としながら眺めていた



 僕の身体の問題なのか、甘い物をたくさん食べると胸焼けしてしまうみたいで、美味しそうなパフェをたくさん食べられないことを少し残念に思う


 まだ、食べたかったのに


 でも、お腹が満足するまで、たくさんのアイスクリームとクッキーが食べられたから、まあいっか

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る