MS.4 平凡魔法使いは、事情聴取をされる


 ギルドの職員のお姉さんに案内されるがまま、着いて歩いていると、2階に並んでいる部屋の一つに入るように言われた


 大人しく部屋に入ると、この部屋に防音魔法と監視魔法が掛かっていることに気がついた


 お姉さんに促されるまま、向かい合わせのソファーに座ると、僕の真正面の位置にお姉さんが座った

 魔法に気が取られていて気が付かなかったけれど、部屋には給仕をする人が居たらしく、テーブルの上には、瞬く間にいい香りのする紅茶が淹れられた綺麗なカップが置かれていた


「さて、ボウヤ

 さっきの件、何があったのか、話を聞いてもいいかな?」


「えっと、その・・・」


「ん?

 あぁ、言葉にすることはまだ難しいか


 それじゃあ、事実確認からにしよう

 補足があったら、随時言ってくれ」



「分かりました」



「最初は重要なところからがいいな


 よし

 ボウヤは、ロアンタークに一方的に絡まれた

 これは間違いないかい?」



「はい、間違いないです」



「きっかけなんかに心当たりは?」



「えっと、貴族の人?は、ハンバーグが食べたかったらしいです

 でも、その人が来た時には、ハンバーグが売り切れ?てて、注文出来なかったみたいです

 それで、騒いでるところに、僕が頼んだハンバーグが出来たから貰いに行ったら、攻撃されました」



「成程な

 ボウヤはとんだ、とばっちりを食らわされたって訳か

 可哀想にな


 次、防御に魔法を使った

 これも間違いないか?」



「はい、使いました

 その、ごめんなさい」



「いや、

 そのことを責めるつもりは無い


 奴を捕まえた際、奴が振り回していたのは剥き出しの刃だった

 防御魔法も防具も無い身でまともに受ければ、一瞬で冥界行きだぞ


 それじゃ最後、

 私はボウヤの顔に見覚えが無い

 ボウヤも私が誰か分かっていない


 つまり

 ボウヤ、正式な冒険者じゃないわね?」



 お姉さんが言いたいことは要するに、正式な冒険者なら誰でも自分のことを知っているはず、ってことかな?

 と言うことは、このお姉さん、もしかして冒険者ギルドでは結構偉い人?



「は、はい

 ちょっと前に、入所試験の申請書を出したばかりで、明日試験の予定です」



「そうかそうか

 つまり、奴は、一般人の子供に八つ当たりで、一方的に致死をもたらしかねない攻撃したって訳だな


 ギルド規約でも、王国法でも裁けるって訳だ


 あぁ、そうだ

 ボウヤ、名前は?」



「う、ウルバス

 ウルバス・ロンディーニです」



「ウルバス・・・ロンディーニ!

 そうか、君が・・・


 ふふふ、奴は、どうやら貴族法でも裁けるような罪を犯してくれたようだね」



 貴族法?

 僕は、ただの平民だから、貴族法は関係無いんじゃないのかな?


 それに、貴族の人に恨まれるようなことをしたら、大変なことになるんじゃないのかな?



「心配しなくても大丈夫だ

 奴の処遇は君には関係無い

 安心してこれからの活動を始めるといい」



「あ、ありがとうございます」


「ん?

 ボウヤ、ちょっと待っててくれ


 はいはい、急にどうした?

 ・

 ・

 ・」


 すると突然、お姉さんは右耳に手を当てて、何かを喋り始めた



 お姉さんの右耳をよく見てみると、宝石のような物が付いた小さなイヤーカフを着けている


 あれは確か、テレフォンっていう魔道具だったはず

 遠距離での会話や情報伝達に役に立つから、作れるようになろうと思って、魔法陣は覚えたんだよね


 ただ、魔道具を作るために必要なアーツがいくつか習得出来なくて、1回は諦めちゃったけど、スキルが発現すれば、出来るようになるはずだから、魔法陣だけでもたくさん覚えているんだ


 ユリーカさんから貰った、魔法陣の記録帳を一冊だけポシェットから取り出して、数ページほど眺める

 開いたページには、偶然、映像記録の魔法陣が記録してあったので、つい、笑みがこぼれてしまった




「ん?

 あぁ、成程

 了解了解


 ごめんよ、ボウヤ

 話の途中に通話に出て


 ん?

 その、やたら分厚いノートは何か面白いことでも書いてあるのかい?」



「あっ、えっと、その」



「あぁ

 別に怒ってるとか、そんなんじゃないよ

 寧ろこっちの方が、怒られても仕方のないことをしたんだ


 ただ、ボウヤがすごく楽しそうに笑っているから、ちょっと気になっただけさ」



 どうやら、僕が思っていた以上に、僕の表情はにっこにっこだったらしい


「これは、魔法陣の記録帳です

 僕はまだ、必要なアーツが習得できてなくて、魔道具が作れないので、作れるようになった時のために、こうやって魔法陣を記録しているんです


 今、見返していたら、たまたま開いたページに記録されていた魔法陣が、映像記録の魔法陣だったので、こんな偶然もあるものなんだなぁって、思っていました」


「ふぅん、成程ね

 確かに、不意に訪れた偶然は、思わぬ笑みをも誘うと言うわね


 しかし、ボウヤは魔法使い、ねぇ

 しかも、魔道具が作れるとなると、やっぱり、間違いなさそうね


 ねえ、ボウヤ

 仮に冒険者になったとして、その後のことは考えているのかしら?」



「その、これから、バルバロッサさんにお世話になるので、最初の一年は、南の支部を拠点に活動します

 その先は、僕には目標があるので、その目標のために活動する予定です」



「そうなのね


 ありがとう


 これで聞きたいことは一通り聞いたから、もう大丈夫よ


 っと、そうだった

 南の支部に行くなら、明日の試験の合否は関係無いから、自己紹介しておくわ


 私は、フィオリーネ

 フィオリーネ・デサトフィア


 ここ、冒険者ギルド本部のギルドマスター兼、冒険者ギルドのグランドマスターの二つの役職を務めているわ」


 やっぱり、ギルドマスター・・・え?

 冒険者ギルドのグランドマスターで、デサトフィアの名前を持っている?


 と言うことは

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 えぇぇえっ!?


 じゃあ、お姉さんは、デサトフィア街の領主、デサトフィア辺境伯家の人ってこと!?



 ど、どうしよう

 僕、態度悪くなかったかな?

 ううぅ、大丈夫だったかなぁ?



「ふふふ、驚いてるわね

 可愛らしい


 ボウヤ、食堂に戻るなら、この札を持って行きなさい


 出来るだけ目立つように・・・はい、これを首に下げておけば、っとこれで大丈夫よ


 この札の返却は明日の試験の時でいいからね

 今日いっぱいは、首に掛けておきなさい」


「は、はい

 ありがとうございます、フィオリーネ様」



「んんー、ボウヤ

 冒険者ギルドのギルドマスター相手に、様付けはダメよ


 私のことは、グランドマスターって呼ぶか、あるいは、フィオリーネさんって呼びなさい

 分かったかしら?」


「は、はい

 分かりました、フィオリーネさん」


「よろしい

 それじゃあ、早く食堂に戻りなさい


 あぁ

 それと、おそらく、バルバロッサの上がりの時間は遅くなるわ

 だってほら、もう19時50分よ

 まだ、あっちの方の尋問は終わってないだろうし、長引きそうだからね


 バルバロッサが上がるまで、食堂に居れるように話を通しておくから、その間はゆっくりしていってね」


「は、はい!

 分かりました


 それでは、失礼しました!」



 部屋を出ると、急ぎ足で階段を降り、駆け足で食堂に向かった


 食堂に着くと、さっきのお兄さんが満面の笑みを浮かべて、


「おっ、坊ちゃん

 おかえり」


 と、手を振ってくれたので、


「戻りました!」


 と、声を上げてしまった


 食堂にいた他の冒険者さんたちの迷惑になったんじゃないか、と不安になって周辺を見回したけど、特に気にしている人とかはいなくて、ほっとした


 僕が首に下げている、フィオリーネさんに着けてもらった札を見たお兄さんは、愉快そうに笑っていた

 どうやら今回、僕のために特別なプリンを作ってくれるらしい

 プリン、という言葉に釣られてしまった僕は、別に悪くないと思うんだ


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