MS.3 平凡魔法使いは、騒ぎに巻き込まれたくなかった
バルバロッサさんから受け取った札は、ちゃんとポシェットにしまった
今お兄さんから受け取った札は両手でしっかりと握り締めて、落とさないように気を付ける
この食堂はかなり広いけど、今は人がたくさんいるせいで、空いてる席が殆ど無かった
周囲に視線を向けて、空いている席を探していると、窓際に並んでいる一人席のうち、一つだけ空いていることに気が付いた
その席に静かに駆け寄って椅子に座ると、不意に安堵のため息が零れた
な、何とか席が見つかって良かった
それにしても、この食堂、たくさん人がいるなぁ
っと、今呼ばれたのは812かな?
僕の番号は824だから、まだしばらく待たないとダメかな?
「おい!
今日のハンバーグ定食は終了しましただァ?
どういうことだよ
オレ様はここのエース
第10階級冒険者のロアンターク様だぞ!
チッ、
エースに対して、取り置き程度の労いも出来ねぇなんてなぁ
これだから、田舎の辺境ギルドは
自称本部の名が、聞いて呆れるぜ」
急に賑やかだった空気が崩れると、カウンターで受付をしているお兄さんに絡んでいる冒険者の声が聞こえてきた
すると、直ぐに周辺から
「第10階級っつたって、所詮は青札付きの寄生虫だろうが
本物の第10階級でも無いのに、貴族ってのは随分と偉そうなことが言えるもんだな」
「まあまあ、
そう言ってやるなよ
あいつは今、第11階級に昇級するための寄生先が見つからなくて、虫の居所が悪いんだよ」
「はんっ、
寄生虫だけに虫の居所が悪いってか
だいたい、寄生しかできねぇのに第11階級に上がられたって、ギルドは困りゃあしねえのによ
なんったて、流石の青札付きでも、冒険者登録契約書にサインは書かされるんだからな
あれを作ったのが、古の時代の国王様である以上は、貴族の出身だろうと、読んでません、知りませんでしたは通用しねえからなぁ」
といったような話し声が聞こえてきた
なるほど
今騒いでいるのは、貴族家出身の人なんだね
貴族の人の殆どは、関わると大変な思いをすることになるって、ユリーカさんがよく言っていたっけ
それじゃあ、関わらなくて済むように、できるだけ気配を薄くしておこう
「823番!
ベーコン入りの具だくさんポトフ、2人前」
ん!?
こ、このタイミングで823番?
じゃあ、まさか・・・
「824番!
日替わり定食ハンバーグの中、1人前」
「あァ?
オレ様のハンバーグはねぇのに、出来上がってねぇハンバーグ定食があったのか?
んじゃあ、それはオレ様が貰ってもいいよなぁ?
どう考えたって、それを注文したやつは、オレ様程有能じゃねぇだろ?」
「有能とか有能じゃないとか関係無いんだよ
これは、お前さんより先に来て注文した子の飯なんだよ
注文しないなら、さっさと帰れ!
迷惑だ!」
「何だとォ!?
貴様ァ、オレ様に口答えするな!
オレ様の父上に掛け合えば、貴様の首など簡単に飛ばせるんだぞ!」
「はんッ
自分の力じゃどうにも出来ないくせに、偉そうなこと抜かすなよ
だいたい、ウチは治外法権なんでねぇ
お貴族様とやらの権威や権力なんかは、一切通用しないんだよ」
貴族の人と受付のお兄さんが言い争っている間に、こっそりと定食料理のプレートを回収すると、前に貰って行ってた人たちと同じ様に、お兄さんの隣に食堂の札を静かに置いた
そうして、ゆっくりと料理を運んでいると
「取りに来るヤツが居ねぇんだから、オレ様が貰っても良いよなぁ
んアァ?
おい!
どこに行った、オレ様のハンバーグ定食!」
「ハンッ
あっさりと出し抜かれてザマァねえな
第一、あのハンバーグ定食はテメェのじゃねぇんだから、騒ぐなよ」
「あっ、アッ・・・おい!
そこのガキ!
貴様、オレ様のハンバーグを横取りするとはいい度胸だな」
ひ、ヒィ!?
み、見つかった!?
「おい、ガキ
そのハンバーグ返せよ」
そう言って、貴族の人は僕に近付いてくる
「ひ、人違いです!
これは、僕が注文したハンバーグ定食なので、僕のものです!
貴方のものでは無いので、僕は関係ありません!」
それだけ言って、急いで席に戻ったけど、やっぱり貴族の人は追いかけてきた
「おい、ガキ
テメェ、第何階級だァ?」
「ま、まだ、登録前です」
うぅ
何だか、嫌な予感がする
「ハッ!
冒険者ですらねぇガキが、オレ様のエモノ横取りするとは、いい度胸だなぁ
貴様、許さねぇぞ!」
そう言った貴族の人は、勢いよく抜剣し、その刃で殴りかかって来た
あまりの展開に唖然としてしまった僕は、殆ど無意識で、十八番の防御魔法である
貴族の人が、暫く攻撃と暴言を続けていたけど、じっと魔法盾の中に篭って耐えていた
すると、騒ぎを聞きつけたギルドの職員さんがやって来て、貴族の人は連れて行かれた
僕も事情を聞きたいと言われたけど、
「食べてからじゃダメですか?」
と聞くと
「食べ終わるまで待ちますね」
と、言ってもらえたので、初めて食べるハンバーグをゆっくりと味わう
ハンバーグの美味しさに、つい頬が緩んでしまったのか、残ってくれているギルド職員のお姉さんに、
「ふふふ、ハンバーグが美味しいのかな?
ボウヤは可愛いわね」
なんて言われてしまったので、少しだけ恥ずかしい
食べ終わった後、受付にプレートを返しに行くと、受付のお兄さんに
「すまんな、坊ちゃん
迷惑掛けてよ」
と言われたので、
「ハンバーグ、とっても美味しかったです
紹介してくれて、ありがとうございました」
と返した
小さい頃から、お母さんに散々口酸っぱく言われてきた感謝の言葉を伝えること
お母さんが言うには、謝罪してきた相手に非が無い場合は、許しようがないので、許すんじゃなくて、感謝を伝えるべきとのことで、今回の件は、確かに困ったことに巻き込まれはしたれけど、別段、お兄さんが悪かったという訳じゃない
今回の場合は、運が悪かったとも、間が悪かったとも言える
だから、感謝を伝えた
去り際、お兄さんに、
「坊ちゃんは立派な大人になれるぞ」
って、言ってもらえたことが嬉しくて、ずっと落ち込みっぱなしだった気分は、とっても良くなったんだ
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