第1章
MS.1 平凡魔法使いは、正式な冒険者を目指す
この街、デサトフィアには、世界最大級の冒険者ギルドが存在している
その名も、『冒険者ギルド本部』
何を隠そう、このデサトフィアの冒険者ギルドは、ギルド本部なんだ
ただし、この名称には注意が必要で、王侯貴族の方々の前では、本部を付けて呼んではいけないらしい
というのも、エストレイマ王国の王侯貴族の方々の多くは、冒険者ギルドの本部が、王都ではない場所にあることが、非常に気に入らないんだって
それで、殆どの方が、『自称本部』と呼んでいるらしいんだ
そう考えると、デサトフィアの冒険者ギルドを本部と呼んでいた、貴族家出身のアルトさんやユリーカさん、エストレイマ王国の王子であるヴィンディオル様は、器の大き方達だったんだなぁ
今の僕は、国属の魔法使いじゃなければ、冒険者ギルドに登録された冒険者の魔法使いでもなくて、ただのフリーの魔法使い
エストレイマ王国では、フリーの魔法使いに就業の義務(?)というものが存在している
つまり、どこでどんな仕事をしていて、どんな生活を送っているのかということを、定期的に国に知らせることが出来る状況、を作っておかなくちゃいけないんだ
理由、は知らないんだけど、勇者のパーティを出た以上は、早く何かしらの仕事を始めないといけない
だから、冒険者になろうと思ってる
冒険者になれば、フリーの魔法使いであっても、どこかに就職しなくて良くなるから、安心なんだ
デサトフィアにある冒険者ギルドの数は、全部で5つ
街の東西南北の各エリアにギルド支部があって、中心街にギルド本部が位置してる
今、目指しているのは、さっきまで利用していた北の支部じゃなくて、ギルド本部
だいぶ遠いけど、急げばまだ、日が落ちるまでには着くはず
ギルド本部で冒険者登録をすれば、この後、どこの冒険者支部に行っても、直ぐに活動が開始できるんだって
せっかくデサトフィアに居るんだから、冒険者ギルド本部で、冒険者登録するのが一番・・・なんだけど、ギルド本部と言うだけあって、何故か入所試験があるんだよね
とはいえ、今日はギルド本部に着いたら、たぶんだいぶ遅い時間になるはずだから、試験自体は明日やることになるのかな?
戦闘試験とかあったらどうしよう
武器は鉄の
でも、僕が今持っているお金は大銀貨5枚分で、たったの2500メルトだけ
これじゃあ、宿屋で3泊できるかも怪しい
特に中央街に建っているような立派な宿屋は、高いからね
っと、見えた!
あの大きなお城みたいな建物が、冒険者ギルド本部だよね
夕暮れ時になって、クエストを終えた冒険者たちが帰ってきたからか、大通りはたくさんの人で溢れかえってる
人混みの中を潜り抜け、意気揚々と冒険者ギルドのエントランスに駆け込んだ
エントランスの床は真っ黒だけど、
受付カウンターが並んでいるところの床は赤くて、大きな台がいくつか置かれているカウンターのところの床は青い
スイングドアの奥にいくつものテーブルがあって、人が集まって賑やかそうなところの床は黄色いから、床を見ればどこにいるかだいたい分かるようになっているみたい
立ち並ぶ受付窓口をゆっくり見渡していると、右奥の方に、空いている受付があった
そこまで速歩で駆けて行くと、そのカウンターの中では、とても厳つい顔をしたおじさんが、腕を組んで仁王立ちしていた
物珍しさもあって、驚きながらおじさんの様子を見ていると
「なんだぁ、ボウズ
冷やかしはお断りだぞ?
用が無いなら、さっさと帰れ
ここは、ガキが来るような所じゃねぇぞ」
と、言われてしまった
おじさんの目付きが鋭くなって、少し怖かったから、震えそうになる声を抑えるために
「僕は、冒険者登録をするために来ました!
試験の内容と日程を教えてください!」
って、大きな声で返してしまった
そしたら、
「ハァー
ったく、威勢のいいガキだぜ
まずは、この申請書を書け
字が書けねぇなら、代筆してやる
ボウズ、読み書きは出来るか?」
って、聞いてくれた
このおじさんは、顔や表情はちょっぴり怖いんだけど、もしかしたら、心はとっても優しい人なのかもしれない
「えっと、生活文字は書けません
でも、読めはします
魔法文字と古代文字は書けます、読めます」
「ん?
魔法文字と古代文字の読み書きは出来る?
てこたァ、ボウズ
代筆が必要だな」
「は、はいっ
お願いします」
「んじゃあ、ボウズ
名前は?」
「ウ、ウルバス
ウルバス・ロンディーニです」
「ほいほい
んじゃあ、次
職業と得意武器」
仮に武器を新調したとして、今武器登録をしたら、もしかして、登録した武器以外は使えなくなるのかな?
「ま、魔法使いです
えっと、今の武器は、ナイフとワンドです
それで、あの」
「なるほどな
あと、適性検査さえすれば、職業と武器の登録は変更できるから安心しろ」
ま、まさか、心を読まれてる?
「あ、ありがとう、ございます」
「んや、今のボウズと似たような表情をした奴らは、だいたい、そういった質問をしていたってだけだ
んじゃあ、最後
生年月日
年齢だけでも良いが、そうすると年齢制限が有るクエストやダンジョンなんかの制限解除日が、誕生日じゃなくて登録日になるから気を付けろよ」
「えっと、それは
・
・
・
・
・
・
・
でお願いします」
「ほい、
これで申請書の出来上がりだ
明日の朝にでも来れば、試験の開始時間と内容が告知される
んでだ、ボウズ
お前、デサトフィアのガキじゃねえんだろ?
住むところの当てはあるのか?
物価高が続いてるせいで、この近くの宿は無駄に高いぞ
安い所でも、一泊5000メルトだ」
えっ!?
一泊、5000メルト!?
僕の今の全財産じゃ、全然足りない
ど、ど、ど、どうしよう
武器を売って、ってそれじゃあ、冒険者活動を始めた時に困るし
ん、んー
どうしたものか
「その顔じゃ、やっぱり金が足りなさそうだなぁ
ったく、しょうがねぇなぁ
ボウズ、今回だけ特別だ
俺が今住んでる宿に泊めてやる
あと、エントランス横の食堂でこの札を見せれば、飯が貰えるからな
俺の仕事が終わるまでは、そこで、飯でも食って待ってろ」
「えっと、
い、良いんです、か?」
「ただし
俺は来週から、南の支部に異動だ
だから、ボウズの試験の合否に関係無く、南の支部でこれから、最低でも1年間活動することが条件だ」
デサトフィアと魔族の領域が接しているのは、北部と西部
そして、勇者のパーティは東から来た
つまり、南部は程よく安全で、尚且つ僕にとっては未知の領域
そして、1年という期間は、勇者のパーティから隠れて修行を積むには丁度いい長さ
条件も僕にとって都合の良いことばかりで、一周回って怪しさを感じてしまうくらいだ
「出ました!
アーバイン大将閣下の可愛がり
安心しろ、ボウズ
閣下はガキが苦労している姿を見ると、世話を焼きたくて仕方がなくなる病気なんだ
閣下はな、ガキの世話を焼きまくって、軍で大将にまで登り詰めた、唯一無二の偉人だぞ
頼れ、頼れ!」
お隣のカウンターで受付作業をしていた、お兄さんがおじさんのことを教えてくれる
うん
やっぱり、おじさんはとっても優しい、良い人なんだね
「喧しいわ!
他人に茶々入れる前に、テメェは、自分の仕事を片付けろ!」
「はい、はい
わかりました、わかりました
じゃあな、ボウズ
達者に暮らせよ
あっ、
もし出世したら、ここに遊びに来てくれよ
僕は、ゼーレン
新規登録時にゼーレンさんにお世話になった、ってギルマスの前で言ってくれるだけでもいいからさ」
「さっさと、仕事に戻れ!」
「はいはい
じゃあね、バイバーイ」
ゼーレンさんは、なんだか風のような人だった
「あっ、その
よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそな
俺は、バルバロッサ
バルバロッサ・アーバインだ
ボウズ、その札落とすなよ
俺の仕事が終わるのは20時だ
それまで、食堂で大人しくしてろよ
食堂は黄色い床のところだからな」
「わかりました
ありがとうございます」
一時はどうなるかと思ったけど、バルバロッサさんのお陰で、何とかやっていけそうだ
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