五章 店長メイからの発表 367話
「朝から全員よく集まってくださいました。今日は皆さんに重大なお知らせがあります」
店長のメイは、メイド喫茶黒猫甘味堂のスタッフ全員に対して、緊張を隠し切れない様子で語った。お休みの子まで朝から集められた状況など、オープニング以来なかった。いつにないメイの行動に、スタッフたちも身構えた。
「え~、メイド喫茶黒猫甘味堂ですが、この度三号店をオープンすることになりました!」
「「「わ~~~~~」」」という歓声が上がる。腕を取り合い飛び跳ねる者や、抱き合って回り出す者も出てきた。
「お静かに!」
メイの声が響く。メイドたちはメイを見つめた。
「このメイド喫茶黒猫甘味堂は、全ての女性の憧れのお店です。お客様も従業員も全てが幸せになれる店です。そうですよね」
「「「はい!!!」」」
「ここで働きたいと思っている女性がまだまだ沢山いるのも分かっていますよね」
「「「はい!!!」」」
「そこで、みなさんには、黒猫甘味堂の三号店を開くために協力をしてもらいたいのです!」
「もちろんです!」
「何でも言ってください」
「何をすればいいのですか?」
スタッフは口々に答えた。みんなテンションが上がりまくっている。
「ありがとう! それでね、三号店の場所なんだけど……。隣町のオヤマー子爵領になります」
「「「はい???」」」
「それと、メイド喫茶ではなく『執事喫茶』になります」
「「「???はぁ~???」」」
スタッフ一同混乱した。王都でなくオヤマー? 執事喫茶?
初めて聞く言葉にとまどうメイドたち。副店長のランがメイに聞いた。
「あの、店長……。執事喫茶って……?」
「執事喫茶。それはね、姉猫様が最初に来た時、あの場にいたスタッフは分かるよね。メイドではなく執事のように振舞って、お嬢様方を虜にしたあのご雄姿! あれよ! う~んと……。あの場にいなかった子にはわかりづらいわね。あれよ、ほら『少女歌劇団』! 年に一回二週間だけ公演が行われる催し物があるでしょう! 全員女性なのに男役が素敵なのよね。みんな、見に行ったことあるでしょ!」
「「「ああ」」」と一斉にうなずいた。
「あの劇に出てくるような男装の麗人からおもてなしされたら、みなさまはどのように感じますか?」
「「「最高ですね!!!」」」
メイドたちはうっとりとしながら答えた。
「そう。私達メイドが平民の女性をお嬢様にするこのお店は、ある意味完成された夢の広場です。しかし、別の切り口があってもよいのではないでしょか。同じお店を何件も立てるより、それぞれ特徴の違う姉妹店があっても楽しそうではありませんか? それが黒猫甘味堂三号店、『執事喫茶・黒猫甘味堂』なのです!」
店内は割れんばかりの拍手と黄色い声であふれた。そんな中、一人のメイドが手をあげた。
「あのう、メイ店長」
「なんですか? キジネコさん?」
「さっきでた少女歌劇団なのですが」
「はい」
「私、そこの劇団の代表です」
「「「はいい???」」」
キジネコと呼ばれたメイドは、息を大きく吸うとオーラをまとい隣のメイドのあごに手をかけた。
「クリスティーヌ。君の美しい瞳は、薄汚い僕の罪を照らす太陽のようだ」
それは、以前行われた劇中のセリフ。低い声でささやく甘いセリフは、店内のメイド及びスタッフ全てを魅了した。
「「「キャ――――――」」」
「ナノ様!」
「ナノ様よ!」
「な、ナノ様! なぜここに? だって面接の時そんなことは何一つ……」
メイは驚いて慌てふためいた。大ファンの劇団の最推しが自分の下で働いていることにいままで気がつかなかったのだから。
混乱して取り乱しているメイを、チーフのリンに休憩室へ連れていかせたラン。改めて副店長として挨拶をはじめた。
「え~、店長の話はこれで終わりにします。詳細は今後決まり次第話があると思います」
実際のところ、何も聞いていないし話すこともないのだから仕方がない。それでも副店長として、メイの代わりをしなければと頑張った。
「いい? 今日も一日、これから来られるお嬢様のために、明るく楽しく上品な接待をいつものように行いましょう。キジネコさんは、申し訳ありませんが今日はシフトから外れて下さいね。他の方々が浮足立ってしまいそうですので。後で店長含め、私とお話いたしましょう。それでは朝のコールを行います」
そう言うと、店内のスタッフ全員が姿勢を正した。
「全てはお嬢様達の笑顔のために」
「「「全てはお嬢様達の笑顔のために」」」
「今日も一日!」
「「「最高のサービスを!」」」
「私達は」
「「「黒猫甘味堂」」」
コールが響いた。さっきまでの浮ついた空気はなくなり、スタッフ一同開店準備をてきぱきと始めた。
全てはお客様のために。メイド喫茶黒猫甘味堂、まもなく開店の時間です。
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