四章 サチの困惑 354話

「僕は、そんな風に流されたり頼りなかったりする、以前には妻もいた男だけど、サチさん、結婚を前提に僕とお付き合いしませんか。無理にとは言いませんが、嫌いでなかったらぜひ。大切にします! お願いします」


「へっ! あたし?」


 は? へ? な? ば? こ?

 だめだ! どういうこと?


 心臓がドキドキした。顔があっついよ~!


 今店長、あたしに「お付き合いしたい」って言ったんだよね? え? 「結婚をずえんとぅえうぃ」に? ずえんとぅえうぃにってなんだ? ああ前提にか。って! それってやばくないの! 本気? なに? なんなの一体!


 こ……腰が抜けそう。足に力が入らないや。ええと……。とにかく逃げよう! そうだ逃げるのも兵法ってメイド長師匠も言っていたわ。「ヤバいと思ったら、一旦引いて体制を整えなさい。あなたみたいに、強さを求めすぎては引くことの大切さが分からなくなるから。覚えておくのよ」そう言ってたわ! メイド長師匠、今がその時なんですね! あたしはスーハーと深呼吸をし、丹田に力を込めて、一気に瞬歩を使って開いていた窓から脱出した。



 どこにも行き場がない。どうしたらいいんだろう。

 店長の事そんな風に思ったことなかったよ。

 どうしよう。誰かに相談したいな。


 気がつくと、あたしはレイが住んでいる女子寮の前にいた。


「どうしたのサチさん。そんなとこで突っ立ていて」


 イリアさんが私に話しかけた。


「あ、あの……。イリアさん。相談してもいいですか?」

「なに? めずらしいね。あたしに相談? いいよ。入って」


 イリアさんは事情も聞かずに受け入れてくれた。


「ただいま~。カンナさん、今日サチさん止めていい?」

「おやおかえりイリア。なんだって? サチさんを泊めたい? レイシアじゃなくてあんたがかい? どういう風の吹き回しだなんだい?」


「何か分かんねーけど、レイシアがいない時にあたしに相談したいってサチさんが来たんだよ。だったら相談に乗ってやるのが人の道じゃないの?」

「おや? あんたに相談? まあ、今日は休みの扱いだから、まあいいさ。それより何かあったのかいサチさん。私が聞いてもいいかい?」


「はい。……それがその……、私……、プロポーズされたみたいで……」

「プロポーズだってぇ!」

「そこんとこ詳しく!」


 立ち話はなんだからと、食堂のイスに座らされた。


「待ってな。まだ話すんじゃないよ。こういう時はお茶とお菓子を用意してからだよ! レイシアがくれたクッキーがあるから出しとくよ。お湯も沸いているからイリア入れな」

「お茶なら私が」

「「主役はすわってな!!」」

「……は、はい」


 カンナさんがクッキーをセットし、イリアさんがお茶を入れてくれた。女子のお茶会の準備ができあがった。


「さあ、始めようかね。サチさん何があったんだい?」


 あらためて話せって言われると恥ずかしいな。


「その……。私が寝泊りさせて頂いている喫茶店の店長から、その……、『結婚を前提にお付き合いしたい』と言われました」


「「キャ―――――!!」」


 お二人の黄色い声が響く。イリアさんが「そこんとこ詳しく!」って言ってるけど、本当にそれしか言われていないし。


「さちさん。あんたいくつになった?」

「19歳です。12月になったら20歳ですね」

「結婚適齢期じゃないか。相手の男は?」

「分かりません。以前結婚していたとおっしゃっていましたから30歳くらいではないかと思いますが」


「10歳差ね。アリだわ!」

「それより、結婚していただって? 大丈夫なのかい?」


「はい。御病気で亡くなったそうです」

「そうかい。それはしかたがないねぇ」


「サチさんはどう思っているの? 相手の事」


 イリアさんがそう聞いてきた。


「え? そうね。いい人ですよ。優しいし。心配してくれるし。笑顔が可愛いんですよね。なんか守ってあげたくなるって言うか」


「「キャ―――――!!」」


「惚気? それはのろけなの?」

「え、そんなことありませんよね」

「十分のろけに聞こえるよ、まったく。あんたも悪い気はしていないことはじゅうぶん分かったよ」


 そんなことないよ~! って口に出して言えなかった。なんでだろう?

 イリアさんに話を引き出され、カンナさんに突っ込まれながら、女子トークは続いて行った。あれ? あたし店長のこと悪く思ってないや。というか気になっているの? あれ? そうなのかな?


「でも私はレイシア様の侍従メイドですから。よく考えたら結婚なんてできませんよね」


「そんなことないわ!」


 いきなりポエムさんが現れた。いつからいたのよ。


「最初からいたわ。あなたが告白されるところもちゃんと見させて頂いたわ」

「何ですって!」

「あなたの慌てふためく姿、おいしく頂きました」

「うわあ―――――」


「それはそうと、侍従メイドでも結婚している方多いですよ。私もそうですし、あなたの所のメイド長も既婚者よ」


「「「そうなの? ポエムさん既婚者だったの???」」」


「あら、言ってなかったかしら。子供もおりますわ」


「「「ええ―――――!!!」」」


 驚きの事実! 一瞬だけ私の悩みよりすごい事実が勝ってしまった。そのまま4人での女子会は続いた。



「ただいま~。遅くなりました」


 レイシア様が帰って来た」


「あら、サチにポエムさん。どうしたんでしょうか? なにかあったの?」


 みんなが私を見つめる。そうよね。私の問題は私が言わないと。


「レイシア様。お話があります」

「あらサチ? どうしたの?」

「私サチは、黒猫甘味堂の店長から、告白されました。結婚を前提に付き合ってほしいと!」


「ええええええ―――――!」


 レイシア様は混乱したみたいだ。とにかく問題は山積み。私の気持ちもあやふや。


 レイシア様も女子会に混ざり、明かりを魔法で出してくれたので、遅くまで5人でのお茶会は続いた。

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