メイの迷走 198話
私が倒れた日にレイシア様が帰ってきた! 私の、私と黒猫甘味堂の危機を救いに! ランとリンが私のお見舞いとレイシア様のおみやげのクッキーを持ってきてくれた時、私には分かった。レイシア様は私のために帰って来てくれたんだと。
クッキーは体調が戻ってから食べよう。明日はレイシア様に会える! 今日は休まないと。
私はレイシアが帰ってきた喜びと興奮を抑えようと必死になって休んだ。レイシア様の隣にいるのは私しかいない。明日はがんばるぞ!
ところが、私が朝早く黒猫甘味堂に行くと…………。
そこには、レイシア様と同じ黒のメイド服、同じ猫の髪飾りを付けた大人の女性がいた。仲よさそうに談笑している。邪魔しないと! 私は必死に駆け寄った。
「レイシア様~! お帰りなさいませっ!」
飛びつくように抱きつこうとするのを止められた。そして
「なんですか、あなたは!」
と羽交い絞めにされた。誰よあんた!
「私は、レイシア様の護衛兼侍従メイドのサチです。お見知りおきを」
「私はレイシア様の一番弟子のメイ」
私は張り合うように言ったわ! でも、
「一番弟子? あら、それにしては言葉遣いがおかしいわね。落ちこぼれなのでしょうか?」
「キ――――」
言い返された。しかも的確に!
「メイさん、落ち着いて。サチも。これから一緒に頑張らないといけないんだからね」
私、この女嫌い! この時はそう思っていた。
◇
「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」
私たちが声を高くして挨拶をする。しかし、あの女は声を合わせない。
「サチさん! 声出し……」
注意しようとサチを見ると、声をかけようにも一部の隙も無い。優雅にお客様の前に立つと、低いセクシーな声で話した。
「お嬢様、こちらへお座りください。ああ、肩に糸くずが。失礼」
お客様は真っ赤になりながら「兄猫様」とつぶやいていた。うん、心の中は大変なことになっているだろうね。でもなに? あの優雅な動き、男前な接客。こんなやり方があったなんて! 私は引き込まれた。サチの接客に! ぼうっとして見ていた私にレイシアが「いいでしょう、サチの接客。執事の服着せてみたいんだけど」と言って去っていった。
…………執事服のサチさんの接客⁉
私はうなずくしかなかった。見たい! 着せたい! やらせたい! 妄想が暴走してしまった。
◇◇◇
次の日からお店は休みになり、私たちにサチさんが特訓をつけてくれた。
サチさんの特訓は厳しかった。しかし、それがいつしか快感に変わり……。
「ほらそこ、足は上にあげない。膝を曲げてすべるように」
「「「はい!」」」
「目線は水平に。下を向かない! 広いエリアを見渡して」
「「「はい!!!」」」
「あくまで静かに。あくまで優雅に。指先まで緊張感をわすれずにね」
「「「はい!!!」
メイド、素晴らしい! こんなに奥が深かったなんて! サチ様最高!
メイドに一生を捧げるのもいいかも。そんな気分にさせられた。
◇◇◇
家族で食事が終わった後、デザートにレイシア様からのクッキーを振舞った。一枚ずつだけなんだけどね。とっても変わったジャムが練り込まれていておいしいんだ。
クッキーを食べた後、お父さんがおかしくなった。どうやら貴重なジャムが使われているらしく、私に出所を聞いてきた。私は黒猫甘味堂とレイシア様の事を話した。
「学園の生徒? そうか、なにか繋がりがあるのかもしれないな。メイ、私にその子を紹介してもらえないか」
そうして、お父さんとバイト先へいくことになった。
◇
「メイちゃんって、商会の子供なのね」
レイシア様が目をキラキラさせながら言った。
「本好きだから文字は読めるし、もしかして計算も出来るの?」
「少しくらいでしたら」
「すごいわ! 学園の一年生は出来ない子が多いらしいのに」
「そうなんですか?」
「そうみたいよ。ねえ、この問題分かる?」
「ええと、13ですか?」
「正解よ。じゃあこれは?」
レイシア様が次々と問題を出してくる。だんだん難易度が上がってきた。もう無理。
「うん。ここまでできればもうすぐね。メイちゃん帳簿付けてみない?」
えっ、帳簿?
「ええ。やり方は教えてあげるわ。私が一対一でね」
レイシア様と一対一⁉ よろこんで! なんでもやります!
気がつけば、学校に行っている兄より計算が、いや、これは計算じゃない! 数学が出来るようになっていた。
私はいつの間にか、計算がすこぶる得意な小説好きの『メイドリーダー』になっていた。
私は一体どこに行こうとしているんだろう。
いいえ、考えるな! レイシア様とサチ様に身を委ねるのよ。
あのお二人にまかせましょう!
メイド最高! がんばるよ!
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