五章 本好き少女の決意 129話

「ホントにあの子土日しか来ないの?」

 私は本を読む手を止めて、店長にたずねた。


「だからメイちゃん、あの子学園の生徒だから平日は来られないんだって。何回目? それ聞くの」


 だって……。私が初めてのお客さんで、私がみんなに教えたのよ。おかげでいつの間にか土日は入れなくなるくらい盛況になって、私がゆっくり出来るのは平日だけになってしまったわ。あの時の、お嬢様扱いの特別感は二度と味わえないくらい忙しい土日。まったくの暇な平日。いや、平日も『ふわふわハニーバター、生クリーム添え』のおかげでそれなりにお客が入るようにはなったけど……。


 私のお嬢様計画は、うまくいきすぎて破綻した。


 つぶれそうだった店は息を吹き返し、あの子がバイトをやめることもなくなったけどさ……。いつの間にかファンクラブまで出来ているし。


 そう思った時、あの子がやってきた。


「あら、メイさんいらっしゃい。店長明日の入りですけど30分ほど遅くなります。馬小屋の掃除の予定がずれこんじゃったので」


 いつもメイドの格好をしているあの子は、今日は貴族の学園の制服を着ていた。本当に貴族のお嬢様なの⁈


「あの、私の名前、覚えているんですか?」


 私が聞くと、あの子はいつもの微笑みで答えた。


「ええ。店長がいつも言っているので覚えました。私が来る前からの常連さんですってね。いつもごひいき有難うございます」


 店長ありがとう! この店通っていてよかった!


「このお店、好きなのですか?」


「ええ。ゆっくり本を読めるので通っています!」


「本好きなのですね。あら、その本は……」


「イリア・ノベライツの『制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~』です。私の一番のお気に入りなの」


 私がそう答えると、怪訝けげんそうな顔をして「イリアさん、これだけは見せてくれないのよね」とつぶやいていた。もしかして知り合い?


「ところで、ため息をついていたようですが、なにかありましたか?」

「そうよ。そうなの!」


 私は思い切って言ってみた。


「私はあなたのおもてなしに感動したの! あなたにお嬢様扱いをいっぱいしてもらいたかったの。そのためにお客を増やしたんだけど……。お店が忙しくなってゆったりとお嬢様になれなくなったの。さみしいの」


 私は何を言っているんだろう。そんなのこの子に関係ないのに。どう見ても年下の彼女に……。


「そうですか。でも今のままではむずかしい……。そうだ、一緒に働きませんか?」


「えっ?」


「今のままでは、誰に対してもこの状況が精一杯ですし、お嬢様扱いする側に立つのも楽しいものですよ。一緒に働きませんか?」


「一緒に? あなたと?」


「ええ。楽しそうではありませんか? 二人でおもてなしするんです」


 いいかも。大好きなこの子と働くの。


「もしかして、平日も働けませんか? 私、平日は働けないのですが、このお店が心配で……」


「大丈夫よ! 私に任せて!」


「よかった。じゃあ私がメイドの基本教えるね。改めましてメイさん。私はレイシア・ターナー。です。レイシアって呼んでください」


「あ、私はメイです。よろしくレイシア」

「よろしくメイ」


 そこまで言って、店長が声をかけた。


「僕を無視して話進められても……」


 私たちは懸命に店長を説得した。

 その後私は両親を説得した。


 私はレイシアとメイドをするんだ。

 そして、レイシアと仲良くなるんだ!

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