第4話 お向かいさん
引き続き、父の話です。
父は大動脈瘤という持病を抱えており、定年退職後は定期的に、検査あるいは切開手術入院をしていました。
それでも気の強さからか、母には一言も病状を漏らさず、1人で管理していたそうです。
その母が聞いた話です。
その日。
父は夜中に無性に喉の渇きを覚えて、台所に行ったそうです。
シンクで水を飲み終え、はぁっと一息着いた時、窓の外に目をやりました。
僕の実家は当時、広い畑に隣接していました。
今ではすっかり住宅が建っていますが、当時は(子供の目から見て)2~300メートル向こうまで、畑が広がっていました。
その畑の中間点。
月明かりの中、誰かが立っているのが見えます。
「外国人に見えたんだよなぁ。」
とは、父の言葉。
その日は喉も潤ったし、そのまま寝たそうです。
数日後、やはり夜中に喉が渇いた父は、台所で水を飲みました。
そういえば、変な外人いたな。
何気に畑を見てみます。
やはりいました。
ただし、外人はグッとこちらに近寄っていました。
後姿を見せて、ただ立っているだけです。
ああ、立っているなぁ。
畑の中に、真夜中立っている事に、その時は特に変に思わなかったそうです。
そんな事が何回か続いたある日、同じように水を飲んで畑を見たら、その外人は直ぐ窓の外に立っていました。
たちまち逆上した父が真夜中にも関わらず怒鳴りつけると、目の前で外人は薄くなって消えて行きました。
「変なもん見ちったなぁ。病気のせいかなぁ。」
とはいえ、喉の渇きは治ったので、そのまま寝たそうです。
その後も何度か夜中の給水は続いたそうですが、その外人は後を向いたまま、日に日に離れて行きました。
やがて。
畑を挟んで実家のはるか向かいに、真夜中救急車が止まっているのが、2階の寝室から見えました。
町内の掲示板に、その家の葬式の日程が書かれていました。
「俺があの時怒鳴ってなかったら、あれ俺だったなぁ。」
と後日母に言ったそうです。
僕がその話を聞いて一番不思議だったのは。
台所の窓はすりガラスで、おまけにブロック塀が直ぐそばに立っているので。
窓の外に誰か立っていてもわからない。
というか、角度的に見える範囲なんか大してない。
更には窓が開いていたとしても網戸は閉まっているし、そもそも電気をつけた室内から暗い畑が見えたかどうか?
当人も死んだ今となっては、作り話かどうかの確認も取れないんですけど。
個人的には、怪談話として出来過ぎじゃねと思うんですが。
普段全く冗談を言わない人が、母にだけ話したってあたりが、なんとも不気味で。
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