第3話 イタズラ

うちの父親の話です。

父は山あいの谷間に鎌倉以降住み着いている一族です。


うちの一族はその集落を取り仕切る庄屋でした。

名字帯刀が許されていましたから、それなりの家柄だったんでしょう。


今はもう限界集落と化して、住んでいる人は数戸になっています。

僕の家も、江戸末期の古い建築様式という事もあって家屋だけ、自治体の要請で残してありますが、祖母が物故してからは空き家になっています。


時々、管理している叔父が換気の為に行く様ですが。


そんな山の中なので、一族の墓は畑の隅にまとめてあります。

苗字は全家同じ為に、隠し名(四郎左衛門・五郎左衛門など)を掘って、墓石の区別をつけている、そんな田舎です。


僕の父は、そんな農家の次男坊として、かなりヤンチャに育ちました。

僕は今で言う、逮捕案件なDVを受けて育ちましたから、若い頃の事なんか想像もしたくありません。


そんな父が、家族で帰省したある時、僕と弟に言いました。


「夜は火の玉が飛ぶから、お前ら外に出るなよ。」


その年は珍しく一泊する予定でした。

だから、飼い犬(多分、白いスピッツ←時代ですねぇ)も車に乗せて来ていました。


子供達には、そもそも農家の高い天井も、畳を歩いている謎の虫も怖くて、外に出る気はなかったんですけどね。


それでも、墓の見えない庭で花火なんかをして楽しんでいましたよ。


「お父さんね。昔、人魂に怒られた事があるんだよ。」


お婆ちゃんが変なこと言うまでは。


「お父さんがね。網で人魂を捕まえて来た事があったの。人魂って結構飛ぶでしょ?」


いえ。

見た事ありませんけど。


「人魂は、網から逃すと、すぅって開けっぱなしの窓から出て行ったんだけど、次の朝、お隣のお父さんが怒鳴り込んで来たのよ。夢の中で気持ちよく飛んでたら、あんたんとこの次男坊に網で捕まったってね。」


夢?

夢なのに怒りに来たの?


「でもね、隣のお父さん、うちのお膳にあった食べ物、全部当てたのよね。多分、本当に人魂となって、お父さんに捕まって、家の中をしげしげ見てたのねぇ。」



その隣のお父さんは後日、首を釣ってしまい、その家は断絶しました。

今ではただの空き地になっています。


結局、僕と弟は火の玉を見ることは出来ませんでした。


後日のことになりますが、やはり帰省した日。

その日は日帰りで筍堀りに行きましたから、田舎に着いたのは、まだ7時とかそのくらいだったと思います。


田舎の広いお屋敷ですから、部屋を探検するのが田舎に行った時のマイルールにしていました。


仏間の隣、襖ではなく重い木の引き戸を開けた時の事です。

誰かが寝ていました。


お父さんっぽい人と、お母さんっぽい人と、その子供っぽい人でした。


あ、音出しちゃって悪い事したな。

まだ寝てんのに。

慌ててそっと板戸を閉めました。 


因みにその親子。

その日、15時くらいまで居ましたけど、そのあと一度も見てません。

誰だったんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る