第二話 クシャナ
一番手がクロトワさんでしたので、二番手は彼の上官であるクシャナ殿下について書いていこうと思います。
・内親王殿下
クシャナを語るには、彼女が所属するトルメキア帝国について語る必要があるでしょう。
劇場版ではユパ様が、「遥か東方の強大な軍事国家」と述べていました。それを象徴するのが、風の谷に墜落した大型船です。あの船はかなりの大きさでした。どうやって飛んでいるのかも謎なほどデカかったです。
そんな化け物を運用するトルメキアの技術力や経済力は、辺境の村に毛が生えた程度の風の谷とは比べるべくもないものでしょう。
エンデインクではクシャナを迎えるべく派遣された船が、空を覆いつくさん勢いで描かれてもいました。
クシャナはそんな超大国のお姫様です。
何人兄弟なのかは不明ですが、上に腹違いの兄が少なくとも三人います。属性だけで語るのであれば、クシャナは超大国の内親王で妹キャラです。
・・・なんだ、この恐ろしいまでの違和感。総領娘にしか見えん。
・圧倒的なカリスマ性
違和感の正体は、クシャナが発する圧倒的なまでのカリスマ性にあるでしょう。
私も色々なアニメを見ましたが、クシャナに対抗できるカリスマ性を持ったアニメ作品の女性キャラなんて、「攻殻機動隊」の草薙素子ぐらいしか心当たりがありません。強いだけの女キャラならいくらでもいますが、目に見てわかるカリスマ性を持ったキャラは希少です。
・圧倒的な声優の力量
クシャナのカリスマ性の演出の成功の秘訣に、声優さんの力量が大きかったと確信いたしております。
私は好きな女性声優を一人上げろと言われたら、迷わずクシャナを演じた榊原良子女史を挙げます。勝手ながら、先生の敬称をつけてお呼びしております。
一昔前に、色々な女性声優がもてはやされていましたが、その中の誰一人として演技力において、榊原先生の足元にも及ばないでしょう。←個人の所感です。
ぶっちゃけ男の私からしてみれば、可愛い声で演技する女性声優なんて珍しくもない。それこそ履いて捨てるほどいると言っても過言ではありません。しかしながら並みの男よりも男らしい演技の出来る女性声優なんて片手で数えるほどです。その中でも圧巻の演技力を示すのが榊原先生です。まぁ、それほど声優さんに精通している訳では無いので話半分で願います。
榊原先生の演技の中でも特に印象深かったのは、やはり「我らは、辺境の国々を統合し」で始まる、演説のシーンですね。
戦車(自走砲)の上で仁王立ちで村人を睥睨し、朗々と自説を展開しました。
言っていることは「巨神兵のプロトンビームで、虫ごと腐海を焼き払いましょう」と、結構無茶苦茶なのに、あの説得力よ。
見習いたいものです。
・ファッションセンス
クシャナのファッションも、カリスマ性の演出に一役買っています。
彼女のいでたちは、黄金の鎧に白いマント。一見して、ただもんじゃねぇ感が漂っています。しかしながら、あんな重そうな鎧をよく身に着けていられますね。
あの時代の鎧はセラミック製とのことですが、セラミックって"陶器"ですから、相当重いはず。
クシャナは前線に出ることも多いので、見せかけだけのファッション鎧という事もなさそうです。
風の谷のナウシカは超未来の話ですので、その頃のセラミックは軽くなっているのでしょう。ファンタジー作品に出てくる軽量超剛性のミスリル銀みたいなものと理解しております。
そうでないとクロトワが抱きかかえられるわけがねぇ。燃える船から脱出するときも、割とピョンと飛んでいましたしね。
ファッションセンスを語る上では、髪型も忘れるわけにはいきません。
クシャナは長い金髪を三つ編みにして、ターバンみたいに頭部に巻き付けておりました。あのヘアースタイルは何というのでしょうか。私、気になります。
何年か前のウクライナの女性大統領が全く同じ髪型をしているのを見て、度肝を抜かれたのを覚えております。
その髪型、リアルであったのか・・・
光を反射しやすい金髪のみに許された髪型なのかもしれません。
・エロいよ。クシャナ殿下
ファッションのお話の延長になりますが、クシャナは案外エロい。
劇場版ても漫画版でもそうですが、鎧を脱いで白いブラウスみたいな恰好でくつろぐと、女性フェロモン全開で世の男どもを惑わします。
王族ですので栄養の行き届いた、実にけしからんプロポーションでございます。どことは申しませんが意外にデカい。
漫画版ではトルメキア軍の若い士官たちに大人気です。
分かる。
女性フェロモン全開の格好で、あの威厳です。若い部下たちが心酔するもの無理からぬこと。出来れば私も取り巻きになりたい。
あるトルメキア軍の参謀の証言によりますと、いい匂いがするそうでございます。
ご本人は「我が夫となるものは、更におぞましいものを見るだろう」と、仰っていますが、全然説得力がねぇ。
言うてもこのお方、内親王殿下であらせられますので、"おぞましい"の基準が一般人の私とはだいぶん違うのでしょう。
ちなみに、劇場版では片腕がありませんが、漫画版では両腕があります。そして中々の剣豪っぷりも披露してくれました。この人、一戦士としても無茶苦茶強いです。クシャナの上を行くのはナウシカとユパ様ぐらいでしょう。
宮さん(宮崎駿)はその筋の人から「ロリコンじじい」と呼ばれておりますが、大人のイイ女性の描写も得意ですよね。
・血塗られた道
クシャナは劇場版ではトルメキア帝国からの分離独立を狙う野心家として描かれ、漫画版ではトルメキア王家に対する復讐者として描かれていました。
尺が短い劇場版では理解しやすい野心家として、たっぷり時間の取れる漫画版では、ドロドロの陰謀渦巻く宮廷により、トラウマを植え付けられた悲劇の姫君として描かれていました。
漫画版ではクシャナの母が出てくるのですが、幼いクシャナを毒殺しようとしたテロの身代わりとなり、一命は取り留めたものの、ほぼ廃人と化しています。
そんなトルメキアを憎悪しての分離独立と復讐劇です。どちらも良い演出だったと思います。
漫画版では刺し違えても兄たちを殺したい人でした。私的には劇場版の野心家としてのクシャナの方がいいですね。
自嘲とも諦めとも取れる「所詮、血塗られた道だ」の台詞がお気に入りです。
・騎兵根性
クシャナは劇場版では降下猟兵みたいな特殊部隊を率いていましたが、漫画版ではバリバリの騎兵指揮官です。そして流石はミリオタとしても定評のある宮さん。騎兵指揮官としてのクシャナもよく描かれていました。
自衛隊なんかでもよく聞く俗説の一つに、装甲機動部隊(戦車隊)の連中は兎にも角にも突撃したがる。ってのがありますが、クシャナもこれに倣ってか、取りあえず突撃します。
敵の様子を見るため、指揮権を奪還するため、時間を稼ぐため、資材を強奪するため、なんでもかんでも敵中に突撃して事態の打開を図ります。
お手本のような騎兵って感じですね。
そして基本的に指揮官先頭を貫きます。これは配下の兵としては嬉しい限りです。
この行動力が彼女のカリスマ性に繋がっています。いつ死んでもおかしくない同じ立場で戦ってくれるわけですからね。そりゃこっちも必死に戦うわな。
側近としてはマジで止めていただきたいですが。
クシャナの敵である兄君たちは、安全な後方でヌクヌクしておりましたので、この辺りのギャップも上手く描かれていました。
そもそもとしてクシャナが率いるトルメキアの第三軍ってのが装甲機動集団ですので、その指揮官にふさわしい習性を持っていると言えるでしょう。
指揮官として最高級のクシャナは、敵国である土鬼諸侯国にも二つ名と共に知れ渡っています。
その二つ名が「トルメキアの白い魔女」
うーんカッケー。厨二心がくすぐられます。
話は変わりますが「白い魔女」って、たまに聞くフレーズなのですが、元ネタは何なのだろう。民俗学的な何かなのかな?
・航空機の事は知らん
優秀な騎兵指揮官という貌の一方で、船に乗っている時の無策っぷりも面白いです。
劇場版だろうが漫画版だろうが、どんなに戦況が不利でも全てを部下に任せて黙って乗っています。
これはこれで逆にできない芸当です。私なら何かしらの指示を出したくなります。まぁ、船まで巧みに操られるとクロトワの出番がなくなるので、しゃしゃり出てこないのは有難いっちゃ有難いですけど。
敵側であったクロトワを自陣営にスカウトしたのも、苦手な航空戦力の運用を自身の代わりに任せられると踏んだからでしょう。実際に全てクロトワにお任せで乗っていました。
地面に足が付いていないと、思考が回らないタイプの人なのかもしれません。
「殿下。もしかして高い所、苦手」
「黙れ」
「はい。黙ります」
・這いつくばって礼は言わない
クシャナ殿下は大変プライドの高いお方でございまして、命を助けられた程度ではお礼は言いません。
劇場版ではナウシカに、漫画版ではクロトワに命を助けられましたが、両者に等しくお礼は言いませんでした。うーん。これは平等。
「甘いな。私が這いつくばって礼を言うとでも思ったのか」だそうです。
一応、心の奥底では感謝はしていると思いますが、自分の命をやや軽く見ている傾向が見受けられるので、マジで感謝していない可能性も微レ存。
逆に何ならお礼を言うんだよ。
大国の姫君ってのも困った人種です。
・分かりにくいぞ。ツンデレ属性
ツンデレという単語がいつから存在するのか知りませんが、おそらくそんな言葉が無かった時代からこの人はツンデレ属性を持っていると思います。
宮さんがそんなことを考えるとは思えないので、たまたまそうなったのだとは思いますが、そのツンデレっぷりは超弩級です。
ただし、分かりにくい。
そもそもそんなつもりで描いていないので、分かりにくいのは当然です
何に対してツンデレなのかと言えば、直属の部下に対して非常に厳しく、そして優しい。
いや、優しいというか慈しんでいるって感じですかね。
態度や言葉はきついのですが、支配者独特の人を人とも思わないような態度は皆無です。部下として大事にしています。
クシャナ配下のトルメキア帝国 第三軍は物語後半で全滅するのですが、部下が戦死するたびに落ち込みます。自慢の金髪も無念の戦死を遂げた部下たちへの手向けとして自ら切り落としますし、兜の奥で声を立てずに泣いていたりもします。
父ヴ王のスパイであったクロトワすらも身を挺して助けましたが、その時も一切の迷いを見せずに助けました。クシャナの中では「部下=大事」の図式が成立しているのでしょう。
極めつけは、僅かに生き残った残存兵力を助けるために、土鬼の皇帝との結婚すらも承諾しました。トルメキア帝国の政治家としてはどうかと思いますが、一人の人間としては立派です。
部下を使い捨てにする兄ちゃんたちは、妹の爪のアカでも煎じて飲むがよい。
・ナウシカとクシャナ
物語の中で、ナウシカに最も影響されたのがクシャナです。
劇場版では「何があったか知らねぇが、かわいくなっちゃってまぁ」と言われ、漫画版では復讐という毒気が抜け落ちた立派な君主になっていました。これには憎い兄貴の一人が、あっけなく虫に殺されたのも多少影響されているとは思いますが。
ナウシカの行く道を「子気味よい道だ」と、評価していましたし、クシャナにとって迷いなく「友」と呼べるのがナウシカでしょう。
いゃー尊い。
一つ不思議なのは、漫画版の最終盤になると「友」ですらなく、ナウシカを自身の主として認める発言をしたところですね。
クシャナがどうしてあの心境に至ったのかは、全くの謎です。
何回も読み直したのですが私には読み取れませんでした。
物語をまとめる為に、ナウシカの選択を支持するという意味なのかもしれませんが、前後の脈略を無視したような構成になっています。もしくは、歴代のトルメキア王との決別を表しているのかもしれない。
しかしながら、どれも「うーん」って感じですね。やはり主というよりも、友と言った感じの方がしっくりきます。
ここの表現、どなたか分かる方がおられましたら、おせーてくださいませ。
・創作論的クシャナ
「風の谷のナウシカ」でのクシャナとは、もう一人の主人公(ナウシカ)と言えるでしょう。
これは宮さん本人の談ですが、劇場版を作っているうちに自身の中のクシャナ像が大きくなり、しまいにはナウシカの敵役ではなく、もう一人の主人公としての立ち位置が出来てしまったそうです。
めっちゃ分かる。
脇役のつもりで出した登場人物が、自分の予想外に大きくなって、主人公の位置についてしまう現象。私もリアルに経験いたしいました。
ガンダムで言うところのシャアのような存在が、ナウシカでのクシャナと言えます。
漫画版になると後半は二人の人格が重なり、最終的には反転いたします。
即ち、苛烈だったクシャナが穏やかなナウシカと化し、平和主義者っぽいナウシカが全てを焼き払うクシャナと化しました。
劇場版で巨神兵にプロトンビームを撃たせたのはクシャナですが、漫画版でプロトンビームを発射させたのはナウシカです。
驚くべきことに、二人の役割が完全に反転しています。
劇場版屈指の名台詞。クシャナの「薙ぎ払え」が、漫画版では存在しません。薙ぎ払ったのはまさかのナウシカ。
なんてこった。
最終局面ではクシャナの顔つきも、なんだかナウシカっぽくなっていきました。登場したてのあのキツイ感じが好きだったのに。
ナウシカが主人公の先へと進んでしまったので、その隙間を埋めるかのようにクシャナが主人公と化したようにも見えました。
そんな作品、他に聞いたことねぇ。
「風の谷のナウシカ」は、二人の姫君が一つになって反転してゆくという、他に類を見ない物語として終結いたしました。
宮さんの頭の中は複雑怪奇。何がどうなったらそうなるんだよ。よくも思いつくな。そんな演出。劇場アニメ「君の名は」もビックリだよ。
・クシャナのその後
漫画版では父ヴ王より正統に王位を継承し、トルメキアの国王となりトルメキア中興の祖と称えられる君主となりました。ですが、劇場版では迎えの船に乗って帰っただけ・・・
お迎えの艦隊の規模からしてトルメキア軍は無傷と言いますか、土鬼諸侯国との戦争は始まっていない感が強いですね。
ってことはですよ、「風の谷のナウシカⅡ」もしくは「シン・ナウシカ」大いに期待できるのではないでしょうか。
頼む。早く作って。榊原先生が働けるうちにお願いします。
言っておくが、他の声優は認めんからな!!
・どうしてこんなに魅力的なのか
私の好みのドストライクに居るのがクシャナなのですが、彼女の魅力とは何なのでしょうか。
まずは見た目。
絵にかいたような美人。(実際に絵に描かれているのですが)
良く通る力強い声。(榊原先生の圧倒的な演技力)
明晰な頭脳と決断力。勇猛果敢な前線指揮官としての姿。戦士としても一級品。(ミリオタとしては外せませんな)
意図せず発揮されたツンデレ属性。(してないですよね。してたら宮さんは化け物だ)
部下への愛情。(やっぱ、人を使い捨てにするような人物の下では働きたくありません)
幼いころのトラウマと現在の苛烈な性格とのギャップ。(本来は心優しい少女だったはずなのに、蛇の巣穴でのたうち回っているうちに、生き借るために強がるしかなかった悲しさ)
最後に・・・やっぱりエロい。エロいぞクシャナ。
「今度はヨロイなしで抱きたいぜ」
終わり
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