のほほん男と昼餐会

chapter:2-1

 さっさと帰らなければ。そんな思いを内に秘め玲はスタスタと廊下を歩く。とにかく今は面倒なことはしないのが、最善。

 いつ、燈弥が現れるかもわからないので、できる限り足跡を残したくはないのだ。


 早足で廊下を歩くこと、数分。玲はもう少しで玄関というところにたどりついた。靴を履き替え、後は外にでるのみ。


「はぁ……ようやく自由だ。今度こそ面倒はないはず」


 安堵のため息を吐きながら、漏らす言葉は相当苦労したように思えるが、実際はただ学校を無事に出ただけである。


 まぁ、この学校でになんての自体が珍しいので、運が良かったといえば良かったのだろう。


 玲は鞄を肩にかけ直し、校門に向かって歩き始める。もう今日は、このまま家に帰ろう。シャワーを浴びて、気分もサッパリしたい。


 これからの予定を頭で考え歩くのは、幾分、隙を与えるのに等しい。それでも玲は、もう面倒事は起きないと決め付けていた。


 否――――そう、信じたかったのだ。


「あ、ご飯どーしよ……まぁいいか。適当にあるもん食べれば」


 ゆったりとした足取りで歩くなか、部屋の冷蔵庫に食材が余り無いことを思いだし、呟いてしまった。それも、すぐに適当でいいやと気にしない所が、玲らしいといえば玲らしい。





 同時刻。階段をゆったりとした歩調で下る青年がいた。 一度見たら忘れられないであろう、毛先数センチだけが紅く染まった黒髪を持つ青年は屋上で昼寝をしていたらしく、首をゴキゴキと鳴らしている。


 正直今更授業に戻るつもりもないこの学園の生徒である彼は、片手をポケットに突っ込むともう片手であくびを隠しながら、大股でゆっくり廊下を歩く。


 この学園は2~5階までが基本的なクラスとなっており、1階・6階が特別教室・空き教室 となっている。

 尚、敷地内には特別教室のみの別館や、何のためにあるのかわからない木造旧校舎などもあるが、基本的に自分には縁のないの場所だ。


 そんなこんなで、彼が歩いているのは保健室や校長室・事務室・職員室などのある1階だ。


 言っておくが、「王」のいる廊下とは中庭を挟んだ反対側なので、悠々と歩けているのである。


「 あ、そういえば食材切らしてるんだった。買いに行かねぇと 」


 どこからともなく、ご飯の話が聞こえると、不意に今朝冷蔵庫の中身がほとんど空っぽになっていたことに気がつく。

 そこそこ稼いでいるとはいえ、流石にいろんな訪問者に料理を振舞っていたら、流石にそこを尽きるというものだ。これからは、アイツ等に食材を持参してもらおう。


 そんなことを考えながら、外に出る。目の前にいたのは先ほど屋上から見た際に闇帝に拉致されそうになっていた女子生徒だ。


 きっと先程のご飯の話も彼女が呟いていたのだろう。


 少し、考える。 ―――― ひらめいた。


「 美味しそうな女の子だな」


 普段こそ、どこか柔和で困ったような微笑みを浮かべている彼だが、その実、容姿だけを見たら相当凶悪な面構えをしている。


 切れ長の瞳は目つきが悪く、どちらかといえば薄い唇、そこそこ高い鼻と細く整えられた眉。閉じられた瞳を開けば闇い紅の濁った眼光が貫く。


 そして、このセリフ。あえて少し怖めの顔をして告げた。 何を閃いたのか甚だ疑問だ。

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