第2話
慌てて私は、近くのベンチに座り込んだ。
背中を丸めて、自分で自分の体を抱きしめるような格好だった。いかにも寒そうに見えるだろうし、冬ならばよくある姿だとしても、夏には思いっきり場違いなはず。
うつむき加減なので私からは見えなくても、近くを通る者たちがこちらに好奇の視線を向けているのは、十分に感じられた。
少し気恥ずかしいけれど、それでも気分が回復するまでの間、大人しく座っているしかない。
そう思ったところで、私に声をかけてくる者があった。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
顔を上げると、目の前に立っていたのは白衣姿の男。短く刈り込んだ髪がよく似合う、さわやかな顔立ちの青年だった。
私と同じく二十代
彼から見れば、今の私は、異常に体を震わせながら座り込んでいる人間だ。それを病院の敷地内で見かけた以上、医者としては
頭ではそう理解しつつも、心の中では「大きなお世話だ」と感じて……。
無理に笑顔を浮かべながら、
「大丈夫、少し休めばすぐ良くなるはずです。いつものことですから」
「いつものこと……?」
青年の端正な顔に、怪訝の色が浮かぶ。
きちんと説明すれば長くなるだろうし、説明しても理解してもらえるとは限らない。医者の立場から色々と詮索されるのも面倒だし、簡単に誤魔化すことにした。
「はい、風邪をひきやすい体質で……。たぶん、ちょっとした夏風邪でしょうね」
しかし、この発言は藪蛇だったらしい。
青年は目を丸くすると、何かを強く否定するかのように、大きく手を振り始めた。
「それはいけない! 誰でも風邪を軽く考えているようですが、風邪というのは、実は案外大変な病気なのですよ。ほら『風邪は万病の元』という言葉があるでしょう? でも、本当は風邪こそが万病。いわば『風邪は万病の総称』なのです」
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