第2話

最近知ったことは、「これ」は人という僕とは違うものであることと、幾つか人の言葉がわかるようになってきたことだ。僕が「これ」と呼んでいたのは、「ユウ」だった。他にも、3人いて、「母さん」「父さん」「姉ちゃん」といるらしい。聞き分け方も上手になってきて、今でははっきり違う音で聞こえてくる。僕のことを呼ぶときは「チャロ」って言うんだ。この名前も最近では気に入っている。ユウは、いつも「お座り」とか「お手」「待て」とか言ってからご飯をくれる。それぞれ何をすればいいかわかってきたからユウも嬉しそうにしてくれるし、いっぱい褒めてくれる。「散歩」なんて言葉もあって、ユウが一緒に歩いたり、走ったりしてくれるんだ。これはとっても好きなんだ。いつもは見られない沢山のものを見つけたり、色んな匂いを嗅いだりすることができるんだ。だから楽しくて、つい尻尾がフリフリしてしまう。でも色んな匂いを嗅いでいると、どうしてもマーキングしたくなるんだ。ここも僕のって言っておきたい!そんな気持ちがいっぱい膨らんで、尿意もそんなにないのに、絞り出している。ユウはそんな僕を少し怪訝そうに見る時がある。きっと、出てないのに止まらないでって言ってるんだと思う。それでも僕は止まってマーキングをしているから、きっともう諦めているんだと思う。走っている時はそんなに気にならないのに、歩いているとどうしても地面にこびり付いている色んな匂いを嗅いでしまう。ねばねばしたものなのに、果物の匂いがしたり、誰かがマーキングしたなという場所もあるし、猫みたいな匂いもする。たまに、木の枝みたいなのからお肉の匂いがしたりするけど、その時はユウに思いっきりリードを引っ張られて引き剥がされるから、食べることまではできないんだ。少し残念になるけど、ユウがその後は必ず一緒に走ってくれるから、残念な気持ちも忘れてしまう。外に出ると、いつもよりも色んな音が聞こえるんだ。車が走る音は大きすぎるから、あまり近付いてほしくないけど、色んなところで車の走る音はするんだ。地面が少し揺れるくらい大きい音もあれば、少しキーンとする音もあって面白いんだ。人が歩く音も色々あって、人間は車と似ているなと思う。たまに僕と同じ犬に出会う時があるんだ。そんな時はすごく嬉しくていっぱい匂いを嗅いで挨拶もしたくなる。だけど大抵は逃げられて、嫌がられるんだ。すごく残念だ。僕は兄弟たちを探しているだけなのに。兄弟とは、ユウと出会ったあの日からずっと会っていない。少し寂しいけど、ユウたちがいてくれるから大丈夫だ。いつかユウがきっと兄弟たちに会わせてくれると思うから、その時にいっぱい話せるように兄弟たちも知らないすごいものを発見しておこうと思う。散歩の終わりは決まってご飯だ。カリカリしたものを前よりもいっぱい食べられるんだ。兄弟たちがいた時は僕が一番体が小さかったから、みんなの食べた残りしか食べられなかった。今は違うんだ。ユウがいっぱいくれるのを全部食べていいんだ。これは嬉しすぎるくらいだ。でも食べる前は「お座り」と「待て」をしなくちゃいけない。たまに待てなくて食べちゃうから、ユウが凄く怒るんだ。でもしょうがないんだ。僕は待てないよ。なんて思う。涎が垂れてしまうのも気にせずご飯に集中するんだ。この時はとっても幸せなんだ。分かるだろう⁈ユウたちの家に来てから、僕の家はここになったのかなと少しずつ思えてきた。ここは僕の陣地だ!そう思うととても誇らしくなって、侵入者は、威嚇して入ってくるなって言うんだ。僕はユウを守らないといけないからね。きっと、ユウは僕の弟みたいなものなんだと思う。ユウから漂う匂いが、優しくて甘えてるみたいに感じるんだ。だからきっと、僕をお兄ちゃんだと思ってるんだ。だから、兄ちゃんが守ってあげるんだ。きっとユウも安心だと思う。だって、いつも僕が吠えるとユウが僕と一緒に吠えるんだ。なんて言ってんだっていうくらいはちゃめちゃにね。それはもう面白いんだ。だから、僕はもっと大きな吠え声を出すんだ。楽しくってしょうがないよ。僕の家族はユウだけじゃない。あと、「母さん」という人と「父さん」という人、それに「姉さん」という人がいるんだ。これは少し聞き分けが難しいんだ。全部に「さん」が付いてて、よく間違える。だから、最初の方の音をよく聞くようにしてるんだ。そしたら、よく間違えずに済むんだ。「かあ」と「とお」と「ねえ」だそしたら全然違うことに気がついたんだ。これはさ、すっごく大きな発見だったんだ。だからこれは兄弟たちに紹介する時にも必ず言っておかなきゃっと思ってるんだ。早くみんなに会いたいな。ユウの家に来たらいっぱいご飯食べられるのにな。早くこっちに来ないかな。

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