君の声を聴きたい
白菫
第1話
まだ眠いよ。誰か知らない人たちが僕を見ている。眠たいのに、何故かソワソワとしている。いつも遊ぶ場所よりも狭い格子の中だけど、みんなと一緒にお昼寝している。みんなは何度もないみたいに、ぐっすり眠っている。いいな、いいな。僕も寝たいよ。みんなの間に入ってみたり、みんなの体の上に乗ってみたりして、居心地の良い場所を探す。丸まってみたりしても、やっぱり眠れない。そんなことしていたら、何か大きい生き物が、近づいてきた。僕たちに向かって鳴いて、美味しいご飯をくれる「あれ」に似ているなと思った。でも少しだけ匂いが違う。僕たちとは少し違う形の前脚のようなものを伸ばしてきた。匂いが近づいてきたと思ったら、次の瞬間にはその匂いに包まれていた。毛のないツルツルとした前脚が頭に触れる感触がした。不思議な感じがした。良い匂いかも。「これ」は、ご飯くれる「あれ」よりも少し小さい気がするなと思った。地面から浮かんでいるがそんなに高くないようだ。「これ」はそんなに怖くないな。眠りたいのは変わらないから、すかさず欠伸が出る。一緒にくしゃみをしてしまう。僕を抱いていた「これ」の前脚が、少しびくりと動いたのがわかった。なんとなく申し訳なくなった。じっとしていよう。僕を抱いたまま、「これ」が何か鳴いている。他の大きいのが二つ近づいてきて返事しているように鳴いている。ちゃんと話さないと分からないよと思ったけど、そういえば、ご飯くれる「あれ」も、ずっと一緒にいるけど、何回も訳のわからない鳴き声をあげていたな。僕とこの生き物たちはきっと話すなんてできないんだ。きっとそうだ。だって、みんなもそう言っていたもの。そんなことを考えていたら、いつの間にかガタガタと揺れるものに連れ込まれていた。何が起こったんだろう。そう思ったけど、あまり怖くなかった。この良い匂いの「これ」が僕を覗き込んでいる。笑っているように見えたから、きっと怖くないんだな。「これ」がまた僕の頭をツルツルの前足で触ってくる。次は、背中も触ってきた。少し気持ち良くなってきた。「これ」のことは、結構好きかも知れないな。どのくらいガタガタと揺れていたんだろうか。よく分からないけれど、どこからともなく、とっても美味しそうなあの、お肉の匂いがした。どうしようもなく食べたくなって、飛び跳ねてみる。「これ」に伝えたい!僕も食べたい!どうしても食べたいよと伝えたい。飛び跳ねている僕に目を向ける「これ」に飛びついて、前脚を差し出してみる。お肉は、きっと「これ」が持っているあのガシャガシャいう袋の中だ!絶対あの袋がほしい!気が狂ったように食欲が爆発する。美味しそうで涎が滴っている。「これ」が袋から、長細いものを出して僕の口の前に差し出してきた。すかさず口いっぱいに頬張る。お肉、じゃない!けど美味しい!もっとほしい!おねだりしてみる。またくれた。嬉しい!「これ」はきっと良いやつだ。お肉じゃないし、カリカリいうなんか美味しいものでもないけど、少ししょっぱいけど、美味しい!やっぱり良い匂いだ。少ししか食べられなかったけど、美味しいものをくれるやつだな。きっと仲良くなれる。その時確信した。ガタガタ揺れていたものが、いつの間にか止まっていた。どうしたんだろうと思っていたら、ギラギラと暑い太陽が僕の黒い毛を焦がしてきた。暑いなと思いながらもすぐに違う場所に運ばれて、いつの間にか涼しくなった。どうしてか地面が冷たくて少し気持ちがいい。歩くたびに脚がひんやりとする。少し滑るけど、たまにふかふかなところもある。不思議な地面だな。不思議な地面をくるくると歩き回りながら、匂いを嗅いでみる。「これ」と似たような匂いがするな。あ、でも少し便意が…どうしよう、ここには「あれ」の住処にあったみたいな便をしていい場所なんてないのにな。あ、でも、もう我慢できないかも。「これ」が何か慌ただしく騒いでいる。気になるけど、今は便意の方が勝っている。どうすることもできずに、その不思議な地面の上でころんとした便を思いっきり出してしまった。スッキリした。ちょっと匂いでも嗅いでみる。お、いい具合だ。すると「これ」が前脚で僕を便から引き離してくる。え、どうして、ちゃんと今日の便を確認しないと。なんて思っていたら、もう一匹が白いもので便をさらって袋に詰めて捨ててしまった。あーあ、残念。今日の便はあんまり観察できなかったな。たまに、便からお肉の匂いがする時もあるから食べちゃうんだけど、それもできなかったなあ。そう思っていたら、今度はお水も飲みたくなった。喉乾いたなと思っていたら、「これ」が平たいお皿に冷たいお水を注いで持ってきた。あれ、どうしてわかったの?何も言ってないのに、「これ」って実は超能力者なのかな。お水だ。ゴクゴク飲み干す。さっきの長細いものがしょっぱくて、喉が渇いていたんだ。あー、お腹いっぱい。ここはもしかすると極楽な場所なのかもしれないな。今度は少し眠たくなってきたな。「これ」が僕の頭をまた触っている。やめてよ、もっと眠くなっちゃうじゃん。そう思いながら、眠気に勝てずに、ぐっすり眠ってしまった。あー気持ちがいいな。
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