三章 クリシュの旅路 345話

 お祖父様と馬車の旅。三日かけてオヤマーに行く。馬車での旅は初めてだ。

 馬車は何度も止まり、休憩を挟みながら最初の宿場町アマリーを目指す。


「けっこうゆっくり移動するんですね。それに休憩も多いし」


 馬はもっと早く移動できると思っていたんだ。


「ああ。ここら辺りは道の整備がよくないからな。馬だって休ませないと可哀そうだろう。歩いた方が早いって? ははは。それはそうだがこの荷物をどうやって運ぶ? 歩くより確かに遅いが、楽でもある。馬車というものはそういうものだ。歩いてついてくる従者もおるしな。早ければいいという訳ではない。そう焦るなクリシュ」


 そう言われればそうだなと納得するしかない。お祖父様と様々な話をしながら移動した。お姉様の事。オヤマーの事。孤児院の事。お祖母様の事。


「お前は賢いし人当たりもいい。おまけに聞き上手だ。ナルシア……お前のお祖母様にもそのように対応すればいい。よいか。否定はするな。貴族らしさをおぼえるのだ」


 

お祖父様はそう言うと、若い頃の話に切り替えた。僕はお祖父様が法衣貴族の出で平民のように働いていたと知って驚いた。



 午前10時ごろに出発した僕たちは、4時間ほどで隣町のアマリーに着いた。


「今日はここで泊まりだ」

「え? もっと行けるんじゃないですか?」


「ここから先は隣町までかなりかかる。疲れた馬では夜中になるんだ。それに無理をさせたら明日馬が動けなくなる。あせるな。余裕は大事だ。それにお前は自領を出るのは初めてだろう? 見分を広めなさい」


 お祖父様と街の中を散歩した。お祭りのように人が沢山いた。


「ここは天領だからな。宿場町はほとんどが王家の管理だ。だから税も安いし賑わう。情報も集まりやすい。おまえが領主になるなら、アマリーとの関係をよくする方向で考えるべきだな」


 アマリーとの関係か。お祭りをやってからは大分よくなっていたはず。お姉様はもしかしてそこまで考えていたのかな?


 お祖父様は様々な商店やギルドに僕を連れて行き、僕の事を孫でありターナー領の次期領主だと紹介してくれた。何人かお祭りの関係で知っていた人もいたんだけど、お祖父様の孫と知って驚いていた。


 うん。お祖父様は僕のために動いてくれている。お祖父様の信頼を失わないようにしないと。

 僕はそう思いながら、にこやかに挨拶をして回った。



 王都に着いた。ここがお姉様の暮らしている王都。入るのに身分や名前を調べられるの? 僕が驚いていると、お祖父様はいろいろ教えてくれた。大きな町は塀で囲まれていて出入りが大変な事とか、お姉様が平民と間違えられて衛兵ともめたこととか。……何やっているんですかお姉様。


「ここが、儂とナルシア、お前のお祖母様が住んでいる別邸だ。これから2ヶ月ここで過ごしてもらうことになる」


 おおきな館に馬車が入っていく。これで別邸なんだ。


 馬車から降りるとお祖母様が迎えに出ていた。


「まあ、クリシュ! 大きくなって。私があなたを見たのはこんな小さい時だったのよ。覚えている? ああ、あなたはアリシアに似ているわ。その髪の色に瞳の色。クリシュ。お祖母様よ。分かる?」


 お祖母様は僕を抱きしめて次々に言葉をかけてきた。




 …………お姉様が笑顔を無くして帰って来たのはこのお祖母様のせいか。




 僕は満面の笑みを作り、「会いたかったですお祖母様。一緒に過ごせることを楽しみにしていました」と孫が甘えるように挨拶をした。




 お祖父様どうですか? これが貴族らしい対応ですよね。

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