隠れてこっそり、が好きなんだよね
わたしはドアから顔だけを、出して周囲を確認した。
よし、誰もいないな。
「おいノーネ。出てきていいぞ。ただし、静かにな!」
「はい………」
わたし達は音を立てないよう慎重にドアから身を出した。
よく見渡すと、左右に長い廊下が広がっているのに気がついた。壁には等間隔にドアが並んでいる。ここはどこかのホテルらしいな。
「しかし大将…なんであの兵士からリボルバー銃を奪わなかったんですか!?せっかく武器が手に入る貴重なチャンスだったのに…!」
「そんなに怒るなよ。あんなの拾ったらわたしの綺麗な手が血臭くなっちゃうでしょ!」
「…やっぱりおかしなお方だ…ずっと隠れて進み続けるなんて、卑劣にも程がありますよ…こんな方法、ずっと通じるとは思えません…」
相変わらずノーネはぶつぶつと文句を言っていた。今まで人を殺す以外に、問題を解決する方法を教わらなかったらしい。
それってなんだか悲しいな。
そんな風に…センチメンタルな感情になりかけていた時だった。
───トン、トン、トン───
ごくわずか…ほんの小さな音だが、確かに聴こえた。足音だ。
「おい、隠れろ!」
「え?何ですか?僕には何も…」
「いいから!敵が廊下の先から歩いてきてるんだよ!」
急いで一番近くの、部屋にノーネを押し込んだ。ついでにわたしも一緒に入る。
トン、トン、トン、トン……
「あ~あ。見張りのやつ、なんで無線に出ねぇんだよ…おかげで俺達が行くはめになったじゃねえか。」
「そう言うな。あの捕虜どもの相手に苦戦してるのかもしれん。聞いた話によると、片方はどうやらガキらしいしな。」
予想通り、廊下の向こうから男二人の声が聞こえてきた。ソイツらはわたし達が潜んでいる部屋を通りすぎてそのまま歩いていく。
ノーネはなぜわたしが敵を察知できたのか分からず、目を白黒とさせていた。
「まずいですよ…!あの部屋が調べられてしまいます。僕たちが逃げ出したことが知られれば、警備を強化されます!」
せっかく逃げようってんのに厄介だなぁ。それに今回は二人。さっきみたいな近接戦じゃきついだろう。
…ここは、ちょっと面白いやり方でヤってやるか!
「おい、ノーネ。これからわたしの言う通りにしろ。"電撃作戦"するぞ!」
「いや何するつもりですか!?名前からして嫌な予感しかしないんですけど…」
「いいから早く!わたしの言う配置につけ!わたしは大将だぞ!」
「…はぁ。どうなっても知りませんからね!」
***
俺たちはホテルの長い廊下を、二人でだらだらと歩いていた。
仲間は前線で派手に活躍してるってのに、こっちはただの見張りだ。惨めさに嫌気が差してくる。
先に行った見張りが無線に出ないのも、こっそりサボりに行ったからだろうな。そうに決まってる。
「俺たちもさっさと捕虜の様子を確認して、交戦に加勢するぞ、ジャクソン。」
「…あぁ。だが、油断はするなよ、ヘンリー。捕虜とはいえあくまで敵兵だ。」
ライフルを抱えて隣を歩くジャクソンは、相変わらず心配症のようだ。
「お前なぁ、心配しすぎなんだって。あんなガキとおっさんに何ができ…」
───ギィィ……。
突如。
真後ろから、ドアの開く音が聴こえてきた。
俺たち二人は一瞬で振り向き、同時にライフルを構える。
断言する。捕虜を捕らえていたのはあの部屋じゃない。なのになぜ、ドアが開くのか。
「…おい、誰かいるのか!そこから出てこい!」
俺は声を張りあげる。そこにいるはずの"誰か"に向かって。
しかし、ウンともスンとも反応は無い。これで味方という可能性も無くなった。
「な、なんでこんな所に敵がいんだよ…!ありえねぇだろ…」
「落ち着け、ヘンリー。ここはまっすぐな廊下だ。しかもあのドアからは距離がある。ヘマしない限りは、ライフルを持ってる俺たちの方が有利だろう。」
「そ、それもそうだな…」
ジャクソンは冷静だった。
例え、あそこから敵がいきなり飛び出してきたとしても、こんな狭い廊下じゃそうそう外さない。
つまり、この勝負の優位は俺たちにある。
なんだ、別にビビるほどの事じゃねえぞ。
あそこから飛び出してきた奴を撃てば、それで終わりだ。
「オイ、ビビり野郎!隠れてないで出てこいよ!」
興奮しながら、俺はそう叫んだ。
すると、その声に反応したかのように………
何かが、ドアの向こうから飛び出してきた。
やっと来た!ブッ殺してやる!
興奮に任せ、考えもせずに引き金を引く。
───それがまさか、敵の罠だったなんて。
その時の俺たちは、考えもしなかった。
「役立たず」として敵の基地に特攻させられましたが、全員『無力化』して平和に戦争を終わらせることにします。 メルコ @MBTI_meruko
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