傷つけなくても、勝負には勝てるのさ
「……………………………………はぁ?」
目の前のノーネ大佐は、間抜けな声を出した。『何言ってるんだ、この人』とでも思ってそうな表情だな。
「何言ってるんだ、この人…そんなの不可能に決まってるだろ…」
「いやホントに言うのかよっ!」
わたしは思わずずっこけた。だってそういうのって普通は言わないだろ!?
ノーネはそんなわたしを訝しげな表情で凝視している。
「いくら小隊とはいえ、結構な人数と装備があるんですよ!バカな事言ってないで、見張りが戻る前に捕まってるフリでもしててください!」
「やだ!わたしは自由がいいの!」
「そんな事言ってないで!見張りが戻ってきたら、あなた殺されちゃいますよ!」
あたふたとした様子でノーネは叫ぶ。ここに敵が来たら、わたしが一瞬でやられると思ってるんだろう。
「大丈夫だよ。わたし、こう見えて格闘得意なんだ!シュッ!、シュッ……」
「ウソつかないでください、あなたが格闘強いわけないでしょう!いいから、早く戻って───」
ノーネと茶番を繰り広げていた、その時───
部屋のドアが、ガチャリと開かれた。
「おーい捕虜ども、ちゃんと大人しくしてるか……って何!?なぜ、拘束が解けて…!?」
さっきわたしを縛った見張りの野郎が、驚いた表情を浮かべてこっちを凝視していた。
「まずいっ…!キドゥン大将!逃げるんだッ!あなたの体格じゃ勝負にならない!」
悲痛な声でノーネが叫ぶ。目の前の見張りが、わたしにリボルバー拳銃の銃口を向けようとする。
確かに、これはまずいな。
わたしは頭を悩ませた。
───いったいどれくらい手加減すれば、こいつを殺さずにすむだろう?
やりすぎたら殺しちまうかもしれない。それは良くない。
まぁでも、相手は銃持ってんだ。多少の怪我は覚悟してもらうぞ?
素早く結論を出したわたしは…見張りの前へ、迷いなく向き合う。
「お、おい、何してる!動くな!動いたら撃つぞ!」
「大将!ここは警告に従ってください!あなた、丸腰でしょう!」
奴はわたしに銃口を向けて、お決まりの脅し文句を垂れる。その引き金に指は、かかってない。
その瞬間確信した。こいつに殺す勇気なんかないと。
わたしは警告を無視して───すぐ真横まで、一瞬で駆け寄って。
拳銃の側面部に、思いっきりパンチを叩き込んでやった。
ガチャッ…
予想通りあっけなく
「な!?弾が!」
「リボルバー銃はもっとちゃんとしたのを使ったほうがいいぞ?粗悪品はすぐ弾倉が外れて、弾が漏れるんだ。こんな風にな。」
「クソ、女のくせに生意気な事を!」
奴はすぐに銃を投げ捨て、腰のベルトに差してあったコンバットナイフを引き抜いた。銀色の刃が照明の光を反射し、鈍く光る。
「妙な小細工を覚えてるみたいだがな…今度はもう通用しねぇぞ!真っ向勝負だ!」
「あぁいいよ。じゃ、今度は小細工ナシでいこう!」
「なんだって…?」
ナイフを前にわたしがビビると思ったのか、奴は驚いた表情を浮かべた。ノーネも、固唾を飲んで見守っている。
「なめやがって…おらッ、殺してやる!」
突然、ナイフがまっすぐに突きだされた。狙い先はわたしの首。
単純すぎる動きだ。これなら最低限の動作でもかわせる。わたしは首だけをひょいと逸らして、突きを回避した。
「なっ!?避け…!」
「み、見切ったのか…?いや、あの動き…まるで初めからどこに来るか分かってたみたいな…」
驚いたように目を見開く見張り。急いでナイフを構え直そうとするが、もう遅い。
わたしは素早く身体を捻り、右膝を思い切り腹に叩きこんだ。
「グ、ハァッ!?なんだこの力ッ…!?」
女で、しかも華奢なわたしがこんな力を持ってるなんて思いもしなかったんだろう。
衝撃のあまり、奴は床に膝をついて気絶した。ナイフが落下してカラカラという耳障りな音を立てた。
勝負ありだ。
「お望み通り、真っ向勝負でやってやったぜ?これで満足か?」
「キドゥン大将…あなた、一体…?女性がこんな力を持っているなんて、は、初めて見たんですけど…」
呼び掛けられて振り向くと、ノーネが驚いた表情で固まっていた。
なんだ?まだ女性がどうのこうの言ってたのか。そんなもん、訓練さえすりゃどうとでもなるのに。
「あのな…戦闘のセンスに、男も女も関係ない。むしろわたしは、この体格のせいで油断されやすくて助かってるぜ♪」
「…あ、あなた…ずいぶんな実力を持ってるみたいじゃないですか?」
「あれ、やっと気づいたぁ?だから言ったじゃん!わたし、"名大将"だって!」
ノーネに向かってわたしはピースサインをしてやった。ノーネの口から参ったといわんばかりにため息が漏れる。
さて、見張りも気絶させたことだしさっさと脱出しようか。
わたしは見張りが落としたナイフを拾い上げ、ノーネの身体を縛るロープを切った。
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