親方!空から大将が!
「親方!空から女の子が!!」
「いや親方ってなんだよ。隊長って呼べよ…」
「あっ!失敬、隊長!」
午後二時、東のクアントラ地方にて。
兵士らしき痩せた男が、ビシッと敬礼をした。
その前にいるのは、親方…ではなく、恐らくここの小隊の隊長である男。
(こんな戦地に女がいるなんてデマに決まってる。やっぱりテイラー軍は、僕らに比べればずいぶん頭の出来が悪いようだな。)
その光景を眺めて…ポーチラス軍の兵である僕───ノーネ・ハルケッドは、彼らに蔑みの目を向けた。
まったく、こんな馬鹿な奴のいる軍隊に捕まるなんて大佐として情けない…
僕は今、テイラー軍に捕虜として捕らえられているのだ。おまけに小さな部屋の中に閉じこめられている。
どうにか隙を見つけてここから脱出せねば。
ただ、僕の腕と足はロープで固く結ばれてしまっている。これをほどかなければ文字通り手も足も出ない。
はて、一体どうしたものか。もう一人仲間がいればなんとかなりそうだが、そんな都合の良いことあるわけ…
そう諦めかけていた、矢先だった。
自分と同じ軍服を着た金髪の少女が、兵に連れられながら歩いてきたのは。
「汚らわしい手でさわるなっ!わたしはポーチラスの名大将なのだぞ!」
「ウソつけ。お前みたいなガキが大将なわけねーだろ。」
「むむっ!ガ、ガキと言ったな!?わたしが最も言われたくない言葉を…!貴様、生きて帰れると思うなよ!」
「いいからアイツと一緒に大人しくしてろ。そらっ!」
「あっ」
少女は襟首を掴まれ、ぺいっと投げ出される。
僕と同じく手足を縛られたままなので、そのまま顔面から地面にべちゃっと叩きつけられ「ふぎゃっ!」と珍妙な悲鳴を上げた。
………ま、まさかこんな頼りない女の子が、僕の味方なのか?というかこの子、どこかで見たような…
「…あっ!"戦犯大将"じゃないか!」
「そうそう…ってちがぁう!キドゥン大将だ!ちゃんとキドゥンって素敵な名前があるの!」
彼女は頭から湯気を上げるほどの勢いで、きゃんきゃんと吠え立てた。
そうだ、思い出した。ウールのように滑らかで美しい、金色の髪。小学生の服を着せたらよく似合いそうな、小さな体躯。
彼女こそ───戦犯大将として知られている、キドゥン大将だ。
一体なぜここにいるんだ?
「そいつはなぁ、信じられないとは思うが…空から降ってきたんだよ!ボロボロのパラシュートひっさげて!」
「空から?」
「あぁ、銃撃戦の真っ最中にポトリとな。幸い湖に落ちたから、死には至らなかったようだが…」
その結果、着地したところをすぐに捕まえられたってわけか。いや何しに来たんだよ、大将…
せっかく助けが来たと思ったのに、とんだハズレが来たようだ。僕はぬか喜びの反動で、さらに深くなったため息を吐いたのだった。
***
「…なるほど。味方のヘリから落とされたと…」
「そうなんだ!アイツ、名大将のわたしを突き落としやがって…ゆるさん!本部に帰ったら、降格させてやる!」
キドゥン大将は手足を拘束されたまま、芋虫のようにビチビチと跳ね回った。
これが今のポーチラスの大将の姿なのか。
なぜこんな奴が大将を名乗っているんだと、僕の中から怒りが沸き上がってきた。
「キドゥン大将、あなたは今までの戦争で多くの敗北を喫しているのが事実です。上層部も恐らく…あなたを追放する意味で、今回の投下を行ったのでしょう。もうみんな、あなたの実力を見限ったんですよ。」
多少きつい物言いだったが、これが僕の本心だった。
大体、女性の大将なんてどだい無理だったんだ。女性は男性に比べて筋力も劣るし、判断力だって基本は弱いと言われている。
力も頭も無くて、おまけに『平和主義者(笑)』ときた。こんなやつ、なんの役に立つんだよ…
「…って、聞いてます?」
「いま忙しいんだ!後にしろ!」
キドゥン大将の方に視線を向けると……
彼女はおかしな体勢で、うねうねと身体を捻っていた。
縄をちぎろうとでも思っているのか?男の僕でも無理だったんだ。彼女には到底不可能だろう。
「言っときますけどそのロープ、僕でも外れなかったから無理ですよ。」
「それはどうかな?案外イケそうな気がしてきたよ…」
キドゥン大将はニヤリと微笑み、そう言った。その自信はどこから来るんだ。
「はぁ…不可能ですから。不可能なことに計画もなく突っ込むから、今までの作戦でも失敗してて──」
「よしっ、外れた!」
「───は?」
あっさりと、縄が地面に落ちた。
そのまま彼女は、すくりと立ち上がる。
……えっ?な、何が起こった?あんなに固く結ばれていたはずなのに、外れるワケが……
「縄抜けだよ。知らないのか?わたし小柄だから、こういう時に役立つんだ!」
「…し、知らない。どんなカラクリを使ったんだ…!?」
「カラクリってほどのもんじゃないさ。ちょっと関節外しただけだよ。」
キドゥン大将は何でもない事のように言った。いや、関節外すってメチャクチャ痛いと思うけど…
しばらく彼女はうーんと伸びをしていたが…次の瞬間、とんでもないことを口走った。
「それじゃ自由の身になったことだし、さっさと行くか!」
「い、行くってどこに!?」
「そんなもん決まってるだろ…」
「ここの小隊を、みんなブッ潰して本部に帰るのさ!!」
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