第65話 ログアウト
「かしこみかしこみぃ~~~!」
俺がリンデンに連れて来てもらったのは神社と思しき場所。
その境内でお婆さん賢者の儀式を受ける。
儀式といってもそんなに格式ばったことは行われず、
「職業を"森の賢者"にしていいんじゃな?」
「職業を上書きすれば、元の職業へはこの里では戻れぬぞ。それでも本当にいいんじゃな?」
と2回確認の質問をされただけ。
その両方にYesと答えた俺は、いま祭祀道具らしきファサファサの草の付いた棒で頭を何回か払われている。
すると、
<"森の賢者"へとジョブチェンジしました>
「おおっ?」
目の前にシステム表示がされる。
「これで儀式は終わりじゃ」
お婆さん賢者は疲れたように息を吐くと本殿へと消えて行った。
ちなみにジョブチェンジにマネーはかからなかった。
そもそもこの里には貨幣制度が無いらしい。
まあ里がここにしかないのであれば要らないのかもしれないが。
「カイ、スキルボードを開いてみろ」
儀式が終わるのを待ってくれていたリンデンが近くへやってくる。
言われた通り、俺はスキルボードをオープンしてみた。
樹形図のようなスキルリストが表示される。
「"マッスラー"っていうスキルがすでに習得済みになってるみたい。そこから"マッスラー+"と"打撃性能向上"に派生してスキル習得ができるのかな」
「そうだ。"マッスラー+"を極めていけば身体能力が、"打撃性能向上"を極めていけば打撃スキルなどを覚えるようになる」
「ありがとう。ちなみにオススメとかある?」
「戦闘スタイルによるな。まあただ、スカルスプリングを相手にするならば打撃スキルを覚えておくと楽だろう」
「なるほど」
なおどうやらスキルポイントはレベルアップによって自動で付与されるものらしく、未使用スキルポイントが結構溜まっていた。
さて、どうしようかな。
「……カイ、悩んでくれるのは結構なんだがログアウトはしなくていいのか?」
「あっ!」
忘れてた。
そもそもログアウトしようとしてジョブチェンジする流れになったんだもんな……。
「こう、スキルボードとか見ちゃうとさ……さすがワクワクしちゃうというかね?」
「分からなくはないがな」
結局その日のスキル選択は保留。
ホーム化を先にした。
そちらについてはシステムボードから設定するだけで作業完了。
それから俺は改めてリンデン宅へと向かい、再びあてがわれた部屋でログアウトを試みる。
<ログアウトしますか?>
「おっ」
どうやらホーム化によって正常なログアウトができるようになったみたいだ。
それじゃあ一時、さよなら
また明日!
* * *
「……ふう」
俺は
背中がペキポキと鳴った。
「さすがに体が凝るな……」
部屋のカーテンは開けっ放し。
窓から見える景色は夕暮れに近づきつつあった。
朝っぱらから夕方まで、飲まず食わずでLEFに熱中してしまっていたらしい。
「喉カラっカラだわ……」
VRHは28度以上の室温ではすぐに警告が出る仕様になっているから冷房を25度にしていたものの、それはそれで乾燥が酷い。
あと寒い。
明日からはちゃんとこまめにログアウトできるようにせんとな……
そうこう考えていると、
「兄ちゃん? まだゲーム中? 開けるよ~?」
ドアの外からそんな声が聞こえ、問答無用で開けられる。
「あっ、もう戻ってきてたんだ」
「ただいま、ソラ」
ログアウト直後の俺を出迎えてくれたのは俺の家族、
容姿端麗、性格善良、成績優秀と非の打ちどころのない俺の自慢の──
──"弟"である!
「……ふっ」
「兄ちゃん? なに自嘲気味に笑っているの?」
「つくづくリアルの俺はラブコメと縁の薄い人生だな、って」
「はぁ?」
「せめてソラが妹だったら何か違ったのかもな?」
「キモいよ兄ちゃん」
中学校では女子人気No1を誇っているというその中性的なイケメンマスクを歪め、ソラは言う。
「だいいち僕が男だろうが女だろうが関係なく兄ちゃんはカレーに夢中でしょ」
「それはそうなんだけどさ」
「ったく」
ソラは大きなため息を吐いて、
「まあいいけどね。おかげで彼女できない兄ちゃんとたくさん遊べるわけだし」
「なにもよくはないがな」
「僕も今度友達に旧式のVRH譲ってもらうからさ、そしたらLEFのキャラメイク可愛い女の子にして兄ちゃんの彼女ロールしてあげよっか?」
「やめろ虚しい!!!」
その後は、どうやら俺がずっとLEFに行ってヒマしていたらしいソラの格ゲー相手になって1日が終わった。
たまには家族サービスも必要だよね。
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