第60話 骨カレー

全身骨モンスター……

名前は狩りに"スカル"とでもしておこう。

大変なことに、俺の持っている短剣ではスカルの体に文字通り""が立たなかった。


「硬ってぇ……」


カレーバフで力・速さ・器用は全て上げているんだけどな。

どうやらその倍率が足りないか、そもそもスカルに対して剣が効かないのかのどちらかのようだ。

さて、どうしたものか。

なんて考えている間に、


ビュオン、と。


風を切る勢いでスカルが地面から跳び立ち、そして木々の間をバウンドするように跳ね回る。

まるでカンガルーだ。

そんな不規則な動きでこちらの背後を取ると、鋭いかぎ爪を正面に構えてロケットのように突っ込んでくる。

危ないな!


──パリィ!


パラメータ上昇中の今、速さで後れを取らない。

それにエリフェスの槍の突きに比べれば大したこともない!

そして訪れたカウンタータイム。

短剣での攻撃が通じないのであれば……


「打撃ってことだよな!?」


ガシリ。

スカルの突き出していた腕を強く掴む。

そして、


「でりゃぁぁぁあッ!!!」


スカルの飛んできた勢いをそのまま利用して、その体をグルリと円を描くように振り回した。

遠心力をそのままに、近くの木へと思い切り叩きつける。

骨が強く軋む音が響く。


……よしっ、今の内だッ!


俺はアイテムボックスを開き手を突っ込む。

その中から取り出したのは──

フライパン。


「安いからやたらデカくて重い、鈍器フライパンを喰らいやがれぇぇぇッ!!!」


ガゴンガゴンガゴーーーンッ! と往復ビンタでもするかのように、装備したフライパンでスカルの頭骨を殴りまくる。

やがて響く骨にヒビが入る音。

スカルが脚をバタバタと動かして逃げようとする。


「いいぜ、行けよ」


俺が手を離すと、スカルが高く跳んだ。

再び木の間を飛び跳ねて俺から離れようという魂胆だろう。

だが、こちとら速さのパラメータじゃ負けてない。


「よっと」


高く飛んだそのスカルへと、俺もまた木を蹴り登って追いついた。

その頭骨を鷲掴みにし、地面へと向ける。

宙高いその位置の下方、そこには地面から飛び出ている硬い木の根っこがあった。

トドメだ。

スカルを下に、俺たちは自由落下をする。


「骨はヒビが入れば脆いもんだぜ」


地面への衝突寸前にスカルの頭を思い切り木の根に叩きつけた。

その頭蓋が割れる。

スカルはその瞬間に手足を一瞬ピンと張ったかと思うと、動かなくなった。

討伐完了。


「よぅし! 解体! 解体!」


解体スキルをスカルへと使う。

すると案の定、


<獲得:スカルスプリングの頭骨>


<獲得:スカルスプリングの細骨>


「しゃあ! ゲット!」


俺はさっそく鍋に水を張る。

手に入れた頭骨と細骨を真っ二つに割る。

骨の中身を見るが……


「フム。骨髄は無いみたいだな。なら雑味も出ないだろうし、このまま煮込んで大丈夫か」


ポイポイと鍋に入れる。

蓋をして、火の中に落とすくらいの強火で煮詰める。

その間に先ほど武器として使って放り出していたフライパンを取って来て野菜とスパイスを炒めておく。

肉は……

今回は入れない。

純粋な骨の旨みが知りたいからな。

30分ほど骨を煮詰めるとだいぶ色が黄色く濁ってきた。

少し掬って味を見る。


「──おほっ」


味が、する!

舌の上をまろやかに、塩味のついていない鳥ガラのようなコクのあるスープが通過していく。

まだ若干薄い。

もっと煮込んだ方が良い気もするけど……

とりあえず今は早く食べたい!


「うりゃァァァッ!!!」


鍋から骨を取り出すと、フライパンの野菜のスパイス炒めを投下。

グツグツ煮込むとカレーの香りが森へと広がっていく。


<レベルアップ20→21>


カレー称号の効果によってレベルアップも果たし、カレーは完成する。


「名づけるなら"スカルスプリング"カレーだな。では、」


いただきます。

鍋に直にスプーンを突っ込んで、ひと口。


「……おおっ」


まあ美味い……のか?

カレーなので俺は満足だが。

ちょっと薄い気がする。


「コクが足りないな。やっぱりちょっと煮込みが足りなかったかぁ」


いや、それだけではない。

骨の量も足りていなかった。

肉付きが薄く骨髄も無いモンスターの骨だからか、骨一本一本の栄養価が低いのかもしれない。

あるいは俺の出汁の取り方がまずかったのか……

初めての試みだったしな。


「次はもっと調べて、骨の量も調整して作らないと……」


──ガサッ。


俺の正面に、着地する白い影。

姿を現したのはスカルスプリングだった。

しかも一体のみではない。


──ガサッ、ガサッ、ガサッ。


「マジかよっ?」


前後左右の木を蹴って、俺の周囲へとスカルスプリングが次々に着地してくる。

完全に囲まれた。

え?

ちょっとこれ、マズくない?

俺、さっきめちゃくちゃ無理やりな方法でやっとこらさ1体倒したところなんですけど?

まあでも、襲われるってなら戦うしかないか。

なんて思いつつ立ち上がった……

その時だった。




「──ウホォゥッ!!!」




唐突に大きな"黒い影"が茂みの奥から飛び出して来たかと思うと、俺の正面のスカルスプリングを殴りつけ、その"たったの一撃"で粉々にした。


「ウホォッ! ウホォッ! ウホオッ!」


正面だけじゃない。

俺の後ろと左右からもその声が響く。

そうして飛び出してきたまた別の"黒い影"によってスカルスプリングたちは砕け散っていく。

いや、"黒い影"なんて意味深に誤魔化す必要はないな。

その正体は見た目と声からして明らかだ。


──ゴリラ。


4体のゴリラたちが圧倒的な膂力によって俺の周囲のスカルスプリングをすべて葬り去っていた。

いったい何が起こってる……?

俺の思考が状況を整理する前に、


「こんな森深くで何をしているのだ、人間よ」


正面のゴリラが俺をにらみつけるようにして、そう話しかけてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る