第59話 開拓者たち

エングランデ王国の北部都市レイクプール。

そこに置かれているLEFにおいて最大のクラン、"レ・フェルディナンド"の本拠地に16人の幹部たちが集まっていた。


「みなの協力によりスコッティア共和国のマップの60%は埋められた。よって今日からはエングランデ地域から西に進んだ先にある未開放地域……"ウェルズーン帝国"の開放に向けて動き始めることとする」


そのクランリーダーの男の言葉に異を唱える声は無い。

それもそのはず。

"レ・フェルディナンド"の理念はただ1つ、"開拓者であれ"。

全プレイヤーが同時並行で進めるミッション──通称"ワールドミッション"をクリアし、スコッティア共和国を開放して行き来ができるようにしたのもこのクランだった。


「現時点でウェルズーン帝国は国交を閉じたまま。その地域開放のためのワールドミッションは見つかっていない。こちらは継続して調査を続けていくが、それと並行して調査を進めたいことがある」


「ウェルズーン内部の調査……ですね」


「いかにもそうだ」


幹部の1人の言葉にリーダーは頷いて、


「みなも知っている通り、開放がまだの地域に対しても侵入は可能だ。ウスター森の崖や、この都市レイクプールの滝底から……確認できているだけで5種類の侵入方法がある。そこで、この侵入方法で内部に入り、『ウェルズーン内部にウェルズーン開放のミッションが隠されていないか』を調査する」


「金庫の鍵がその金庫の中に入っている可能性を考慮する……というわけですか。もし狙ってそんな仕様にしているのだとしたら、運営イジワル過ぎますね」


「まあ万が一の可能性ではあるがな。調査隊の人選はこれから行うが……その前にこれからその隊を率いてもらう幹部を2人決めたい。立候補はあるか?」


リーダーの問いに対して、ほとんど全員が手を挙げた。


「まあそうなるか……」


やはりこのクランに所属しているだけあって全員未知の地域へと興味は尽きないようだ。

立場さえ無いのであれば自分もまた勇みウェルズーンへと飛び出して行きたいくらいなのだから当然とも言えるな、とリーダーは腕を組んで唸る。


「今回は特に戦闘力重視の人選にしたいと思っている。未開放地域ではセーブ機能が無く"一度ログアウトしたら同じ場所にログインができない"以上、一回の侵入でできる限りの調査をする必要がある。それに……ウェルズーンには"例のモンスター"もいることだからな」


「"スカルスプリング"、ですか」


「そうだ」


リーダーは空中に投影されたホログラムスクリーンへと、そのモンスターの画像を映す。

それは全身の骨が剥き出しになったような、小型の肉食恐竜のような姿をしていた。

頭骨の目の穴は、木のウロのように深く空虚であり、生気をまるで感じさせない。

幹部たちはその画像を見てほとんどが顔を渋くして、


「相変わらず気味が悪い……」


「軽くホラー入ってますよね、コレ。夢に出てきそうだ」


「できれば遭遇したくないねぇ」


そう口々に呟いた。

リーダーもまた頷いて、


「見た目が悪いだけではないぞ。前回ウスター森の崖から侵入を試みたメンバーはこのモンスターに襲われてキルされた。恐ろしく強い上に硬いらしい。戦闘の際には熟練の戦士職が必要だろう。その観点から選ぶとすれば──」


そうして会議は進み、"レ・フェルディナンド"クランによるウェルズーン調査は始まることになった。




* * *




~カイ視点~


「──おおっ!?」


俺がウスター方面へと向かってウェルズーンの鬱蒼とした森の中を進んでいると、唐突に謎のモンスターに襲われた。

不意の一撃は避けることに成功していたが、しかし目を奪われたのはその見た目。

全身の骨が剥き出しになったような小型の恐竜型モンスターだ。

感情を映さないドクロの目がジッと俺に狙いを定めている。


「全身、骨……だと!?」


そんな生物あり得るのか?

いや、目の前に実際いるのだからあり得るのだろう。

ならば、

だとしたら……!


「骨から"出汁ダシ"が取り放題じゃないか……!?」


よし決めた。

ウェルズーンから脱出する前に、本格的な動物骨出汁カレーを作っていくことにしよう!

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