第54話 カレーパーティー
夜、アイギス郊外。
カレーパーティーの幕が開ける。
俺たちはミウモ以外の周辺のNPCたちも巻き込み、さらにエリフェスとみっちゃんも加え、休耕畑の一画で起こした焚火らを囲む。
俺はいつもはアイギスの収穫祭で使用しているのだという大鍋にカレーを作っていて、パンやライスなどはNPCたちがそれぞれ持ち寄ってくれていた。
俺たちはどこからか運ばれてきたイス代わりの平たい倒木に腰をかけ、手にはカレーの入った木製の深皿、そして横にはお供の美味しいミルク。
「っかぁぁぁッ! やっぱり搾りたてミルクは最高だなぁっ!」
カレーをかき込んだ喉を、保存スキルというものによってキンキンに冷やされたミルクが通る。
滑らかさ、コク、どれをとっても最高だ。
そしてなんと言っても、
「カレーとの相性もバッチリ。ああこれ、いくらでも食べられる……!」
本日のカレーはバグモンスター討伐により大量の"アカベッコー肉"を使用した"ビーフカレーシチュー"。
ミウモお手製のバターにゴロゴロ野菜とお肉、赤ワイン、そして特性調合のスパイスを加えた、ふんわりと大人の香りが漂うデミグラス風カリーだ!
「酸味とコクの利いた大人な味がたまらんっ! うんまっ! うんまっ!」
「さすがカイくん、一番楽しんでるね……」
俺の隣、カルイザワが困ったように笑う。
「エリフェスさんたちを連れて帰って来るなり『全部解決した!』とだけ言って急にカレーを作り始めるんだもん。私たち、まだ詳しい話ぜんぜん聞けてないよ?」
ねぇ? とカルイザワが横に座るミウモへと訊くと、
「でも、カイさんのおかげで今日はカレーがとても美味しいので、なんだかそれだけで私、無性に幸せですっ」
ミウモはそう言って微笑んだ。
おお、よく分かってるじゃないかミウモ。
「そう。大事なのは何が起こったのかなんて過程じゃない。今カレーが美味いかどうかだ」
「そうですねっ! カイさんもたくさんミルクをお飲みになってくださいねっ?」
「えぇっ! ミウモちゃんまでカレーオタク脳……いやミルクオタク脳にっ!? ダメだよカイくんの影響を受け過ぎちゃ!」
3人で談笑しつつカレーを口に運んでいると、
「失礼しますわ、いま少しいいでしょうか?」
俺たちの後ろから声をかけてきたのは宵の明星クランリーダー・みっちゃん。
その後ろにはエリフェスもいる。
「もちろんいいよ」
俺がそう返事をすると、2人は俺たちの近くの切り株へと腰を掛けた。
「先ほど少し席を外して"上の方"と会話してきましたの。結論から申し上げますと、こちらにいらっしゃるミウモさんたちNPCの調査に関しては運営に特別な便宜を図っていただけることになりました」
「えっ、もう!? 確かかなりコストや負担がかかるってエリフェスさんに言われた気が……」
「通常ならそうですわね。ただハッカー対応の件で上にはちょうどいい"貸し"ができておりましたので……今回に関してはだいぶ交渉がスムーズでした」
みっちゃんはそう口にして笑った。
ミステリアスな雰囲気だ。
本当に上──つまり運営に太いツテがあるんだろう。
いったいこの人はどういう立場の人なんだ?
「そんなわけですから、早ければ明日ほどから運営がこちらに来て調査を開始するかと。くれぐれも丁重にとは伝えておきましたから、ご安心なさってください」
「そうか……どうもありがとう。無茶な頼みだとも分かっていたからさ、本当に助かったよ」
「いいえ、こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。なんでも、エリフェスさんの方に強引な面があったとか」
みっちゃんは目を奪われるような所作で頭を下げる。
「不正を排除することは治安維持活動として当然のこと。ですが、どうすればLEFがより過ごしやすい世界になるかということをいくつもの視点で考えることも大事です。その視点の共有を彼女と正しくできていませんでした。私の落ち度です」
「本当に申し訳なかっ……ありませんでした」
エリフェスもまた続けて頭を下げてくる。
その肩は今までになく縮こまっていて、もしかして裏で少し叱られていたのかもしれなかった。
「いや、別にいいって。ぜんぶ1v1で決着したことだし……」
それに、しんみりしちゃうだろ。
こんな空気じゃせっかくのカレーがちゃんと味わえない。
そんな時、
「あの、どうぞ」
絶妙なタイミングで、後ろからミウモが2人に声をかけた。
そしてその手に乗せたお盆から2皿のカレー、それにパンを手渡した。
「えっ……? これは……」
「よそい立てのカイさんのカレーです。まだ召し上がっていないですよね? とても美味しいんですよ。あと、これはウチの牛たちから搾ったミルクです」
「あ、ありがとうございます……」
NPCから自発的に勧められたことに対して驚いたのか、2人はおっかなびっくりな様子でミウモからカレーとミルクを受け取った。
そして「いただきます」とカレーにパンを浸してひと口。
「あ、コレすごく美味しいですわ。豊潤なカレーソースの香りが口いっぱいに広がって……」
「カレー、温かいな……久しぶりだ」
「ミルクも甘くて、強めの味のカレーで辛くなった口内をマイルドにしてくれますわね」
「牛乳……これすごく飲みやすいな。美味しい」
2人はそれぞれ満足そうに二口目以降も口に運ぶ。
おっ、2人とも良い表情するじゃないか。
作った身として喜ばしいね。
ミウモも自分のミルクの評価にどこか誇らしげだ。
「やっぱりカレーは明るく美味しく食べるに限る。もうこれまでのことは全部カレーとミルクと一緒に飲み込んで消化しちゃおうぜ。なっ?」
「……そう言ってくださるのなら」
みっちゃんは微笑んで、それから少しおかしそうにクスリと笑う。
「どうかした?」
「すみません。カイさんの話し方が、なんだか私の友人に少し似ていて」
「友達?」
「ええ。生粋のカレー好きの友人が居るもので」
みっちゃんはとても楽しげに口元をほころばして話す。
ほほう?
カレー好きとな?
そりゃいい趣味のお友達をお持ちだ。
俺もぜひ会ってみたいものだね。
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