第55話 みっちゃん、気づく

みっちゃんはどうやら運営にまで口を出せる立場らしいし、きっとゲーム内だけではなく現実でもとても上の立場な"大人"なのだと思う。

そんな人が言う生粋のカレー好きの友人となれば……


「もしかして、有名なカレー店のオーナーさんとか?」


「いえ、ただの趣味人ですわね、アレは」


みっちゃんはクスリと笑い、


「以前はよく、嫌がっているわたくしを無理やりカレー店巡りに連れ回してくれたものです」


「え? それはヒドいヤツじゃないか?」


「それがそんなことはなかったんです。その時の視野の狭いわたくしには、そうやって無理にでも世間を見せてくれる方が必要だったんですの」


みっちゃんは懐かしむように言った。

その頬は少し朱色に染まっている。

あれ、これってもしかして……

みっちゃんさん、その人に恋してるのでは?

なんて若干察していると、


「それ……もしや"恋バナ"ですかね?」


これまで身を引いて話を聞いていたカルイザワが、突如身を乗り出してきた。


「そのご友人、男性ではっ?」


「えっ、えぇっ?」


「あ、やっぱり。ですよね、そうですよねっ? 私は職業柄そういうフラグに目ざといんですよ」


戸惑うみっちゃんへとグイグイ身を寄せていくカルイザワ……しかし、その間へと護衛のごとくエリフェスが割って入った。


「やめろカルイザワ! みっちゃん様が困っているだろうっ?」


「ええ、でも……気になりませんか?」


「気に……ならない」


「ウソだっ! 絶対気になってる反応ですよそれ!」


「いや、だって……違いますものね? みっちゃん様? みっちゃん様に好きな人なんていないですもんね?」


結局エリフェスまでもがいっしょになってみっちゃんを問い詰めていた。

みっちゃんは顔を真っ赤にしつつ、


「い、いますわよ。わたくしにだって、好きな人くらい……」


「「「────ッ!!!」」」


声にならない声で盛り上がるカルイザワと驚愕に打ち震えるエリフェス、あとついでになんだかソワソワとして様子を見守っているミウモ。

女子って好きだね、恋バナ。

特にカルイザワは普段見ないくらい活き活きとして、


「やっぱりその好きな人って、そのカレー好きの人ですかっ!?」


「ま、まあ……」


「カレー巡りに無理やり連れ回されている内に、そんな状況を何故か楽しむ自分が居ることに気付き、それが段々と恋心に発展していった感じですかっ!?」


「そうですけど、なんで知ってますのっ!?」


「うわぁぁぁ! すごい王道テンプレ! 恋愛創作の王道テンプレって現実にあるんだっ! 生の声って素晴らしい、新シナリオ構想が捗る!」


てんやわんや。

それからは修学旅行の夜のように俺たちは楽しんだ。

テンションMAXなカルイザワがキャーキャーと喚き、エリフェスが「私の憧れのみっちゃん様に、好きな人が……!」と悲壮感に溢れる表情でミルクをあおり、みっちゃんは散々根掘り葉掘りカルイザワにいろいろと聞かれ照れまくり、俺は短剣の素振りで満腹度ゲージを下げてはカレーをおかわりし、ミウモがそんなみんなを楽しそうに眺めている……


そんなカレーパーティーも終わり、解散の折。


「今日はごちそうになりました。今度はぜひわたくしたちの方からおもてなしする機会をいただければと」


「いいよいいよ。おかげで俺も楽しくカレーが食べられて良かった」


みっちゃんと最後にフレンド登録を行い、俺たちは握手を交わす。


「しかしまさか貴方のようなテクニカルな"縛り"プレイヤーがいらっしゃるとは……リリース当初からLEFをプレイしていますが、これまで存じ上げなかったのが我ながら不思議でなりません」


「え? ああ、そりゃしょうがないよ。だって俺がLEFを始めたのってここ2週間くらいのことだし」


「…………えっ?」


みっちゃんがキョトンとした顔で首を傾げた。


「に、2週間……?」


「うん。学校が夏休みに入るタイミングで始めたんだ。長期休暇は全力でカレー食べまくってやろうと思ってる」


「夏休み……ということはまさか貴方、」


「ああ、学生だよ」


俺がそう言うと、みっちゃんは目を見開いて、


「キャ、キャラメイクがデフォルトのままの成人男性なのって、」


「ああ。早くカレーが食べたかったからキャラメイクとかしてないんだよね」


「もしかしてLEFをプレイしている理由……カレーを食べるため、だったりしませんことっ?」


「その通り。俺は美味いカレーを食べるためにここへ来た!」


「……ッ!!!」


みっちゃんは後ずさりした。

その顔は徐々に徐々に真っ赤になっていく。


「あぁ……あぁっ! では、エリフェスさんとのレベル差を埋めたのは"カレー称号"による高倍率の効果……!?」


「ん? そうだけど……」


「わ、わたくしっ、急用を思い出しましたので。これにて失礼いたしますわっ」


「えっ?」


そう言い残すと、みっちゃんは"リターンリング"の効果を発動し、光の球となってすぐに飛んで行ってしまう。


「み、みっちゃん様っ!?」


なにやらミウモと話し込んでいたらしいエリフェスもまた急いでその後を追いかけていった。


「急用?」


突然どうしたんだろう?

宵の明星クランは多忙だとエリフェスも言っていたし、今回の運営との調整をしてもらった件もある。


「ちょっと引き留め過ぎたかな……?」


しかしさすがは有名クランリーダーだったな。

相当マニアックであろうカレー称号についても知っていたなんて。

今度会う機会があれば、他にもカレーに関する何かがLEFに無いか詳しく聞いてみたいものだ。




* * *




「あ ず ま か い と !!!」


LEFをログアウトするなり、光子はベッドにダイヴ。

自分の枕に顔を沈めてその名を叫んだ。


「あのカイってプレイヤー、確実に東海斗じゃないですのッッ!!! ちゃんと先に探りを入れておけばぁぁぁ!」


そうとも知らず、あれやこれやと"本人"を前にして。

初恋のキッカケやその他いろんなことまで東海斗の前で暴露するなんて……


「あぁーーー! 知られた知られた知られた知ーーーらーーーれーーーまーーーしーーーたーーーのぉぉぉぉぉぉッ!!!」


「おっ、お嬢様っ!?」


光子が足をジタバタさせていると、隣室で待機していた光子のお付きの愛歌・恋歌がその叫び声を聞きつけて部屋へと駆けこんでくる。


「いっ、いかがなさいましたかお嬢様っ?」


「お嬢様、東海斗がなにかっ!?」


「うぅ……! もう、こうなったら"みっちゃん"が光子であると知られるわけにはいかなくなりましたの……!」


ポカンとした表情で顔を見合わせる愛歌と恋歌。


「な、なぜですか? だってお嬢様、東様とごいっしょにLEFを楽しめるように"あの称号"を運営に追加してもらっていたではありませんか。きっとゲーム内ではカレーしか作らないであろう東様が、それでも徐々にレベルアップして色んな食材を入手可能になるようにと」


「そうですよお嬢様。そうしてLEFを楽しむ東様を誘い、食材モンスターの討伐などにいっしょに出かけるなどして沢山の時間を共に過ごされようというプランだったではありませんか」


「それが完っ全に仇になりましたの……」


光子は真っ赤な顔を両手で覆う。


「想定外のレベルアップ速度ですの……! まさかたった2週間でこんなに強くなってるなんて……。いくらカレー狂いとはいえ、いったいどれだけの数のカレーを作ったというのですか、あの男はっ!」


光子の悲壮な叫びが室内に響いた。

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