第52話 決着
俺の攻撃はやはり簡単には届かない。
短剣のリーチの短さゆえではなかった。
どれだけ自分のレンジに持ち込もうとも、エリフェスの無駄のない槍さばきはなかなか隙を生み出さないのだ。
攻めあぐねる間にエリフェスは態勢を整えて反撃の一手を打ってくる。
このままでは時間だけがズルズルと過ぎていってしまう。
……だから、多少は無茶するしかないッ!
フォグトレント戦の時もそうだった。
結局最後は"攻め"あるのみ。
エリフェスが突き出す槍、それを俺は、
「──ッ!」
短剣では弾かない。
ギリギリまで引き寄せて、何とか身をよじって躱し切る。
そして転じる。
さらなる攻勢へと。
「クッ……」
エリフェスはこちらの連撃に苦しげな表情を浮かべる。
……が、まだこれだけじゃないぞ?
俺が捨てたのが防御"だけ"だなんて思うなよ。
ガシリ、と。
俺は空いた左の素手でエリフェスの槍を鷲掴みにする。
「!?」
ああ、そうだよ。
俺は選択肢も捨てた。
槍自体から雷攻撃を放つ"
だけど俺はエリフェスのソレが間に合わない方に賭けた。
結果……決定的な隙がエリフェスに出来上がる。
俺は守るものが何もないエリフェスへと短剣を突き出した。
これでトドメ……!
と、しかし。
「スキル、"水舞流転"」
槍が水の滴り落ちるようにその形を失い、俺の手を離れた。
かと思えばその水は一瞬でエリフェスの正面に盾のごとく滑らかな円を描く。
俺の短剣の攻撃に対してそれはジャストタイミングで打ち当たり、
──パリィ、される。
「……!」
おいおい、ウソだろっ!?
"スキル"によるパリィッ!?
そんなのアリかよっ!
「惜しかったな、カイ」
カウンタータイム。
再びその水の盾は槍の形状に戻り、エリフェスの手へと戻った。
マズい。
槍の先端が俺に向けられる。
だが、やられるわけにはいかない。
ミウモに美味いカレーを喰わせてやると約束したからには!
「どりゃあッ!」
パリィ後のエリフェスのカウンターアタック──
俺はさらにそれを"パリィ"した。
「なッ!?」
「決め時に胸を狙うクセでもあんのかぁッ!?」
俺は見切りも間に合わぬカウンタータイム明けの直後、とっさに短剣で胸を庇うように弾いた。
ラッキーだ。
本当に運が良かった。
エリフェスのこれまでの戦いで、決め技がいつも胸の中心へと集まってくるのを何となく察していたから……直感で弾けた。
チャンスがこちらに舞い戻ってくる。
俺はエリフェスの脇腹へと短剣を突き立てようとするが、
「まだまだァッ!!!」
エリフェスもまた、さらにそれを"パリィ"した。
「うっっっそだろッ!?」
そこから再び突き出される槍、辛うじて俺はさらにこれをパリィ。
次こそはと俺が仕掛けたカウンターアタック、それもまたエリフェスがパリィ!
パリィ、
パリィ、
パリィ、
パリィ、
パリィ!
凄まじいパリィの応酬で青いエフェクトが俺たちを間を瞬き続ける。
「なにこれっ!?」
「パリィってこんなに続くもんじゃなくねっ!?」
「どんなレベルの戦いだよ、コレ……!」
周囲の野次馬のざわめきさえも、今の俺にはハッキリと聞こえた。
脳が焼き付くほどの集中力が、目の前のエリフェスの一挙手一投足を見逃さないように五感を研ぎ澄ましていたからだろう。
風の向き、ニオイ、自分から相手から発せられる熱量、その全てを事細かに把握してそのパリィの応酬は続く。
しかしなぁ、ここまで来て互角とか……
たまったもんじゃないぞッ!?
集中力が切れかけた、その時。
──不意に鼻腔をくすぐったのは、胡椒の香り。
それは恐らく、広場に居たあの焼き鳥の屋台から。
……ああ、分かるぞ、感じるぞ!
胡椒の香りの中に含まれるヒペリン (※)が!
(※胡椒の辛み成分)
鼻腔を通じ体内に取り込まれたソレが、俺の血行を促進し交感神経を刺激した。
──湧き出るアドレナリンが、脳を浸す。
「勝ぁぁぁつ──ッ!!!」
キングオブスパイス、
それがカレーのことを強く思い起こさせてくれる。
俺に最後の力を分けてくれる。
1v1前、エリフェスは言った。
メインシナリオを進めるのがゲームの本懐だと。
料理はその副次的な楽しみ方に過ぎないと。
エリフェスにとってはそうなんだろう。
きっと俺が無駄なことばかりしてるように見えているに違いない。
だか、違う。
ぜんぜん違う。
俺はこのゲームで何ひとつ後悔も取りこぼしもしているつもりなどないッ!
俺はずっと楽しんでいる。
カレーを、スパイスを、料理と食事を、そしてNPCたちとの交流を!
それはこれからもずっと!
「叫べば強くなるモノでもないだろうッ!?」
「そうかもな。だけど、
エリフェスのパリィ後のカウンタータイム。
片手で持った槍を鋭く突き出してくる。
それを俺は──
パリィしない。
短剣を槍の柄に添えてグルリと回し受けた。
そしてさながらレードルでカレーを盛るように丁寧に、そして力強くその槍を掬い上げる!
「ダァァァッ!」
エリフェスの槍は天高く飛ばされた。
不意を突いたその技──
剣道で言うところの"巻き技"が綺麗にハマる。
「クッ……!?」
目を見開くエリフェスの正面、
俺は短剣を持つ手とは逆の拳を固く握る。
「喰らえぇぇぇぇぁッ!!!」
渾身の左ストレート。
俺の全てを乗せたその拳をエリフェスの顔面に突き立てる。
「──グハァッ!?」
エリフェスの体が後ろへと倒れ、そのHPは1→0へと変わる。
直後ホイッスルのようなシステム音が鳴り響いた。
そして、
<WINNER カイ>
俺たちの頭上にそのシステム表示がきらめいた。
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