第51話 スキルっていいな
エリフェスの実力はやはり本物だった。
俺の眼前に吹き荒れるのは高速で繰り出される槍、槍、槍。
「っと!」
その息つく暇もない攻撃の嵐を、しかし俺は短剣でなんとか捌き切る。
カレーバフがなければとっくに穴だらけだ!
とはいえ、いつまでも防戦一方なわけじゃない。
……よかった。あの時エリフェスの戦いっぷりをしっかりと観れておいて。
エリフェスの槍さばき、速度……
両方共にハッカーとの戦いでだいたい頭には入っている。
そして実際に今何度も受けることでその精度はさらに高まった。
……よし。
そろそろ順応し始めてきた。
視えるぞ、エリフェスが仕掛けてくる次の攻撃、そのさらに次に繋げようとしている攻撃のパターンが!
──パリィ!
「ッ!」
エリフェスの息を飲む音が聞こえてくる。
俺の初期装備短剣がエリフェスの槍の穂先をジャストタイミングで弾くことで、青いエフェクトが生じた。
それと同時に俺のカウンタータイム発動。
一気に俺の短剣の間合いへと詰める。
その胸を斜めに裂くように短剣を振るうが、
「させるかッ!」
間一髪、俺の狙いを読んでいたのであろうエリフェスの防御が間に合ってしまった。
しかしレンジは依然として俺のモノ。
攻守交代だ。
間合いを維持したまま、俺は縦横無尽に短剣を振るう。
だが、エリフェスは簡単にそれを良しとしてはくれない。
再びその槍が雷の光を帯びる。
これは先ほど接近戦で見せられたスキル、"
球状に雷を放射して俺を近接攻撃範囲から離れさせるつもりだろう。
しかし、
「残念だったな」
──それもまた、
よし、後ろを取らせてもらおう。
突撃なんてしない。
カウンタータイムは無敵なわけじゃないのだ。
未だ続く範囲攻撃に自ら飛び込んでいってしまってはダメージを喰らってしまう。
ゆえに俺はその時間を使って次の攻撃の位置取りを行った。
そして"
「く──ッ!? もうスキルに対応してきたかッ!」
「心外だな! 二度も同じスキルが通用すると思われてたかッ!?」
俺は自らの間合いを手放さない。
攻める、攻める、攻める──!
カレーバフのかかる今、速さと器用さパラメーターは俺が勝っている。
このまま後ひと押しでいける!
そんな手応えを感じはするが、
「"
エリフェスが槍の石突きで地面を打つ。
するとエリフェスと俺との間の地面から横幅2メートルほどの槍の壁が一気にせり出した。
「おっと」
俺は慌てて1歩下がる。
危うく足を串刺しにされるところだ。
だがそれに気を取られているヒマもない。
その槍の壁の中心に突如、風穴が空く。
そこから蛇のように躍り出る紫電が一直線に俺の胸の中心へと襲いきた。
「おぉうッ!?」
身をよじる。
ギリ、回避!
「っぶねぇ……!」
恐らくそれはエリフェスのスキル"雷電"。
先ほどのハッカー全員に対し致命の一撃を与えていた強力な攻撃だ。
それにしても、
「スキルってどんだけあるんだ……?」
「星の数ほどさ」
エリフェスは再び余裕をもって槍を構えた。
またもレンジを奪われてしまったか。
ああ、スキルってこういうときに大事なんだな……
実感する。
普段の料理ではまるで出番がないからつい後回しにしてしまっていたけど、そういえば"スキルボード"っていうものがあるらしいし、今度見てみよう。
……現状なぜか俺には使えないみたいだけど。
「なあエリフェスさん」
「なんだ?」
「スキルボードってどうやって解放するんだ?」
「……フフ、やはり君は本当に底知れない。おもしろい」
呆れたようにエリフェスはため息を吐いた。
「カイ、宵の明星へ来たら私の弟子になれ。そして共に高め合おう。戦闘で役立つ知識や技術なら全て私が教えられる。その全てを吸収したならば、君はLEF最強プレイヤーの座を目指すことだってできるはずだ!」
「いやだね。弟子入りするなら'90年代くらいから続いてる下町の、サラサラなスープ状が特徴の南インド風カリーに大きな影響を受けている自営業カレー店がいい」
「そうか、残念だ。だが私の下に就いたならある程度の指示には従ってもらうぞ!」
「勝ってから言えっての!」
再び俺たちは激突する。
その後も攻守は入れ替わり、立ち替わり。
何とか俺が近接へと攻め込んでも新しいスキルや見たことのない応用技で弾き返され、また距離を詰めては離される。
一撃が気の遠くなるほどに入らなかった。
だが、決着は近い。
「……!」
気付けばもう少しで1v1の開始から10分が経過しようとしていた。
マズいな。
そろそろ互いのバフが切れる時間だ。
そうなれば俺は単純にレベル差25を基礎パラメーターで覆さなくてはいけなくなるということ。
……それはあまりに無謀だ。
ここにきて地力の差が露呈しようとしていた。
「そろそろ終幕も近いか。カイ、君との戦いは本当におもしろい」
「そうか。俺はおもしろくない」
「なにっ?」
「俺は最初から……美味いカレーが喰いたいだけなんだ」
1v1とか、正直どうでもいい。
美味いカレーを食べるための障害を乗り越えるために受けているに過ぎないのだから。
「ならばいつまでもNPCになど執着せず、ひとりででもカレーを作っていたら良かったのではないか?」
「エリフェスさん、アンタ本当に何も分かってないな」
俺は改めて短剣を握り締め、構える。
バフの時間的にもこれが最後の攻防になるだろう。
「私が何を分かっていないと?」
「カレーの美味さについてだよ。考えてもみろ。誰かの不幸を見過ごして喰うカレーが美味いハズ無いだろうがッ!」
俺が一歩踏み出して終演の秒読みが始まる。
構えられた槍の穂先を叩き落とし、再びエリフェスへと肉迫した。
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