第50話 1v1

「カイ、君は1v1についてはどこまで知っている?」


わんぶいわん?

エリフェスの問いに俺は首を傾げる。

バスケの1on1みたいなものか?


「1v1……要は1対1のプレイヤー同士の決闘のことを指す言葉だ。そしてこのLEFにおいては1v1に関する明確なシステムが存在する」


エリフェスはステータスボードとはまた種類の異なった"システムボード"を空中に出現させる。

こちらは主にゲーム設定をいじるためのコンソールだ。

その中からエリフェスは"1v1"と記載のあるメニューの詳細設定を表示して見せてくる。


「この画面から相手プレイヤーに対して決闘の<申込>を行うことで1v1が可能だ。基本的に"デス"や"ペナルティ"を伴わないのでフレンドとの腕試しコンテンツとしても利用されている」


「そんなシステムが存在してたのか……」


「ああ。詳細ルールを追加することも可能だ」


エリフェスはシステムボードをスクロールし、とある一点で止めて俺に見せてくる。


「カイ、私は互いのHPを"1"にしての決闘を提案する」


「HPを……"1"に?」


「そう。つまり雌雄を決すのは互いの攻撃技による一撃のみ。状態異常や特殊効果によるダメージ判定は0になる」


「搦め手いっさい不可の、まさしく"真剣勝負"か」


「その通りだ。単純明快だろう?」


エリフェスはそう言って、自らのフルプレートアーマー装備を外した。

鎧の内側から現れたのは体格のいい女性プレイヤーの姿。

HP1ならば必要ないということなのだろう。


「分かった。その提案を受け入れよう」


エリフェスのレベルは45、対して俺のレベルは20。

いくら俺がバフを積んだところで基礎パラメーターに違いがあり過ぎる。

体力を0にする手間がガクンと省けるのだからむしろ都合がいい。

それにしても、


「説明が手慣れてるな、エリフェスさん。もしかして1v1をするときはいつもこのルールなんじゃないか?」


「ご明察の通り。これは私の土俵だ」


エリフェスは隠すこともなく頷いた。


「純粋なプレイングスキルに勝敗が左右されるこのルールにおいて、今の私の戦績は151勝1敗だ。気が変わったか? ルールを変えたければ変えてもいいぞ?」


「いや、このままでいい」


「そうか。それならよかった」


エリフェスの目が光るような錯覚。

絶対の自信に漲るまなざしで俺を見る。


「賭けの確認フェーズに入ろう」


エリフェスが声を張る。


「私が勝った際にはカイ、君には今回のNPCの一件に対する一切の口出しを禁ずる。その上で君は宵の明星クランへと加入する」


俺は頷いた。


「俺が勝った場合には、エリフェスさんたち宵の明星クランには運営と話をつけ、ミウモたちNPCの希望を尊重しながら事態の鎮静に努めることを約束してほしい」


「承った。すぐにでも運営へと協議の連絡を入れよう」


エリフェスはそう言うと、強化ポーションを次々に飲んで槍を構えた。


「さあ、時間がもったいない。始めるぞ」


「……分かった。泣いても笑ってもこの一回勝負だ」


俺もまたアイテムボックスから必要なバフを持ったカレー小瓶を取り出して飲んでいく。

満腹度ゲージ最大で、必要なバフは全て積むことができた。

HP1のため、力と体力と耐久は無しでOK。

速さ・器用に全振りする。

……思えばいつもこんなバフ構成だな、俺?


「おいっ、あれ宵の明星のエリフェスだぞっ!」


「フルプレート脱いでるとかレアじゃねっ!?」


「1v1って……相手誰だよっ!?」


ただならぬ雰囲気で対峙する俺たちの周りに、だんだんと他のプレイヤーやNPCたちが集まってきた。

その中には配信してると思しきヤツらの姿も。

無断なのが気になるが……

今は集中を他に割いてる余裕なんてない。


<エリフェス から1v1の申込がありました。受諾しますか?>


俺は眼前に浮かんだそのダイアログの<OK>をすぐに押した。

俺たち2人の間に<10>の数字が浮かび上がる。

ゆっくりとカウントダウンが始まる。

エリフェス不意に微笑んで、


「観たぞ、フォグトレント戦」


「っ?」


「君の実力がレベル以上なことは分かっている。手加減はしない」


「ご親切にどうも。じゃあ俺からもひと言……舌噛むから口閉じとけよ」


「……! 言ってくれるではないか」


<2、1……>


<0>


カウント0と同時、動く。

突き出される槍、俺はそれを思い切り弾いて一気に間合いを詰めた。


「──ッ!?」


目を見開くエリフェスへ接近。

三度振るった短剣が鉄製の槍柄に弾かれ火花が散る。


「言うだけのことはあるなッ! カイッ!」


開幕直後のその動きに周囲の野次馬たちが沸き立った。

いつの間にか大注目されている。

まあ気にしてるヒマなんてないが。

槍相手の勝負、これはいかにして自分の攻撃距離レンジを保つかが全てだ。

高倍率のカレーバフ恩恵を最大限に生かし、動きの速さと精確さで常に先手を取るつもりで行く。

今の位置は悪くない。

だが、


「私が接近戦に対応できないとでも?」


エリフェスの槍が瞬いた。


「スキル、"雷光雷ライコウライ"」


槍を中心に雷の網が、バリアのように球状に広がった。

俺はすぐさま後ろに退避してそれを躱す。

半径2メートルほどのそれはものの1、2秒で消えたが、


「さて、ここからはまた私のレンジだな」


俺とエリフェスの距離、数メートル。

エリフェスの槍が俺へと狙いを定めてくる。


「……よし」


油断なく構えつつ、俺はひとまず安心。

カレー称号×一ツ星クッキングナイフの2つの効果によって高倍率化しているバフのおかげで、パラメーター的には何とか勝てているようだ。


……さあ、また距離を詰めるところからだな。


短剣を前に構え、慎重にタイミングを見計らうことにした。

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