第47話 美味しいミルクを用意して
リターンリング。
カルイザワによると、それは装備時に1度だけ設定できる場所への瞬間移動が可能な指輪装備らしい。
とすると、エリフェスは先ほど宵の明星クラン本拠地へと帰ったということになるだろう。
「便利だなぁ。俺もキャシーさん宅に設定したリターンリング欲しい」
「い、言ってる場合っ!? カイくん、君かなりとんでもない人と対立する流れになってるのよっ!?」
俺たちは草原に来ていた。
カルイザワにミウモもいっしょだ。
愛用のブラシを手に持ち、近くの森へと向けて他の木の棒と叩き合わせてカンカンと鳴らしていた。
逃がした牛たちを再び集めるためだ。
ミウモはブラシの時間になるとそうやって牛たちを呼んでいたのだそう。
「カイくん、『ミウモたちを救う他の方法』って言ってたの、何か思いついた……?」
「んー……まあ、一応は」
「!? うそ……本当にっ!?」
「でもそれがエリフェスさんに受け入れられるかは分からない。なんとか説得してみようとは思うけどさ」
俺がそんなことをカルイザワと話していると、
「──あの、本当に申し訳ございません。私のせいで」
ミウモがいつの間にか、俺たちの側までやって来ていた。
沈鬱な面持ちで、
「私たちのせいで、カイさんたち旅人さんにご迷惑を……」
「謝るな。言ったろ? 俺は美味いカレーといっしょに美味いミルクが飲みたいだけだって。だからそのミウモが言う迷惑とやらは俺が自ら好き勝手に背負ったものなんだよ」
「でも……本当に私は旅人さんたちに甘えてしまってもいいのでしょうか」
「どういうこと?」
ミウモは俯いたまま、
「私は、本来私がすべきことではない行動を取っているんじゃないかって思うんです。それは、例えばまるで神様から与えられた役割に抗っているような……」
「別にいいじゃないか。神様に抗ったって」
断言する。
だって、同じ状況なら俺だって抗う。
「例えば神様に明日からカレーを喰うなと命令されたら、俺はきっと神様を倒してでもカレーを喰うだろう。なぜなら俺がカレーを喰いたいからだ」
「カイさん……」
「最初に与えられた役割が何にせよ、ミウモは今ミウモがやりたいようにやればいい。
森の方からノソノソと何かが出てくる。
よく映像で見る穏やかな顔をあの白と黒の動物は、
〔ンモォォォ~っ!〕
牛たちが茂みから顔を出して、草原をミウモの方へと歩き出してきていた。
「み……みんなぁっ!」
ミウモが走って行って牛たちに抱き着いた。
牛たちに嫌がる様子はない。
「生きて……無事だったのねぇっ!!!」
泣いて喜ぶミウモに、牛たちは伸びやかな声で応じる。
そしてモソモソとミウモの髪を食んだり、地面の草原の草を食んでいてとても元気そうだった。
本当によかった。
「よしっ。じゃあ俺はそろそろ行くとするか」
「行くって……どこに?」
「アイギスの町。エリフェスさんはそこで色々と準備してから来るって言ってたろ? だからその前に話を着けてくる」
「……受け入れられるといいね。そのカイくんが考える"他の方法"が」
「ああ。でもそのためには……エリフェスさんの考え方を変えてもらう必要がある。あの人は結局、ミウモのことを"NPC"としか呼ばなかった。あの人にとってNPCはきっとゲームの歯車程度の認識に過ぎないんだろう。でも……」
俺は違うと思ってる。
右手に嵌めている空腹のリング、NPCであるキャシーさんに受け取ったこれのおかげでたくさんのカレーが食べられたし、このリングを見ればキャシーさんと囲んだ食卓を思い出せる。
俺の出したカレーを美味そうに食べてくれた料理長、兵士たち、競馬のオッサンたちとの会話だって思い出せる。
「NPCだろうがなんだろうが、彼らはみんな俺の出したカレーを美味いと食べてくれる人たちだ。ないがしろにしていいわけがない。俺はそう思ってる」
「……うん。そうだね。私も同じ意見だ。NPCみんなの個性によって生まれる沢山のシナリオのおかげでLEFは成り立っているんだから」
カルイザワは気合を注入するように俺の両肩をバシバシ叩いてくる。
「がんばって、カイくん。私はまだ少しミウモちゃんが心配だからここで待ってることにするけど、もし何か私にもできることがあれば何でも言ってね」
「おう。ありがとな。行ってくる」
俺は町へ向けて歩き出す。
徒歩で10分もかかるまい。
「カイさんっ」
牛たちの元からミウモが走り寄ってきた。
「あのっ、私……やっぱりどうしても連行、されたくありませんっ! あの子たちといっしょにここで生きていきたいですっ!」
「それがミウモのやりたい事なんだな」
「はいっ。そうです……!」
ミウモはそう言って、深く頭を下げてくる。
「ご迷惑をおかけしてすみませんっ、でもっ、どうかカイさん……よろしくお願いします……!」
「ああ、任せろ。その代わりアレを頼むぞ?」
「ミルク……ですよねっ! 任せてください!」
「帰ってきたら俺はカレーを作るから。今夜はカレーとミルクでパーティーだ!」
俺はアイギスへと向かう。
連行の準備と言っていたからには馬車なりなんなりを用意するつもりでいるのだろう。
その準備は無駄に終わる。
いや、俺が終わらせてみせる。
俺はステータスボードを開きフレンド欄からエリフェス宛てのチャットを起動。
彼女を呼び出すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます