第48話 驚愕のニュース
夏休み5日目。
しかし、
この日の昼下がり、
「フランス語に日本舞踊、それにヴァイオリン。いくらなんでも早朝からお稽古を詰め込み過ぎでしてよ……」
「お
「ご立派でしたわ、光子お嬢様」
光子を労うのはお付きの愛歌・恋歌の2人。
夏休みの間は稽古や家庭教師を招いての勉強など、光子のスケジュールは多忙を極めていた。
今日はまだLEFへのログインもできていない。
宵の明星クランリーダー"みっちゃん"として、ハッカー問題の件を幹部たちにほとんど丸投げしてしまっているのは気が気でなかった。
叔父には『人を上手く使って問題解決させるのも上に立つ者に必要な素質』と言われていたが……光子にとってはまだ難しく感じる。
──それに、気がかりなのはLEFに関することばかりではない。
愛歌と恋歌にドレスから普段着への着替えを手伝ってもらいつつ、光子はチラチラとスマホを見やる。
「そんなに東様へとご連絡なさりたいのであればなさったら良いのではないでしょうか、お嬢様」
「んなッ!?!?!?」
愛歌の発言は図星だった。
気が気でないことはLEFのことばかりではない。
東海斗。
彼との距離がこの夏休みで離れてしまうのでは──
それが光子の胸中に不安を掻き立てていた。
「きっと東様もお嬢様に連絡をいただけたなら喜ぶはずですわ」
「そうですよお嬢様。いっそのこと何かアクティビティにお誘いなさってはいかがでしょう。この夏に距離をグッと縮めて周囲に圧倒的大差をつけてしまったらよろしいのでは?」
「う、うーん……」
光子は揺れていた。
確かに東海斗はそれほど忙しい人間には思えないし、連絡が邪魔になるとは思わない。
気の良い人柄だから、アクティビティに誘えば乗ってくれるだろうとも思う。
でも、
「こ、この
「「自分からお誘いになるのが気恥ずかしいだけでしょう?」」
「ぐっ……」
愛歌と恋歌、2人に同時にまたしても図星を突かれる。
まあそもそも始まりが高校一年生の頃からの片思いで、それからほとんど丸一年なんの進展もないのだから恋愛面での光子の度胸はお察しであった。
「せめて……せめて何かキッカケがあれば……」
光子がそうボヤいたその瞬間だった。
──ピリリリッ!
「っ!!!」
光子のスマホが鳴った。
「えっ、うそっ、まさか……!?」
噂をすれば影なんて言葉があるけれど、まさか東海斗からの着信っ!?
こんな形でキッカケが生まれるなんて。
胸を高鳴らせながらスマホを取る。
液晶に映っている名前は、
<叔父様>
「……」
通話ボタンをタップ。
「ごきげんよう、叔父様? 御用件は?」
『あ、ああ? どうしたんだ光子ちゃん、声が怖いぞ?』
「いいえ、そんなことございませんわよ?」
嘘である。
毎度毎度この叔父はタイミングが悪すぎる。
……まあ今回に関しては光子が勝手な期待をしていただけではあるのだが。
『まあ機嫌を損なってなければそれでいいんだが……すぐに伝えておいた方がいいだろうということがあってな』
「もしかしてLEFのハッカー絡みの件でしょうか?」
『その通りだ。つい先ほどハッカーが捕まったよ。君のクランのエリフェスさんのお手柄さ』
「! まあ、エリフェスさんがっ!?」
『ああ。それも主犯格をな。どうにも他に協力者が居たようだが、エリフェスさんも急いでいたようで詳しい話はまだ聞けていない。魔改造NPCを見つけたようで、その連行作業を行うらしい』
「なるほど。被害にあったNPCがどんなクラッキングを受けたのかは詳しく知って対策に繋げる必要がありますからね」
『うん。ハッカーについての詳しい話と魔改造NPCについての件、エリフェスさんには光子ちゃんから話を聞いておいてほしい』
「承知いたしました。それにしても、これでようやく一件落着ですか……」
『お疲れ様。光子ちゃんたちには苦労をかけた。この活躍のおかげで我々
「叔父様は気軽に仰いますが、今回のことでクランメンバーにはかなりの負担を強いてしまいましたわ。必要情報の提供や分析などもっとどうにかなりませんの?」
『それは不手際ですまなかった。こちらの借りにしておいてくれ。次の機会に何かあれば格別に便宜を図るようにするから』
「二言は無しですわよ?」
そうして会話を終え、光子はスマホを机に置いた。
「さて、私もLEFに向かって状況を把握しなければ……恋歌はわたくしの
「はい──……っ!? お嬢様っ!」
「愛歌? どうかいたしましたの?」
「こっ、こちらをご覧になってください!」
「えっ?」
スマホでクラン幹部へと連絡を取ろうとしていた愛歌がその画面を光子へと見せた。
それはチャットアプリではなく、配信サイト。
そこで配信されていた様子はプレイヤー同士の"1v1"。
配信タイトルは──『【1v1】宵の明星エリフェス vs 謎の初期装備プレイヤー!?』
「はぁっ!? エリフェスさん……!?」
しかもエリフェスは普段纏っている白のフルプレートアーマーを脱いでいる。
それは彼女が本気で1v1に臨んでいる証に他ならない。
「いったい、LEFで何が起きているんですの……!? 恋歌! VRHを早くっ!」
「はっ、はいっ!」
光子は急ぎ、LEFへとログインするのだった。
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