第45話 最強到来
俺が近づくと、マザーモンスターの肉のコブが隆起する。
そしてそこから飛び出してきたのは牛型モンスター"アカベッコー"。
俺目がけて突進してくるが、
「レベル1かよ!? さすがに何の障害にも……」
──ボコォッ!
──ボコボコボコォッ!
立て続けに、マザーモンスターの体のコブから大量のアカベッコーが生まれ落ちる。
牛舎を埋め尽くさんばかりに、だ。
これはさすがに足を取られる!
そうこうして手間取っている内に、巨大なマザーモンスターの手 (と思しき肉塊)が俺目がけて振り下ろされた。
間一髪、回避!
「くそっ、パリィのタイミングが分かんねぇっ!」
マザーモンスターの中途半端な姿形のせいでどこからが攻撃判定ゾーンなのか距離感が測りにくい。
レベル1アカベッコーたちを踏みつけにしてマザーモンスターへと距離を詰める。
「でりゃあああッ!!!」
思い切り斬り付けた。
感覚は枝肉をナイフで切るのとまったく同じもの。
硬くもなく、抵抗もない。
しかし、
「うおっ!?」
その切り口から突然、仕掛けのように肉が伸びてきた。
肉の槍……肉槍だ。
こちらもなんとか身を捻って躱すことに成功。
なるほど、カウンター攻撃までしてくるのか。
厄介な……
と思いかけて、しかし。
「待てよ? もしかしてカウンターは自動なのか?」
もう一度マザーモンスターの肉を斬り付ける。
するとやはりそうしてできた切り口から同じ肉槍が伸びてきた。
機械みたいに精確に、先ほどと同じ軌跡をなぞっている。
「おいおい、見つけちまったなぁ。突破口!」
斬ればカウンターが来ると、そう分かっているならこちらのモンだ!
短剣でマザーモンスターを斬り付ける。
直後襲い来る肉槍に合わせて、
──パリィッ!
その後のこちらからのカウンタータイムでさらに斬り付ける。
そしてその切り口から再び現れる肉槍にパリィ。
カウンター → 短剣で攻撃 → 肉槍攻撃をパリィ → カウンター → 短剣で攻撃 ……
ひたすらに連鎖を重ねていく。
ハマりさえすれば楽だった。
なにせ、このマザーモンスターには意思というものが無いように思える。
俺への攻撃も常に反射行動なのだ。
AIの行動パターン最適化も一向に訪れない。
本当にただただアカベッコーを産み落とすためだけに生まれた存在なのだろう。
「哀れ過ぎるぞ、オイ」
俺はマザーモンスターを削ぎ続ける。
次第にその肉塊は自立することが叶わなくなり、崩れ落ちた。
それがマザーモンスターにとっての死だったのだろう。
その体はボロボロと崩れ落ちるようにして消えていく。
同時にレベル1のアカベッコーたちも消え去った。
閑散とした牛舎の中、素材と思しき大量のアカベッコー肉だけがそこに残った。
せめて喰って弔わねば。
ぜんぶ拾っておく。
「で、コレがブラシだな」
俺は牛舎の奥のそれを取って、入り口まで戻ってミウモへと手渡した。
「さ、牛たちを取り戻しに行こうか」
「は……はいっ! ありがとうございますっ!」
ミウモは大事そうにそのブラシを胸に抱える。
「戻って……来てくれるかな」
「戻って来てくれるさ。きっと。そしたら俺の最高に美味いカレーと、君の牛たちの最高に美味いミルクで乾杯だな」
「……はいっ。その時は、ぜひっ。カレーなんてとても久しぶりです」
ミウモはそこで初めて、弱々しくも微笑みを見せてくれる。
……あとは乳牛たちが戻ればきっと元気を取り戻してくれるはず。
牛たちが無事なことを祈ろう。
ミウモを連れてカルイザワたちの元へと戻った。
変わらず、男は拘束されたままだった……
しかし、
「クッ……ククククク……!」
男が突然、笑い出した。
「あのバグモンスターを殺したか。まあいいさ。俺さえ居ればまたいくらでも作れる」
「お前、ここから逃げられる気なのか?」
「逃げられないと誰が言った? お前らは"俺たち"に時間を与えすぎた……!」
"俺たち"?
どういうことだと問い返す前に、耳をつんざくジェット機のような音が空から響く。
東西南北いたる方向からいくつもの光の弾がこちらに目がけて飛んできて、俺たちの周りに着地した。
それは全てプレイヤーだった。
しかも全員、その名前は赤く染まったPK。
数は10に及ぶ。
「……なんだこれ!」
「【リターンリング】! ここを
カルイザワには心当たりがあったらしい。
どうやらそのリングの効果のようだ。
とはいえ、まさかこんな気軽に増援を到着させることができるとは予想外すぎた。
プレイヤーは全員俺よりもレベルが上であり、かつ、中にはレベル40ジャストのプレイヤーも2人いる。
「さぁて、形勢は逆転だな? どうするよニュービィーッ!?」
うつ伏せで縛られながら男が吠えた──
次の瞬間だった。
突如吹き荒れた嵐に、増援プレイヤーたちが吹き飛ばされたのは。
「──
その声が聞こえてきたのは町の方のあぜ道。
白く大きな馬を走らせて、その馬上で槍を構えていたのは、
「短期間でよく会うものだな。カイ、そしてカルイザワ」
いつか王都北部の森で会った宵の明星クラン所属メンバー、白いフルプレートアーマーに身を包んだプレイヤー・エリフェスだった。
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