第31話 コンビネーション
「よし、準備完了」
「ほんなら行くかぁー」
カイとボンジリは歩き出す。
Lv30クラスのボス、フォグトレントへと向けて。
>がんば!
>マジでやんの?
>期待
>さすがに無理やって
>応援してる
流れてくるコメントは、期待と不安が入り混じっている。
それも当然、
レベル差を考えれば無謀な試みなのだ。
……だけど、カイ君ならできる気がするんよな。
フォグトレントは、カイがその周囲半径5メートル圏内に足を踏み入れると反応を示した。
ただの木の幹のシワに見えていた部分が赤く光る。
それがフォグトレントの眼だった。
レベル表記が見える。
フォグトレント:Lv34。
「行ってくるッ!」
カイが強く地面を蹴りフォグトレントへと駆け出した。
そしてまずは一撃。
その手に持った初期装備短剣で幹を斬り付けた。
バチンッ!
斬り付けた短剣から黒い光のエフェクトが奔る。
クリティカルヒットだ。
ちなみにカイはアイテムボックスから取り出したカレーの小瓶を使ってバフを重ねていた。
その内訳は、
★
体力:↑↑↑
力 :↑↑↑
速さ:↑↑↑
耐久:↑↑↑
器用:↑↑↑
~(中略)~
その他:パリィ成功時にダメージを与える
★
空腹のリングの特性を最大限利用して、料理バフを積めるだけ積んでいる。
だが、カイの攻撃を受けたフォグトレントに変わった様子は無い。
……レベル差がレベル差やからな。一撃のダメージはそれほどでも無いやろ。でも、それでええっ!
ボンジリが状況の分析に努めていると、
フォグトレントの頭上の枝葉から8本の太い攻撃用のツルが垂れる。
「攻撃がくるで、カイ君!」
「承知!」
ビュオン、と風を切る音。
8本の太いツルがうねり、エモノに飛びかかる蛇のようにカイへと迫る。
カイはタイミングよく短剣で弾き、
──連続パリィ。
しかし、その間隙を突くように後ろから数本のツルが伸びる。
「任せぃッ!!!」
そのツルの攻撃を請け負うのは、ボンジリ。
ボンジリはそのツルの動きを離れた位置から観察し、予測し、先回りしていた。
そして、その手に装備した盾でツルを叩き落とす。
輝く青いエフェクト。
ボンジリのパリィもまた成功した。
「っしゃ! 行けやカイ君!」
「ありがとう──ッ!!!」
カイによるパリィ直後のカウンターアタックがフォグトレントに刺さる。
そんなカイに対してまたもや前後左右からツルの攻撃が仕掛けられるが、
「「パリィ!」」
2人は揃って、それぞれの方向のツルをパリィする。
カイはさらにカウンターを仕掛け、ボンジリは次のフォグトレントの攻撃に備えた。
──対フォグトレントの戦略は至極単純だ。
攻撃は全てカイに任せ、
ボンジリはその補佐を徹底する。
明確な役割分担を敷いていた。
ゆえにボンジリが宿すバフは、
★
体力:↑↑↑
力 :↑
速さ:↑
耐久:↑↑
器用:↑↑
~(中略)~
その他:なし
★
このように体力を3積みする耐久特化のバフだ。
ボンジリはタイミングが重視されるパリィにそれほどの自信がない。
だからこそ、失敗した時のリスクを勘案してのバフ構成だった。
……せやけど、今日は調子が
ボンジリもまた一度もミスすることなく、
精確にパリィでカイへの攻撃を無効化する。
一方のカイは、
パリィ→カウンター、
パリィ→カウンター、
パリィ→カウンター、
どんどんと攻撃を積み重ねていった。
その流れが20回以上ミスなく繰り返されていく。
>おおっ!?
>このままいけちゃう!?
>いけるいける!
背中を押すようなコメントが流れてくる一方で、
>だいぶ綱渡りだな・・・
>1回タイミング外したら総崩れ
>攻撃の手が足りんくない?
>これ何回パリィ→カウンターの流れが成功したら倒せるんだ?
作戦の雲行きを怪しむコメントもまた多い。
だが、
……いいや、攻撃の手は足りとる!
ボンジリにはその確信があった。
現に、カイが再びパリィをしたその直後、
──フォグトレントの行動パターンが変わった。
それは視聴者コメントで寄せられた情報によれば、フォグトレントのHPが半分以下になった合図だ。
>えっ!?
>は、マジっ!?
>早くねっ!?
>もうHP削れたのかっ!?
驚きのコメントが連続するが、それも仕方ない。
通常、どれだけパラメーター上昇バフを積んでもレベル16やそこらの攻撃じゃここまで速くHPは削れないのだから。
しかし、
「カイ君にはもう1つ"特殊バフ"がかかっとるんやで?」
>特殊バフ?
>そんなんあった?
>なんだっけ?
>あ!あるわ、あったわ!
>ああっ、アレかっ!?
>パリィのやつ!?
「そう、それや。フォレスティ肉入りカレーを喰うたときに付いた『パリィ成功時に通常攻撃ダメージを与える』特殊バフや」
つまり、バフを3積みした通常攻撃に加えて複数のツルをパリィした分のダメージが入る。
ツルを8本使う、手数が多いフォグトレントにこそ刺さる特殊バフだった。
「つまり、カイ君は1人で数人分の攻撃力を発揮しとんねん! 攻撃の手は充分足りとる!」
フォグトレントのHP、残り半分。
カイ・ボンジリ、未だ無傷。
とはいえレベル差もあり、フォグトレントの攻撃をひとつでもまともに受ければ形勢は逆転されてしまう。
あとは2人どれだけ集中力を継続させ、揃って攻撃に対処し続けられるか。
精神力の勝負だった。
「よぉし、もうひと息……!」
カイは深く息を吸い込むと、
「待ってろ、リンゴぉぉぉぉぉッ!!!」
フォグトレントに向けて再び駆け出した。
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