第30話 カレーのバフ
「ごちそうさまでした」
カイが両手を合わせる。
1人で"フォレスティ肉入りカレー"をペロリと2人前食べ切ってしまった。
「ホンマ、よう喰うやっちゃな……」
「VRだしお腹に溜まらないからね」
「実際に腹に溜まるわけでもないのに飽きずにカレーばっかり喰い続けられるのもすごいねんけどな」
ボンジリは大きく息を吐く。
呆れと称賛、両方入り混じった気持ちだ。
個性的っていう言葉のはこういうヤツのためにあるんだろう。
「ところで今回のその料理にはどんなバフが付いてん?」
「え? そういえばまだ見てないな……」
カイがステータスボードを開いて見せてくれる。
★
体力 :117↑
力 :53↑
速さ :51↑
耐久 :45↑
器用 :45↑
~(中略)~
その他:パリィ成功時に通常攻撃ダメージを与える
★
「あっ、なんか"その他"に書いてある」
「なになに? 『パリィ成功時に通常攻撃ダメージを与える』やって……? 見たことないなぁ。視聴者さんたちはどうや?」
ボンジリが尋ねると、
>俺は知らんな・・・
>盾装備とかでは見たことあるかも
>防御時にダメージを与える盾ならある
>序盤だと見ないね
どうやら料理に付属する効果としてはあまり知られていないらしい。
「さっきのフォレスティがパリィしてくるモンスターだったから、とか?」
「なるほど。モンスターの肉を料理に使うと、そのモンスターの特性に似た効果が出るっちゅうことか。あり得なくはないなぁ」
「なるほどね……俺パリィ結構得意だし、この効果は使えるかもな」
そう言ってカイはレシピノートにつらつらと追記していた。
その後も迷いの森を進んで行くとチラホラとモンスターとエンカウントしたが、
「まあ、ボンジリさんが食べられないんじゃな。俺、ちょっとカレーをガマンするよ」
「おっ、おお……! スマンな、恩に着るで」
と、カイはモンスターを倒しつつも、
その食材だけゲットして即調理というのは
誘惑を振り切って堪えてくれて……
「くっ、ハチミツ……カレー……!」
「めっちゃ震えながら歯ぁ食いしばっとる! もはや禁断症状やんけ!」
アサシン・ビー (巨大な蜂型のモンスター)からドロップしたハチミツを前に、カイの手にはすでに鍋が握られて、震えていた。
めちゃくちゃガマンしているのがありありと分かる。
>いや草w
>意思の弱さよwww
>もうちょいがんばれw
>禁断症状www
>カレーに〇薬成分入ってたりする?w
>喰ってみな、飛ぶぜ
コメントが先ほどよりも増えた気がする。
見れば同接数が2000を越えていた。
……マジか。つい昨日までは1000超えるのがやっとだったのに。
これがカレーの可能性か?
いや、違う。
このカイというプレイヤーに惹かれたのだろう。
「カレー……カレー……」
本人はカレーに惹かれてばっかりみたいだけれども!
そんなカイをなんとか引っ張って、ボンジリは迷いの森を進む。
すると、開けた場所に出た。
「ん? ここは……?」
広場だろうか。
霧は未だに濃いままだったが、しかし木々が視界を塞ぐことはない。
開けたその場所の中央には大木が1本。
>あっ、ソイツやばいぞ
>触れるな危険
>今のレベルじゃムリゲー
その大木についての情報を何か知っているらしきコメントが流れてくる。
「えっと、なんやの? コイツ?」
>植物系モンスターの"フォグトレント"
>この迷いの森に確か何本か生えてる
>レベル30クラスのボスだよ
「マジかっ!? レベル30台のボスモンスター!? なんでこんな序盤の迷いの森に居るねん……」
>やり込み要素的な?
>ツル攻撃はダメージ高いから即死ぬぞ
>しかも複数本使ってくるからエグいwww
「なるほど……情報ありがとうな。ここは回避が妥当か。カイくん、ほんなら大木に近づかんようにグルっと回って行こうか」
「……」
「カイ君?」
カイはフォグトレントをジッと凝視し、
「なぁ、アレなんだと思う?」
そう言ってフォグトレントの枝葉で覆われた頭上を指さした。
そこには赤い何かが浮いている……
いや、実っている? ように見える。
「……木の実?」
「やっぱり、そう見えるかっ?」
カイは嬉しそうに (?)訊いてくる。
「俺はアレ、"リンゴ"じゃないかと思ってるんだけどさ、もうちょい近づいてみていいかな?」
「いやいや、いいわけあるかいっ!」
ボンジリはツッコんで止める。
「レベル30台のボスモンスターやぞ? カイ君はレベル16、俺は15や。下手したら一撃で落ちるで」
「え、そうかな? でもカレー食べてるし、パラメーターだけなら今の状態でもそこそこ高くなってると思うけど」
「ボスモンスターと通常モンスターのパラメーターは基礎値が違うってチュートリアルで経験したやろ? 自分と同じレベルのボスに挑むにしても、十分なバフにデバフ、回復手段を揃えてようやくまともに戦える、っていうのが基本やないか」
「へぇ、そうなんだ」
「……なんやその『初耳です』みたいな反応は」
カイは表情を厳しくしつつも、リンゴ (仮)から目を離さない。
いったいどれだけカレーが作りたいのか、
カイはしばらく考えて込むようにしていたかと思うと、
「……ボンジリさん、いちおう勝算があるんだけど」
「えぇ? 諦めの悪いやっちゃなぁ……」
でもいちおう、ボンジリは耳を傾けることにする。
カイの勝算というのは……
「な、なんちゅう……脳筋な……!」
「頼む! 協力してくれ、ボンジリさん。美味いカレーのためにっ!」
カイはそう言って拝むように手を合わせてくる。
一歩間違えればデス間違いなし……
でも、カイの話通りに事が進むなら勝利の可能性はある。
特にカイならば何かを起こしてくれるんじゃないか、
そういった予感もする。
「……わかった。カイ君には配信に協力もしてもらってるしな。お返しや。やったろうか!」
そうして、2人は一見無謀にもフォグトレントに挑むことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます