第26話 配信の誘い
「え、3日も迷ってるん? ホンマに?」
「うん、ホントに」
「……ほんで3日もここで生き抜いてるん? マジで?」
「うん、マジで」
ボンジリの問いに対し、モッモッとカレーを咀嚼しながらカイは頷いた。
プレイヤーたちが数日迷った挙句に出られずにゲームオーバー、あるいは掲示板で中堅層に助けを求めるなんてことはよくあることらしいが……
このカイはその誰とも違う。
「びっくりしたよ。まさか"迷いの森"がこんなに迷う場所だったなんてなぁ」
「そら迷うやろ、"迷いの森"なんやから」
「そっかぁ……まあ、たくさんモンスター肉入りのカレー食べれてるし、結果的にラッキーだったかなとは思ってる」
「心臓に剛毛生えとるんかいな、どんだけのポジティブシンキングやねん」
「ふぅ、ごちそうさまでした」
カイがようやくカレーを食べ終わった。
カイは何やらノートを取り出すと、
「今のレシピはこうで……効果は"体力増加"っと」
レシピメモを作っているらしい。
記載が終わりノートを仕舞うと、
それから鍋のヨゴレを水ですすぎ始める。
そしてその鍋に新しく水を張って、少量の塩を投入。
まな板の上にフォグドッグの肉を載せてトントンとぶつ切りにし始めて──
「いやいやいや、ちょい待ちやっ!?」
「えっ、どうしたの?」
「所作があまりにナチュラル過ぎて危うくスルーするところやったわ! なんで次の料理作り始めようとしてんねんっ? 今さっきカレー喰うたところやんか!」
「そりゃあ次のカレーを食べるためでしょ」
「アカン、分からん! どういうことっ!?」
カイは黙々と調理を進める。
肉を沸騰した鍋の中へ入れ臭みを抜き、
次に野菜を切り、
今度は油の敷いたフライパンへと根菜類から順に投入。
そして塩、スパイスを入れ炒め始めた。
「スパイス……もしかしてカイ君、ホンマにまたカレーを作る気なんかっ?」
「そりゃね。だって俺、カレーを食べるためにLEFやってるし」
カレーを食べるため?
冗談だろう?
とボンジリは思ったが、しかし。
なるほどな、と腑にも落ちた。
カレーを食べることが目的ならば、カイが纏っている装備が初期装備なのに対して、これだけ調理器具が揃えられているのに納得ができる。
マネーを全部カレーを作るための費用に充てているのだろう。
カレーなんて現実で食べればいいじゃないか、とは思うけれど、そこは人それぞれ何かの事情があるのかもしれない。
「あ、ボンジリさんも食べる? フォグドッグ肉入りカレー」
そうこう考えている間にカレーは出来上がっていた。
カイは自分の分を既によそっていた。
「あ、いや俺は……」
あのグロテスク代表みたいなモンスターの肉入りカレーなんて、怖くて正直腰が引ける……
遠慮しようと思っていたが、しかし。
……待てよ? フォグドッグの肉入りカレーだなんて、普通誰も食べたことないよな?
だとしたら、その料理がいったいどんな味がするのか、視聴者は絶対に興味を持つ。
そうに決まってる。
ボンジリの配信者としての勘がそう囁いた。
「カレー、いただきます。それとカイ君、別でひとつお願いしたいことがあるんやけど……」
「ライス? 無いよ?」
「ちゃうわ、そこまで食い意地張っとらんて。そうやのうてな、この"迷いの森"を無事に抜け出せるまでの間、俺といっしょに配信をやってくれへんか? ってお願いや」
ボンジリは続けて、
「君の作るカレー、視聴者の興味をめっちゃ引くと思うねん。どうやろうか?」
「いや、配信するヒマはないな。俺カレーを作ってたいだけだし、」
「それでええねんっ、君はカレーを作って食べてをしてくれさえすればそれで!」
ボンジリは鼻息荒く言う。
もうすでに、ボンジリはこのモンスター肉入りカレーというものの可能性に一切の疑いがなかった。
「俺もいっしょに食べさせてもらって、それを視聴者に向けてリポートしたいんや。もちろん報酬は払う。マネーでも、レア食材でもなんでもなっ!」
「……レア食材っ?」
初めて、カイの耳が興味深げにピクリと動いた。
「レア食材って……例えば?」
「例えばやけど……あ、王都じゃ手に入らんコレとか、コレとか」
ボンジリがアイテムボックスから取り出したのは、"ショウガ"、そして"クマ肉"だった。
すべて、他プレイヤーとの取引を通じて手に入れた物たちである。
「おっ……おおっ! 麗しのジンジャー! 見た目からしてクセ強なジビエ!」
「それに狩りや食材の負担もできる限りさせてもらいたい。それでどうや? 配信を引き受けてくれへんか?」
「……いいでしょうっ!!!」
カイは心底嬉しそうに、大きく頷いてボンジリの提案を受け入れた。
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