第24話 配信者とカレーオタクの出会い
フルダイブ型のVRMMORPGのそのタイトルは日本国内で断トツの人気を誇っており、各動画サイトではその実況プレイ動画の流行が極まっていた。
「"迷いの森"、どないしろっちゅうねん!」
LEFの流行に乗り配信を始めた関西のイントネーションのその男は、プレイヤー名"ボンジリ"。
チャンネル登録者数3万人のゲーム実況配信者だ。
そんなボンジリは霧のかかる森の中で方向感覚を失い、途方に暮れていた。
「くっそぉ、騙されたわ。まさか取引で"偽造コンパス"掴まされるとはな……油断しとったで」
>間接PKってヤツか
>定価でコンパス買わず取引に頼るから・・・
>迷いの森でコンパス無しは死亡確定
>進展ないなら切るわ
>お疲れーっす
配信を見た視聴者たちのコメントがボンジリの右の視界に流れてくる。
同接数は一時1000を越えていたものの、それが段々と下がっていく。
……このままじゃマズい! チャンネル登録者数をこの夏に5万まで増やすつもりだってのに!
しかし、弱り目に祟り目、
あるいは泣きっ面に蜂。
焦るボンジリの前に茂みを割って現れたのは、
「くっ……こんな時にぃっ!」
花のように縦横4つに裂けた顔、その内側にズラっと鋭利な歯が並んでいるというグロテスクな四足歩行モンスター……
その名はフォグドッグ。
>うわっ、キモいの出てきた
>キモっ!!!コワ!!!
>迷いの森は恐くて自分じゃ入れんw
>3体か・・・死んだな
>耐久は無いが攻撃が高いんだよな
「逃げるしかないっ!」
ボンジリは辛うじてフォグドッグたちの攻撃をかわすと、一目散にその場を逃げる。
しかし、
>あぁ、後ろ後ろ!
>ダメだこりゃ
>追いつかれる
実況を見る視聴者たちはLEFに備えられた第三者視点カメラというもので、ボンジリを中心とした周囲の様子を見られるようになっている。
それゆえに、ボンジリのすぐ後ろに迫っているフォグドッグが見えるのだろう。
「くっそぉぉぉッ!」
そんな時、ボンジリの目がオレンジの光を捉えた。
アレは……火?
焚火だ!
ということはつまり、プレイヤーがいる。
「おぉいッ! 助けてくれぇぇぇ!」
この"初心者殺しの森"とも名高い"迷いの森"で留まって焚火をするプレイヤーなんていうのは、装備やレベルに余裕のある中堅以上のプレイヤーと相場が決まっている。
やった、助かった!
「うぉぉぉ!」
ボンジリは全力疾走のまま焚火のあるその場所へと飛び込んだ。
転がり込んだ先に居たのは……
「──えっ?」
焚火の横に腰を下ろし、幸せそうにスプーンを口に運ぶ初期装備・初期キャラメイクの男プレイヤーだった。
言葉にして訊かずとも伝わる、バリバリの初心者だ。
「あぁっ! スマン、巻き込んでしもたー!!!」
「えっと、何が?」
その男は深皿と口の間でスプーンを往復する手を止めないまま、首を傾げた。
このニオイは……
カレー?
この初心者、迷いの森で悠長にカレーを喰っているっ!?
「逃げや! フォグドッグが来て……ああ! もうっ!?」
言い終わる前に、フォグドッグが飛びかかって来る。
ああ、死んだ。
ボンジリが覚悟を決めた……その時。
「おっ、新しいモンスターかっ!」
初心者の男はニヤリとして、腰に差していた"初期装備短剣"を抜いた。
そして一瞬でその姿を消したかと思うと、
その直後だった。
フォグドッグたちが、細切れになったのは。
「……ッ!?」
>はっ?
>えっ?
>なんだっ!?
あまりの出来事に、ボンジリも視聴者のコメントにも、大量の疑問符が浮かんだ。
初心者プレイヤーが目にも止まらぬ速さで動いたと思ったら、次の瞬間にフォグドッグが全滅していた。
意味不明だ。
目を見開くだけのボンジリの前で、その初心者プレイヤーはモンスターを解体して、
「肉だっ! 肉ドロップしたどー!!!」
フォグドッグの肉を高らかに掲げ、ガッツポーズをしていた。
……えぇっ? 状況がカオス過ぎて理解できへんのやけどっ!?
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