第23話 愛着システムと旅立ちの日

「さて、行くか! "迷いの森"へ!」


LEF内にログインし、宿屋で目覚めた俺はそう声に出して意気込んでみる。

俺は、とうとう決意した。

この王都を後にする決意だ。

目指すは"迷いの森"。

それは2日ほど前、他プレイヤーに聞いた情報だった。

この王都から西の方に出た先にある"迷いの森"という場所には、食べられるモンスターが多く生息しているらしい。

ほほう? 最高だね。

今日からは朝から晩まで食べ放題だ。

なんていったって、


──本日より待望の"夏休み"に突入なのだ!


ここから8月末までず~~~っと休み。

つまり、だ。

それは平日も休日も昼も夜も関係なく、ずっとカレーを食べていられるということ。

天国かな?

いや間違いなく天国だ!


「よーし、落ち着けよ、俺。充分に楽しむためには十分な準備からだぞ?」


昨日の晩のうちに準備していたアイテムボックスの中身を改めて見返す。

買い忘れは無いか?

頑張って貯めたマネーをほぼ使い切って揃えた生活必需品類を見る。


・各種スパイス

・各種調味料

・各種野菜・香味野菜

・一ツ星クッキングナイフ

・安いまな板

・安い鍋

・安いレードル

・安いフライパン

・安い菜箸

・グリルスタンド

・安い深皿×3

・安いカトラリーセット

・薪・藁

・簡易火種

・火打石 (2個セット)

・水 (大量)

・油 (少し)

・格安簡易テント


「……生活必需品、ヨシっ!」


生活必需品=カレー作りに必要なモノ。

カレーさえ作れればオールオッケーだ。

テントもモンスターに襲われずセーブさえできればHP/MP回復機能は要らないし……

あとは肉を現地調達するだけだな。

俺の求める"モンスター肉"を!


……ああ、このたったの数日が非常に長く感じた。


これからたくさんのカレーを作るためにも、この数日は料理器具を揃えることにほとんどの労力を使っていたから、新作カレーを作ることがあまりできていない。

(時間的に1日3食程度が限界だった)


しかしそんな我慢も今日で終わり。

俺はさっそく、まずは王都市場へと顔を出すことにする。

すると、


「おおっ、カイじゃないかっ」


「あんた今日王都を発つんだって?」


「元気でおやりなよ! サービスだ、採れたての野菜を持ってきな!」


市場で働いているおっちゃん・おばちゃんや、買い物客のNPCからこぞって声をかけられた。

ちょっとしたアイテムまで貰える始末だ。

これも全て、少し前に【愛着:王都市場】という称号を得たことによるものだ。


愛着:王都市場の人々

└対象から一定の愛着を抱かれた証。

└対象との交流にて恩恵を受ける。

└対象のサブクエストを全てクリア、

└かつ、300回以上クリアで解放される


本当にこのLEFには色んな称号があるんだね?

ちょっと調べたところによると、これは【愛着システム】と呼ばれるものらしい。

各NPCごとに個別のAI自動生成サブシナリオ・イベントなどがあり、それらをクリアしていくことで【愛着】の称号が手に入れられるらしいのだが……

まさか、特定のNPCだけではなく"市場の人々"という単位でも対象に取るとはね。


「みんな、ありがとう」


盛大に門出を祝ってくれるNPCたちに応じつつ、俺は市場を探し歩いて……


「あっ、居た。キャシーさん!」


「あら、カイ君」


市場、その野菜を売るテントの前にキャシー婦人は居た。


「今日、出発するのね」


「はい。キャシーさん、これまで毎日お世話になりました」


ゲームを始めてから毎日、俺はキャシー婦人のお宅のキッチン・調味料などを借りてカレーを作ってきた。

でも王都から離れたなら、しばらくは戻ってこないつもりだ。


「俺、いろんなところを旅して、いろんな食材でカレーを作ってみようと思います」


「素晴らしいことだわ。旅もカレー作りも、たくさん楽しむのよぉ」


「ありがとうございます。王都に戻ったら、また絶対にキャシーさんのお家へカレーを作りに行くので……!」


「楽しみに待っているわぁ。私もね、カイ君がまた来てくれる時にまで、ポトフを手動マニュアルで作れるようになっておこうと思うの」


キャシー婦人は木編みのバスケットの中を広げて見せる。

初めて婦人と会った時の中身と違うのは、ワザと落とすための沢山のジャガイモがもう無いことだ。


「ぜひ、練習した私のポトフも食べてみて欲しいわぁ」


「はい、ぜひっ!」


「……あと、これは旅立つカイ君への餞別品よ」


キャシー婦人はそう言って一冊のノートを俺に手渡した。


「これは"レシピノート"。新しく手動マニュアル生産クラフトした料理レシピを記載することで、次から食材さえ揃っていれば何度でも自動オートで料理生産ができるようになるアイテムよ」


「えっ……いいんですかっ?」


「いいのよぉ。とはいっても、レシピを使わずに作るのが好きなカイ君にとってあまり役に立たないものだったらゴメンね?」


「そんなことないです! どうしても自動でできた方がいい時もあると思うので……!」


「そうかしら、それなら良かったわぁ」


キャシー婦人はそれからニコリと微笑んで、


「じゃあ、気を付けてね。風邪を引かないように」


そう言って送り出してくれる。


「行ってきます、キャシーさん。それと市場のみんなも。またな!」


俺は市場を後にして、王都の西門へと向かう。

LEFを始めて8日目。

俺はとうとうこのLEFで冒険の旅に出た。




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