第15話 モンスターカレーを食べたい

「おい、答えろよハル。オーク肉はドロップするのか、しないのかっ!」


「あぁ? オーク肉だぁ……?」


ハルは困惑したような目で俺を見るだけで、何も答えてはくれない。


〔ブオォォォッ!〕


オークが俺を敵として認識したようだ。

大振りの攻撃を仕掛けてくるのを、何とか横に逃れる。


「もういいや、倒してみれば分かるだろ……」


「倒すっ? いいねぇ、やってみろよ!」


ハルが太枝の上でケラケラと笑う。


「気づいてないようだから言っておくがな、そのオークのレベルは13。お前とは6レベ差だぜ?」


「6レベル差か……」


「あ、いまさら逃げようだなんて無駄だからな? オークの足は今のお前よりよっぽど速い。それに何より、少しでも逃げる気配を見せたら俺の矢が飛ぶぜ?」


「……逃げるつもりなんてサラサラないっての」


なんていったって新しい食材の可能性が目の前にあるのだ。

このチャンスを逃す馬鹿はいない。

とはいえ普通に戦えば俺に勝ち目はない……

のだけれども、


「まあなんとかなるだろ」


オークから大きく距離を取ると、俺は右手を体の横に突き出した。

すると手は宙へと消える。

アイテムボックスの中へと。

そして俺が取り出したのは、フラスコのような小瓶が3つ。

中に満たされているのは薄茶、薄赤、薄黄の液体だ。

その蓋を開けて、俺は一気に3つの液体を口に流し込んだ。


「オイ、お前今何を飲んだっ? まさか強化ポーションか……!? 馬鹿な、お前みたいな初心者にそんな高級品を買えるわけがっ」


「カレーだよ」


「はっ? なんだって……?」


「小瓶は買ったけどね。空き瓶1本5マネーで。そうしてその中に、昨晩俺が試作したモノを注いでおいた」


俺はステータスボードを開き、基礎パラメーターを確認する。


体力 :42

力  :35↑

速さ :78↑↑↑

耐久 :14

器用 :53↑↑

~(中略)~

その他:なし


「よしっ! ちゃんと昨日作ったスープカレーを食べた時と同じバフがかかってるな……!」


俺が昨日試作したカレー、そこに宿っていたのは"攻撃力・器用上昇"、"速さ上昇・大"、"速さ・器用上昇"のバフ。

しかもそれはただの通常バフではない。

俺の称号、【カレーマニア】、そして料理長から貰った【一ツ星クッキングナイフ】で調理したことによって【通常のバフ倍率×1.25×1.xx】の効果が得られている。

(一ツ星クッキングナイフの倍率は未検証)


〔ブォォォウッ!!!〕


オークが再三の攻撃を仕掛けてくるが……

遅い!

容易く躱してその後ろへと回り込む。


「ハァッ!」


初期装備短剣をオークの背中目掛けて振るう。

思い切りではない。

俺のパラメーターの中で今一番上昇しているのは速度だから、その有利を十分に活かし、手数を意識して攻め立てる。

名づけるなら"ヒット×ヒット×ヒット&アウェイ作戦"だ。


「オイ、なんだその速さはッ!?」


ハルの声と共に、俺の真後ろから風切り音。

俺は体を捻って振り返り、

背中に迫っていた矢に向かってタイミング良く剣を一閃する。

──パリィ!

ガラスの割れるような甲高い音が響き、

青い光の輝きエフェクトが奔る。

"回避行動パリィ"の成功だ。

矢は真っ二つに斬られ地面へと落ちる。


「なっ……矢をっ!?」


「ハル、お前の相手は後でしてやる。黙って見てろ」


俺は勢いよくオークへと迫った。

あまり時間をかけすぎるわけにはいかない。

傷を負ってしまった生き物は、そのまま暴れていると肉の旨さが落ちてしまうとはよく聞く話だ。


「いま、仕留めてやるからな……!」


オークが振るった大きな棍棒をしゃがんで躱し、その真正面へと肉迫する。

そして、


「いただきっ、ますッ!!!」


その首に短剣を突き立てた。

ズゥンッ、と。

2メートルのオークの巨体が地面へと沈む。


<レベルアップ7→9>


システム音が、俺のレベルが上がったことを報せる……

がいまはどうでもいい!


「解体っ! 解体っ!」


俺たちプレイヤーが初期から持っているスキル、【解体】。

仕留めた動物やモンスターからランダムで素材を入手できるというものだ。

さあどうだっ?

肉は……来るのかっ!?


<獲得:オークの内臓>


<獲得:オークの鼻角>


「……え、肉はっ?」


俺の倒したオークの体がスゥ……と空間に溶けて消えていく。


「おいっ、待ってくれ……肉がまだっ、」


消えゆくオークの体にすがろうとしていると、しかし。

再び、後ろから風切り音が。

おいおい、コイツはさぁ……!


「黙って見てろ、って言ったよな?」


パリィ。

俺の背中目掛けて放たれた矢を、俺は振り向きざまに斬り落とす。

いつの間にか地面に降りてきていたハルが、化け物でも見るような目で俺のことを見ていた。


「お、お前は何なんだっ!? 飛んでくる矢をパリィだなんて、初心者のお前のパラメーターでできるハズが……!」


「ああ、やっぱ普通ならそうだよな。だからこそ俺は"速さ"と"器用"を上げてみた」


「……!?」


「"力"を上げたところでレベルが上の相手に攻撃を当てられなきゃ意味がないし、"耐久"を上げたところでレベルが上の相手に一撃でももらったら不利になることは間違いない……なら、攻撃に当たらない選択がベストだ。そう思わないか?」


素人考えだが、案外的を射た考え方だと思うんだよな。

だけど、


「な、何言ってんだお前、ワケわかんねぇよ!」


ハルは考えるのをやめたように吐き捨てるように言うと、再び弓に矢を番えようとする。

おいおい。

俺はついさっき、"速さ"上がってるって話をしたハズなんだけどな?


「MPKだかPKだか知らんが、もう諦めろよ」


ハルの動き、その全てが今の俺には遅く感じる。

ひと駆けでハルとの間合いを詰めて、初期装備短剣でハルの弓を斬り飛ばした。




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続きは12時ごろに更新予定です。


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