第14話 討伐クエスト
「これが北の森、かー……」
王都を出た先の草原、そこを街道沿い……ではなく、北東へと突っ切った先にその森はあった。
うっそうとしていて、視界は良くない。
「ここ、穴場なんだぜ。他のプレイヤーに見つかりにくいからなぁ……」
ハルは何やらほくそ笑みながら、弓の弦で手遊びしている。
「カイ君はゴブリン狩るのは初めてなんだろ?」
「そうだよ」
「討伐クエストは? レベルは7のようだし……ウサギ狩りやスライム狩りくらいはしてるんだろ?」
「えっ? いや、したことないけど?」
「……ん?」
ハルが怪訝そうに顔をしかめ、
「いや、でもレベルアップしてるじゃないか。モンスターを狩ってないと経験値は入らないだろ?」
「いや、カレーを作ってたら経験値入るようになったんだよ」
「んん……?」
ハルはさらに首を傾げる。
どうにも話がかみ合っていないようだ。
もしかして
「まあ、よく分かんないけどいいや。要は討伐クエストにはまだ慣れてない、そういうことだろ?」
「……ああ、うん。そういうことにしておいて」
もしこの情報が価値の高いものなのだとしたら、あまりペラペラと喋らない方がいいだろう。
お口チャックだ。
「よし、そんな討伐クエストに不慣れなカイ君に朗報だ。今日は俺が後ろから援護してやる。思う存分にゴブリンを倒すといいよ、経験値稼ぎたいだろ?」
ビヨーン、と。
ハルは、手に持つ弓の弦を鳴らす。
「そう? それじゃあありがたく」
俺は腰に差していた短剣を引き抜いた。
初期装備として、ゲーム開始時から持っていた物だ。
ある程度の距離まで近づくとゴブリンたちもこちらを見て、棍棒などの武器を構え始めた。
3体か。
「よっ!」
ザクリ。
まず1番手前のゴブリンを短剣で突き刺した。
割とリアルな感触が手に伝わる。
厚みのあるマットレスにナイフを突き立てている感覚……といえば分かりやすいか。
他のゴブリンたちが襲い掛かってくる。
「おっと」
後ろに下がって攻撃を避けてから、もう1匹を刺す。
さらにもう1匹の方も隙だらけだ。
なんだ、これくらいなら大したことないな。
初級者向けのモンスターとして、かなり弱めに設定されてる気がする。
これなら1人でも充分──
「うわっ?」
唐突に、後ろから矢が飛んでくる。
それは俺がナイフを突き立てようとしていたゴブリンへと先に突き立った。
「ふぅ、危ないところだったな」
え? いや?
あんたの射った矢の方がね?
「しかしカイ君、なかなか動けるじゃん。これならもう少し森の奥に行っても大丈夫そうだ」
ハルはそう言って先に進むと、「こっちだ。穴場がある」と手招きしてくる。
……っていうか、
「ハルさん、ゴブリン素材取らなくていいの? これ集めに来たんだろ?」
「ん? ……ああ、そっか。まあでも帰りに取ればいいかな」
ハルはまるで目的を忘れていたみたいだ。
なんで?
「あのさ、ハルさん。もうゴブリン狩れたし討伐クエスト達成だろ? 素材を取って王都に戻ってもいいんじゃない?」
「何を言ってんだよ、カイ君。君は経験値が稼げてよかったかもしれないけどなぁ、俺の方はこれじゃまだ赤字だよ。いっしょに討伐クエスト受けてるんだから、協力し合っていこうよ」
「……はぁ?」
もともと俺は経験値をくれ、だなんて頼んでないんだけどな。
やっぱり、今度からは1人で来よう。
誰かと足並みをそろえるとか俺には合ってないや。
「おっ、見ろよカイ君。またゴブリンがいたぜっ? 今度は6匹だ」
「ホントだ。今度はハルさんが狩る? 経験値ほしいなら譲るけど」
「いや、俺は要らねーや」
要らないのかよ。
いったいなんなんだ、この人?
さっき経験値のことで何だかんだ言ってきたくせに……
「カイ君なら6匹相手でも何とかなりそうだし、俺はその間に他に獲物がいないか探してみるから」
「……そう。じゃあ俺狩ってるから」
なーんかモヤモヤするんだよな。
手早く片付けて、サッサと帰りたい。
ザックザク、俺はゴブリンを相手に短剣を振るう。
6体はすぐに片付いた。
経験値はいくらか入ったはずだけど……
レベルアップはまだのようだ。
昨日の夜に6から7に上がったばかりだし、そうすぐには8にならないみたい。
なんて、そんなことを考えていると、
「……なんだ?」
ガサガサ、と。
森の茂みが掻き分けられている音が響く。
何か大きな動物が通っているかのような、そんな音だ。
「もしかして、イノシシか……? だったら肉を……」
フラフラと思わずそちらに足を向けた、その時。
勢いよく飛んできた矢が俺の背後の地面、
つい先ほどまで俺が立っていたその場所へと突き刺さった。
「チッ……外したか」
矢の飛んできた方向……
そこにそびえていた大木の上に、ハル。
太い枝に腰をかけ、矢をつがえた弓を俺へと向けている。
「……何のマネだよ」
「何って、MPK。モンスター・プレイヤー・キリングだよ。知ってるか?」
「知らんな」
「今に分かるさ、ホラ、前を見てみろよ」
ひと際大きな、茂みを踏みしめ折る音が響いた。
俺の手前数メートルのところに現れたのは、体長2メートルほどの二足歩行モンスター。
「ほれ、カイ君。討伐クエストの続きだよ。頑張って狩ってみな、そのオークをな」
「……オーク、だとっ?」
確かにその体の横幅は広く、丸く、そして特徴的な豚鼻が付いていた。
コイツは豚系モンスター……?
ならば、
「おい、ハルさん……いや、ハル。ひとつ聞かせろ」
「なんだ、俺がMPKをする理由か? それは楽し、」
「お前のことなんてどうでもいいんだよ」
俺が知りたい事、それはただひとつ。
「LEFのオークは"オーク肉"をドロップするのかっ? しないのかっ? どっちなんだっ!?」
もしこいつが肉をドロップするモンスターなら、それはつまり……
"オークカレー"を作り、食べることができるってことじゃないかっ!
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