第16話 パリィ・パリィ・パリィ

俺はハルの弓を斬り飛ばした短剣を構え直し、


「終わりだな」


そのままハルの喉元へと短剣をひと突きに……


「なんてな」


「はひぃっ……?!?!?!」


寸止めすると、ハルから間抜けた声が上がる。

どうやら本当に刺されると思っていたようだ。


「刺すワケないだろ。PKになっちまう」


「……っ!」


わざわざこんなヤツをPKして自分の名前を赤くする必要もないだろう。

どうせコイツはもう俺のこと襲ってこない。

弱者を虐げるヤツというのはそういうものだ。

自分より強いと感じた相手には歯向かわない。


「もう二度と俺に絡んで来るなよ……あ、でもこれだけは聞かせてくれ」


俺は短剣を仕舞いつつ、


「オークは、肉をドロップするのか、しないのか?」


それが俺にとって一番の問題だ。

ドロップするなら何としても追い求めたいし、

しないなら別のターゲットを探す。

俺はモンスター肉を使ったカレーが食べたくて仕方ないのだ。


「は、はぁ……? オークが、肉をドロップするかだって……?」


ハルは俺の質問に困惑しつつも、


「そんなの、決まってる。オークから肉はドロップ──」


ハルが答えを紡ごうとする。

しかし、まさにその直前だった。

聞き覚えのない、女の声が響いたのは。


「──スキル、"五月雷サミダレ"」


バチバチバチッ! と。

唐突に、謎の雷。

それが俺たちの元に向かって横に奔る。

いや、それは正しくは紫電を纏う槍の雨だった。

速い。

通常、反応するのがやっとなほどに。


「──ヒッ!?」


槍の雨が向かう先は、ハル。

俺の真横のその男に向かって殺意の込められた、不意を打つ一撃が降りかかろうとする。

オイオイオイ、どうなってるっ?

誰の仕業だっ?

いいやそれよりも何よりもッ!


「俺はまだ、答えを聞いちゃいねーぞ……!?」


オークから肉はドロップするのか、否か?

それ以上に重大な謎は今あるのか?

いいや、ない (確信)

ゆえに俺の行動は、ひとつ。

襲い来る雷の槍たちからハルを庇うようにその正面へと立つ。


「──パーリィーッ!!!」


俺はとっさに装備した【一ツ星クッキングナイフ】で弾いた。

ガラスの割れるような音と共に、輝く青いエフェクトが広がった。

槍の初弾、受け流しパリィ成功。

そして、


「よいしょぉぉぉおッ!!!」


俺はナイフを振るい続ける。

連続のパリィ。

輝き続ける青、青、青。

甲高い音が森の中、リズムゲームのように繋がって響き渡った。

パリィ、パリィ、パリィ、パリィ──

パリィ!

その槍の雨を全て受け流し切る。

俺にも、後ろで腰を抜かしたように尻もちを着くハルにもケガは無い。


「誰だッ!? コイツを狙うのはっ」


俺が叫んだその問いかけに対して、


「駆けつけ直後で精度が落ちていたとはいえ、まさか今のスキルを全て相殺するとはな……」


王都の方面から先ほどと同じ声が聞こえた。

そして歩いてくるのは、女性プレイヤーが2人。

その内の白のフルプレートアーマーに身を包んだ1人は槍を持っている。

先ほどハル目掛けて飛んできた槍と同じ形状だ。


「あんたか、ハルを狙ったのは」


「ああ、そうだ。私の名はエリフェス。"宵の明星"クランに所属する者だ」


「宵の明星……?」


「LEF内で治安維持を主な目的として動くクランだ。説明が面倒だったから、先にMPKプレイヤー・ハルを即殺してしまおうと思っていたんだが……」


白アーマーの女は俺たちの間近までやってきた。

プレイヤー名とレベルが見える。

"エリフェス Lv45"。

レベル"45"!?

確か今のレベル上限は50だったハズ。

ということはこの人、かなりの上級プレイヤーだ……!


「私がここへ来たのはMPKを行う悪党をキルするためであり……そしてプレイヤー名カイ、君のことを助けるためでもあった」


「俺を?」


「そうだ。君がそこのハルに狙われていると情報があった。ショックな事実だろうが、しかし、君は騙されているんだ」


エリフェスはハルを指さして言う。


「コイツはMPK常習犯の最低のプレイヤーだ。君をのことをここまで連れてきてモンスターに殺させようとしている」


「えっと、それは知ってるんだけど」


「ああ、信じられない気持ちは分かる。きっと表面上は親切にされたんだろう。だが、これまでの情報からしてみても、ハルが途中でモンスターを使い君をPKすることは明らか──って、え?」


「だから、この人が俺をハメようとしてたのは知ってるよ。というかもうオークをけしかけられた後だし……」


「んん???」


エリフェスはものすごい角度で首を傾げた。




==========


続きは19時に更新予定です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る