第9話 カレーの称号2
「よーし、みんなご苦労さんっ!」
料理長の一声で、ようやく厨房の空気が緩む。
それは俺が加わってから4時間後のこと。
俺は結局、料理長たちが仕込んでいた料理が完成してからもずっと何かしらを作り続けていたのでさすがに腕が痛い(気がする。ゲーム内なので筋疲労は無いハズだけど)。
カレー料理が意外にも結構な人気を博し、おかわりのリクエストが止まらなかったのだ。
「ハッハッハッ! カイ、お前が美味いカレー料理なんて振る舞うからだぞ、この大馬鹿野郎め」
料理長は大笑いしながら、楽しそうに俺の背中を叩いてきた。
「お前のスパイスの効かせた料理が、ただでさえ大飯喰らいの兵士どもの胃袋を強靭にしちまった。おかげで大繁盛だぜ」
「ご苦労をおかけしたッス」
「いいさ。腹いっぱいメシを食わせてやるのが俺たちの仕事なんだからな。久々に腕が鳴ったってモンよ」
料理長は満足そうに微笑んだ。
「よくやってくれた、カイ。報酬は期待していいぜ!」
おっ、やったね好感触!
これでマネー不足問題は解決するかもな。
頑張った甲斐があったというものだ。
……それに、他にも得られたモノはあった。
俺はステータスボードを開く。
★
カイ
レベル6
★
レベルが一気に上がって、イベント前に1だったのが今や6。
それだけじゃない。
続けて"新たに"得られた称号を確認する。
★
カレー中級者
└100種類のカレーを手動生産した証
└今後カレーを手動生産するごとに
└少し経験値を獲得できる
★
★
カレーマニア
└100種類のカレーを食べた証
└今後カレーを食べたときの
└付属効果が1.25倍になる
★
「たぶんこれ、前にゲットした【カレー初級者】と【カレー好き】の称号の上位互換称号だよな?」
どうやらカレーを作った・食べた種類の数に応じて称号はランクアップしていくらしい。
というか冷静に考えたら100種類ってかなりヤバいな?
カレーはスパイスの調合を変えるだけで別種判定されるにせよ、今日のたったの4時間で80食以上のカレー料理を作って味見したなんて……
現実じゃできっこないことだ。
「おい、カイ」
ステータスボードの確認に気を取られていたところ、料理長から声がかかる。
「オレは正直お前のことが気に入った。どうだ、これからもオレの下で働かねーか?」
「えっ?」
「悪い話じゃないと思うぜ。いくらか下積みを経験して料理人職のレベルを上げれば、お前ならきっと王城お抱えシェフの道も見えてくるはずだ」
おお、マジか。
NPCからスカウトされるストーリーも用意されてるのか、LEF。
作り込んでるなぁ……
料理人としてゲーム内を生きるという選択肢、それはそれでおもしろそうだな。
だけど……
「ありがとうございます、料理長。でもすみません。俺は自分でひたすらにカレーを作って食べてをしてたいんです。お抱えの料理人にはなれません」
「うーん、そうか……まあカイのやりたいことに口は出せねぇさ。わかった。気が変わったらオレを訪ねてくれよな」
「うっす。ありがとうございます!」
「そうだ、よかったら最後にカイのカレー料理を食わせてもらうことはできないか? すごく良い香りをさせていたからな、オレも腹が減っちまった」
「喜んでっ!」
今日は報酬のマネー目当てで来た割りには予想外に楽しい思いをたくさんさせてもらったので、ぜんぜん苦ではない。
それに誰かに自分の作った料理を食べてもらうのって結構好きだしな。
俺は再び厨房に立つ。
サッと作れるものがいいだろう。
ちょちょいとフライパンを振るって、10分。
「卵とトマトのカレー炒めです。パンとごいっしょにどうぞ」
「ほう……? 見たことのない料理だな。スクランブルエッグ風、なのか」
料理長はスプーンで料理をひと掬いし、じっくり観察しつつひと口。
「……おおっ。美味い。卵とトマトが合うのは知っていたが、スパイスの風味が加わることでさらに食欲を誘う……パンが無限に食べられそうだっ!」
「お口に合ったならよかったです」
「ああ。合うとも。料理に付いてる【バフ】もすごいじゃないか。攻撃力増加に体力増加か……スパイスがよほどマッチしていたんだろうな」
「……バフ?」
攻撃力増加に体力増加って……
つまり強化付与って意味でのバフ?
俺、ただいつも通りに料理をしただけなんですけど???
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