第8話 レベルアップ
王城から少し離れた場所にある、王城に勤める衛兵たちの宿舎。
そこに併設されている食堂に俺は辿り着いた。
「って、兵士多っ!?」
百……いや数百はいるか?
普段は衛兵たちが使う食堂に、今日は貴族家のお付きとしてきた一般兵たちが集っている。
そしてそのほとんどの手に料理は渡っていない。
明らかに食堂がキャパオーバーしている。
「えーっと、俺はここからどこへ行けば……?」
「おい!」
食堂の奥の方から声が張り上げられた。
「お前だよ、そこの旅人っ!」
「えっ、俺っ?」
「お前以外に旅人はいねーだろ、カイ! こっちに来いっ!」
プレイヤー名を呼ばれる。
確かに間違いなく俺だな。
飢えた兵士たちを避け奥へと向かうと、厨房から赤髪のNPCが出てきた。
「オレがこの食堂の料理長だ。カイという名の旅人がヘルプで来るってのは城の者から聞いてるぞ」
「ああ、どうも。よろしくお願いしま、」
「挨拶はいい。それで、カイ。お前は何ができる」
赤髪NPCの料理長はジロリと俺を品定めするように見た。
「任せられるのは調理か皿洗いだ」
「調理できますっ!」
「よし、ならお前に任せるのは調理だ。ついて来い」
厨房へと入ると俺は広いキッチンへ通される。
そこでは3人のスタッフが鬼気迫る表情で食材を切ったりフライパンを振ったり大鍋をかき混ぜたり……とにかく慌ただしい。
「貴族たちの連れてくる兵士の数が事前に知らされていた人数を大幅にオーバーしていてな、今は追加でイチから作ってる最中だ。用意していた使い捨てレシピメモもとうに使い切ってしまったから全て
「それは壮絶ですね……」
「カイ、お前に任せたいのは"
「え、でも人数が人数ですし、一気に大人数向けに調理をしてしまった方がいいのでは?」
「それは既にこちらでやっている」
料理長がクイっと親指を向けた先には大鍋がいくつか用意されていた。
「お前に任せたいのはオレたちがこの"主砲"を準備している間の時間稼ぎだ。とにかく客を待たせたくない。少しずつでも料理を提供して客たちをさばき続けていく」
「なるほど……了解っす!」
「じゃあさっそくやってくれ!」
俺は説明もそこそこにポイッと調理場へ放り出された。
いきなり本番だ。
現実なら呆気に取られるところだが、まあこれはゲーム内のイベント。
特別な緊張はない。
冷蔵庫にあるものは気にせず何でも使っていいんだよな?
「スパイスは……発見!」
俺はさっそく野菜を速く薄く刻んで肉といっしょにスパイスで炒め、皿に盛りつける。
ちゃちゃっと5分!
「カレー肉野菜炒め、お待ちぃっ!」
同時並行でササミの筋を取り、小麦粉を練ってナンを焼き、他の調理で取れた出汁にスパイスを溶かしてスープを作り、
「ササミのカレーフリット、お待ちぃっ!」
「カレースープ、お待ちぃっ!」
「カレーチーズナン、お待ちぃっ!」
テンポよく次から次へと出して行く。
そして皿を出すたびにさっき出した料理の皿が次々に戻ってくる。
なにこれ、やっべぇ。
ちょっと楽しくなってきた。
洗い物は別のスタッフがやってくれるから、俺はひたすらに次から次へと作りっぱなしができる。
俺の中の料理に対するボルテージがどんどん上がっていく。
「カレーあんかけ温野菜、お待ちぃっ!」
「キーマカリー、お待ちぃっ!」
「カレーチャーハン、お待ちぃっ!」
<レベルアップ1→2>
唐突に響くシステム音声。
あれ、今のって……
ステータスボードを確認してみよう。
★
カイ
レベル2
★
「あっ、やっぱ上がってる……!」
これが例の称号【カレー初心者】の効果か。
しかし、1番最初の1レベルから2レベルへと上がるのに7品も料理作らなきゃいけないっていうのは中々に経験値がしょっぱいな。
まあ、俺はカレーを作って食べられればそれでいいんだから、あまり気にはしないが。
「──おいカイ、お前さっきからカレーばっか出してないかっ?」
俺がステータスボードを見ていると、料理長が俺の元へ顔を出してくる。
「もっと他にバリエーションは無いのかっ?」
「料理長、お言葉ですが1つとして同じカレーはありません。すべてスパイスの調合は変えて、」
「カレー以外を作れないのかと聞いているんだがな……」
料理長は呆れたようにため息を吐いたが、
「まあ、調理スピードはなかなかのモンだ。それに客たちの評判もいい。この調子で続けてくれ」
「うっす」
料理長からの好感度・小UPってところだろうか。
よしよし。
俺はさらに調理スピードを加速させ、一度に数品を同時に作るなど効率重視の工夫をし、カレー料理を作り続けるのだった。
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