第3話 無駄イベ?んなワケない

「カイくん、少し座って待っていてね。今日はポトフのレシピメモと食材を買ってきたのよ。すぐに生産クラフトできるから」


キャシーと名乗ったNPCの老婦は、家に着くとすぐにキッチンに立った。

2階建ての大きな家、俺はその1階の食卓に通される。

テーブルの中央には写真立て。

そこには美人な女性……若かりしキャシー婦人と、その隣にコック帽を被った料理人と思しき男性が写っている。

旦那さんのようだ。


「あらっ、大変っ!」


「えっ?」


声が聞こえたキッチンを覗くと、キャシー婦人はオロオロとした様子だ。


「レシピメモが……無いわっ!」


「レシピメモ?」


自動オートで料理を生産クラフトするには使い捨てのレシピメモが必要でしょう?」


「ああ、そういう仕様なんですね。クラフトって……」


「そうよ。私、ポトフは手動マニュアルでクラフトしたことがないのよ。困ったわぁ……」


キャシー婦人はため息を吐く。


「おかしいわねぇ、確かにこの中に入れていたはずなのに。もしかして、落としてきたのかしら」


「それって、さっきジャガイモを落とした時ですか?」


その時の状況を思い返す。

確かにバスケットは横になっていたが……


「あの時、ジャガイモ以外は何も落ちてなかった気がするけどなぁ……」


「そうねぇ。どこで落としたのかしら。今日は買い物途中でバスケットを10回はひっくり返してしまっているのだけれど」


「10回もっ!?」


いくらなんでも落としすぎだろ。


「ああ、どうしましょ。きっと探してももう見つからないでしょうね。レシピは諦めるしかないわぁ」


「……」


えっ、これってまさか……

俺がレシピを探しに行くおつかいクエスト?

そして報酬はポトフ?

なるほど、プレイヤーたちが"無駄イベント"と言っていた意味が少しわかった気がする。


「はぁ、困ったわ。ごめんなさいね、お礼をするはずがこんなことになって」


これ、正攻法でクリアするの嫌だなぁ。

時間だけかかって旨みが無い。

なら、


「あの、キッチン借りられます?」


「えっ? ええ、いいけれど」


「ご飯なら俺が作りますよ」


ズケズケとキッチンへと乗り込んだ。

ガスコンロは無いが、どうにもIHっぽいのがあった。

電気の代わりに魔力で発展してる世界観だし、これも魔力か何かで物を熱せられる仕組みかな?

食材はソーセージにニンジン、タマネギにジャガイモ……それにキャベツか。

ポトフとしては定番だな。


「調味料は上の棚にあるわ」


キャシー婦人の言う通り、綺麗に揃えられた調味料たちがそこにはあった。

塩に砂糖、コンソメ、クミン、コリアンダー……カルダモン?

おいおい、これ……


「ぜんぶスパイスっ? こんなにっ!?」


「ああ、そうなのよ。でもなかなか使いどころが無くてねぇ」


使いどころがないのにこれだけのスパイスが揃ってる?

何か事情がありそうだ。

でも、今はそんなことよりも、


「……あの、これぜんぶ使ってポトフじゃなくてカレーを作ってもいいですか?」


「えっ、カレー? もちろんいいわよ。でもレシピはあるの?」


「いいえ。でも任せてください!」


キャシー婦人を食卓に座らせて、俺はキッチンへと舞い戻る。

そりゃあもうウッキウキに。

おいおい、誰だよ?

これを無駄イベントだとか言ったヤツ。


「むしろメインイベントじゃねーか……!」


作り方さえわかれば、レシピがなくても手動マニュアルでクラフトできるよな?

俺は包丁を手にほくそ笑む。

俺は自他共に認めるカレーオタク。

しかし、"食べ専"ではない。

これまでに何百回とスパイスから作ってきているのだから。




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続きは17時に更新予定です。

よろしくお願いいたします。

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