第2話『盗作ラノベ作家』
「未来図書館……本当にあったのか」
ラノベ学校の生徒・川合ソウタは、人気アニメーターがインタビューで語っていた未来図書館なるものの存在を信じてはなかった。
だが、ある時そのアニメーターのいう通りに空きスペースを目指して歩いていたら、それらしき建物が見えたので、まさかと思いながらもやって来た。
中に入るとそこは図書館というよりも、喫茶店といった雰囲気だった。
いくつものテーブル席と椅子、客はだれもおらず奥のカウンターには、うさ耳を付けた女性がいた。
「はいはい、ご主人様~お一人ですか?」
「あの、ここ図書館なんだよな?」
「はいはい、そうですよ。私は司書のリサです」
司書というよりは、メイド喫茶のメイドウェイトレスにしか見えなかった。
それはともかく噂が本当ならアレが出来る。
「川合ソウタ名義のラノベはあるか?」
「奥にありますよー」
気が付くと、奥には大きな図書館とでもいうべき書棚の列があった。
「取って来ましょうかー? 司書なので」
「ああ、頼む」
奥へと引っ込んだリサは、しばらして戻って来た。
「はい、これですー」
そこには全12巻のライトノベル『無限世界の
「おお」
ソウタは喜んだ。
ライトノベルで12巻続くと言えば、結構なヒット作だ。
だが、ふと思った。
「1作だけか?」
「
「そうか……のちのち追加されるのか?」
「それはお客様の行動次第でございます」
「貸し出しは出来ませんので、読むなら館内でお願いしますね」
リサは言って奥に引っ込んでしまった。
しめた、とソウタは思った。
ソウタのやりたかった事とは、未来の自分の著書をパクる事。
「自分の小説をパクっても盗作なんて言われないしな、俺って頭いい!」
せっせと、スマホにストーリーの要点だけ箇条書きにしてメモして行った。
全12巻である、一日ではとても読み切れない。
「なあ、ここは明日も来られるのか?」
未来の本が手に入る場所なんて、どう考えてもフツーじゃない謎空間だ。
「今のところ大丈夫ですよ」
リサの言いようが気になったが、ソウタは明日も来る事にして帰宅した。
家に帰ったソウタは、早速スマホのメモを見ながらパソコンに小説を打ち込んで行く。
タイトルはもちろん未来の自分の著作『無限世界の
初日はスタートダッシュという事で、1巻の中盤の盛り上がる部分まで書き終えて就寝した。
翌日、目が覚めて昨夜公開した自作をチェックして驚いた。
★が300以上入っている!
「はははっ、なんだよこれっ! すげえぞ!!」
以来、ソウタは未来図書館に通い詰めた。
シリーズを読み終える頃、未来の自分が書いているのか、自然と次シリーズが入荷された。
最新作『
コメント欄が荒れたのだ。
まとめると、某作品に似ている、という物だ。
悪い物だと、パクリ、盗作などというコメントも来た。
「なんだよこれっ!?」
ワナビスレをのぞいてみると、専用スレが立てられパクリの検証がなされていた。
そしてそれは最新作だけでなく、過去のシリーズ作品にも及んでいた。
「なんだよ、なんで自分の作品が他人のパクリになるんだよっ!!」
ソウタは、お門違いの文句を言いに未来図書館を訪れた。
そこは、喫茶店の様な内装から一変し、普通の図書館のように変貌していた。
そして、かつていたリサはもういなかった。
「ソウタさまですね? 私は司書のミヤコと申します」
そこには長い黒髪の女性が立っていた。
「リサって子はどこに行ったんだよ」
「……あの子はもういません」
「は?」
「貴方がつぶしたのです……可能性という存在を」
「貴方は盗作に手を染めなければ、ひとかどのラノベ作家になるはずでした」
ミヤコは、告げた。
リサは、ソウタの作品に登場するキャラクターだったと。
「ですが、貴方は盗作に手を染め未来は変わりました」
「……なんっだよ」
ソウタは、絶望にその身を締め付けられる思いがした。
自然と涙があふれた。
「創作の創でソウタ、名前が泣いてましてよ?」
「うるさいっ!」
ソウタは、未来図書館を飛び出して走った。
人にぶつかっても止まらずに走る。
信号も無視して走った。
記憶にある一番高いマンションの階段を上り、屋上へ出た。
「はぁはぁ、くそぅ! なんでこんな事になるんだよっ!!」
ソウタは、絶望していた。
もう絶対、プロになれない。
最初は、自分が感動した物語を見て得た様な、希望を誰かに与えたかった……ただそれだけのはずだったのに。
「なんでこんな事になったんだよっ!」
分かり切っている、
盗作する奴なんてサイテーだ。
死ねばいいとさえ思っていた。
死――そう死ねばいい。死ぬしかない、死ね、死ね、死ねよお前。
「死ねよ! 過去の俺、ちゃんとした世界線に俺を戻せよ!!」
分かっている、もうどうにも出来ない事を。
「うおぉあぁあああああああああああああああああああああ!!」
ソウタは、屋上から飛び降りた。
ドンッ
鈍い音と同時に息が詰まった。
痛みはない、ただ首の後ろがしびれている感覚がある。
おそらく首の骨が折れている。
苦しい……ただ苦しい。
(俺、死ぬんだ……)
意識が遠のいて行った。
◆◆◆
「なんでだよっ!!」
ソウタは目を覚ました。
(夢……? じゃないか)
ノートパソコンを立ち上げ自分の専用スレを開くとそのpartは16まで進んでいた。
「俺は川合創太……41才」
未来が見えるなんてまやかしだ。
過去は変えられない。
世界線なんてない。
一人一人の人間が、悩み・苦しみ・生きた結果――それが未来だ。
「……書くか」
ソウタは、また動き出した。
自分の愛すべきキャラクター・リサにまた会うために。
【短期連載版】未来図書館 時守ナガト @yokuyomuman
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