解答 美並菜水 二人の後日談
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解答 美並菜水 第六話 二人 の後日談。
『二人(一回目の映画)』に入れるつもりだった没案でもあったのですが、もう二回目の映画の時にあったとして『いちかの』上の正史にします。
映画館からの帰り、友達数名と遊んでいる遥に見られる。
美並が玄関を出ると、母親が本陣と話をしている。
二回目の映画の時にあったお話。
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対 遥パート
道路を挟んだ向こう側の歩道に、遥さんの姿が見えた。友達と思われる男子と女子、数名と一緒にいる。立ち止まって、何か話をしているようだ。
遥さんはともかく、他の人にはあまり本陣くんと一緒にいる姿を見られたくはない。
顔を伏せながらも、時折向こうの様子を窺う。すると、遥さんがこちらを見ているのに気が付いた。
遥さんは微笑むと、周りに何か声を掛けた。
それをきっかけにしたように、遥さんたちは歩き出した。「早く行こう」とでも言ったのかもしれない。
遥さんは集団の一番後ろに付いて、振り向きもせずに手を上げた。
私に、であろうか。他には考えられない。
他の人たちに見られないようにこの場から移動させて、気が付かれないように私に挨拶代わりをした、というところだと思う。
ありがとう、遥さん。
私は心の中でお礼を言った。
後で、改めてお礼のメッセージを送っておこう。
私の、大切な友達に。
対 母パート
あ、ここにあったんだ。
私は机の棚に参考書と一緒に並んであった二冊の本を手に取った。
今日の会ってからのやり取りで、年末に渡したミステリー小説の序盤の二冊を渡し忘れていたことが判明した。それで、丁度その直前の一冊まで読んだ本陣くんが、どうしても今日借りたいということで、あの日のように家に来てもらっていて、同じように玄関先で待ってもらっていた。
一つのエピソードは、小説では一冊完結かあるいは上下巻。
渡し忘れていた二冊はちょうど上下巻の同作なので、飛ばしても特に問題はないのだけど、本陣くんは順番通りに読まないと気が済まないらしい。そして、もう学校が始まるころなので、学校で渡すことも早々にできるのだけど、それも待っていられないらしい。
そのおかげで、今日も楽しくお話ししながら帰ってはこられたんだけど。
私は、小物でも買った時のであろう小さな紙袋に本を入れると、待っている本陣くんの元へ向かった。
玄関のドアを勢いよく開けて外に出る。
「お待た、せ?」
信じられない光景が、そこには広がっていた。
本陣くんが、あろうことか私のお母さんと話をしていた。
お母さんは片手に中身の入った買い物袋を提げていた。偶然にも買い物帰りに遭遇してしまったのか。
「あら、菜水。おかえり。菜水が来たなら、お母さんはお邪魔ね。ごゆっくり〜」
そう言って、私とすれ違って家の中に入ろうとしたが、ドアを閉める手が途中で止まった。
「外でごゆっくりは変ね。ゆっくりするつもりなら、家の中に入ってもらいなさい。じゃ」
それだけ言うと、お母さんは今度こそドアをしっかりと閉めた。
うう。見られるなんて思わなかった。
「本陣くん、大丈夫? 何か、変なこと聞かれなかった?」
「変なこととは?」
聞き返さずに、『はい』か『いいえ』で答えて終わってほしい。
「えっと、それは」
言い淀む。『ひょっとして彼氏さん?』とか。
言えるか。
「不審者と間違われたとか」
だからと言って考え付いたのがそれかと思いつつも、他に思い浮かばなかったので仕方がない。
「ああ、確かに少しは思われたかもな。警戒した様子で、『
お母さんの心の内は分からないけど、苦し紛れに言った『変なこと』も、意外と半分くらいは当たっていたのかもしれない。
「うう。それはごめんなさい。で、本陣くんは何て?」
「あいさつしてから、美並の身内かどうか確認した後で、俺が美並の友達で待っていることを説明してって感じだな」
友達。私は既にそういう認識だったけど、本陣くんもそう思ってくれていたのだと思うと嬉しくなった。前の『友人と出かけるくらいに思って』は気持ちの問題で、はっきり言ったわけではなかったから。
お母さんの手前、そう言っただけかもしれない可能性もあるけど、そこは目を瞑っておこう。
「まぁ、そんなとこだぞ」
よし。どうやら妙な会話はなかったようだ。
私はほっと胸を撫で下ろした。
「そっか、そっか。じゃあ、私のお母さんの襲撃に耐えたあなたに、こちらを進呈しましょう」
私はそう言って、本陣くんに本が入った紙袋を差し出した。
「謹んで、お受けいたします」
「よろしい」
「何だ、これ」
このやり取りのことだろう。楽しいんだからいいじゃない。
二人で顔を見合わせて、少し笑った。
「今日もありがとな。じゃ、これ借りて行くな」
本陣くんが紙袋を僅かに上に挙げる。
今日は軽いから、それが出来るね。
「うん」
本陣くんが振り向いて、歩き、離れていく。
その後ろ姿を見ていると、不意にこちらを振り返った。
本陣くんが紙袋を持っている手と逆の手で、私に手を振った。
意外な本陣くんの行動に、私は慌てながら手を振り返した。
こういうこともするんだね。
本陣くんは再びこちらに背を向けて歩き出し、その後はもう振り返ることはなかった。
私は寂しい気持ちを抑えながら、家の中へと戻った。
家に入ると、唐突にお母さんがリビングから出てきた。
「本陣くんって誰? どういう関係?」
そうだ。お母さんに見られていたんだっけ。
「別に。ただの友達だよ」
素気なく答える。
「ほんとかなぁ」
「本当だよ。本陣くんも言ってたでしょ」
語気が少し強まってしまう。
この際、無視して自分の部屋に戻ってしまおうか。
「会ったのがお父さんじゃなくて私でよかったね。私は、菜水の味方だからね」
「だから、ほんとにそんなんじゃないんだって」
味方なのは嬉しいけど、もう構ってほしくない。
私は自分の部屋へと足早に向かった。
部屋に入ると、すかさずベッドに飛び込んだ。
ああ、もう。面倒臭いことになった。
これからお母さんに、何かあるごとに本陣くんとの仲を聞かれるかと思うと、とても気が重くなった。
母パート
買い物から帰ると、見知らぬ少年が家の前に立っていた。
年の頃は、菜水と同じくらいだろうか。
とすると、菜水の友達? いや、女子の友達ですら長らく見たことがないのに、男子の友達とは飛び過ぎではないか? 冷やかしや罰ゲームの可能性もある。菜水が傷付くことのないように、ここは慎重にいこう。
「
「あなたは、この家の方ですか?」
クールな見た目とは裏腹に、物腰の柔らかい丁寧な物言いだった。質問を質問で返したのは、私の方が逆に不審者の可能性があるためか。
中々にやるじゃないか。
丁寧な物言いと併せて、それで油断できるわけではないが。
「そうだけど」
「菜水さんのお姉さんですか?」
……。
いやいやいやいや。そんな見え見えのお世辞が通用すると思っているの? うん。まぁでも、悪い子ではないのかもしれない。
菜水の名前が出たということは、菜水と同じ学校の生徒でほぼ決まりね。あとはどんな関係や目的か。
「母です。そんなに若く見える?」
「年が離れた姉妹もいるので」
……。
おいおいおいおい。そこは『お若く見えます』でいいだろ。正直なのか。だけど、年の離れたといっても、十くらいまでの話よね。ということは、私を二十四歳くらいには見てくれたということかも。なら、許そう。
「それで、君は?」
「美並、いえ、菜水さんの友達で、本陣と言います。ここで待っているように言われたので、待っているのですが」
友達、か。男子の、ね。
「同級生?」
「はい、同じクラスです」
そういえば、本陣という変わった名字が菜水のクラスメートの名簿にあった気がする。友達かどうかはともかく、同級生ということは間違いなさそうね。
本陣?
その変わった名字は、名簿だけでなくテストの上位者にも載っていたことを思い出す。
菜水と姫川、そして本陣。この三名が、その中で変動あれど安定の上位三名だったはず。
「本陣くんって、いつも菜水とテストで上位を争っている、あの?」
「争っているかどうかは分かりませんが、上位にいるということならそうですね」
同じ上位ということで、仲良くなったということだろうか。そうだとして、女子の姫川さんでなく、男子の本陣くんなのか、菜水。男子に行くタイプだったのか、娘。
まさかとは思う。合っていても本当のことは言わないかもしれないが、聞くだけ聞いて反応を見てみよう。
「本当に友達? 彼氏じゃなくて?」
「そうですね」
表情も変えず、冷静に返してくる。
読めない。この母たる私の目を持ってしても。
その時、玄関のドアが開いた。
「お待た、せ」
菜水がようやくの登場をする。
嬉しそうな表情をしていたはずが、私の姿を見て『何でお母さんがここにいるの』と言うような表情に変わっている。
お母さん、淋しいぞ。でも、その前の顔を見るに、本陣くんが彼氏か友達かは分からないけど、信用していい人物ではあるみたいね。
それなら、邪魔者は退散しますよ。
「あら、菜水。おかえり。菜水が来たなら、お母さんはお邪魔ね。ごゆっくり〜」
そう言って、家の中に入ろうとしたが、話が長くなるのなら玄関先では色々と問題があるのではと思い、菜水に告げていくことにした。
「外でごゆっくりは変ね。ゆっくりするつもりなら、家の中に入ってもらいなさい。じゃ」
菜水の部屋は駄目だけど、リビングくらいまでなら許す。
いくらか経って、菜水が家の中に戻ってくる。
私はすかさずリビングから出て、菜水を問い詰める。
野次馬、野次馬。
「本陣くんって誰? どういう関係?」
「別に。ただの友達だよ」
菜水が素気なく答える。本気か、照れ隠しか。
「ほんとかなぁ」
「本当だよ。本陣くんも言ってたでしょ」
確かに言っていた。
どっちだ。付き合っていないにしろ、好き同士ではないのか。
二人とも素直になれ。そして私に教えろ。私は応援する。娘溺愛の私のパートナーとは違うぞ。
「会ったのがお父さんじゃなくて私でよかったね。私は、菜水の味方だからね」
「だから、ほんとにそんなんじゃないんだって」
そう言って、菜水は自分の部屋へと戻ってしまった。
「あらあら」
年頃、か。私にもあんな時があったな。パートナーは、あの時の好きな人ではないけど。
お赤飯とはいかなくても、今日は菜水の好きなものにしようか。
私は頭の中で献立を考えると、意気揚々とキッチンに向かった。
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