没案 あるいは在ったかもしれない、もしもの世界

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 解答 美並菜水 四話五話にあったかもしれない話。

 読まなくても問題ありません。むしろ、読むと混乱するかもしれません。


 美並が姫川と仲良くなった世界線。

 ただ、黒島の襲撃は姫川に責任はなくても関係はあったはずで、美並がその姫川と深く接触することにどうしても違和感を覚えて没としました。


 平仮名の方が良いとされる言葉も、改訂前としてそのまま残しています。


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 許す許さないと言うほど、重く受け止めてはいなかった。気にしていないといえば嘘になるけど、本陣くんがあれだけ言ったために、むしろ同情していたくらいだ。なので、言うつもりは私にもなかった。


 ※ 遥の「許せないなら〜」に対しての美並の反応。怖くなかったはずもなければ、傷付いていないはずもないので、没とした。



 ”それと、よかったら、たまにこうやって話しませんか?”


 最後の一文は、迷った末に送った。

 上の文だけだと、無理をして書いただけと受け取られる気がしたからというのもある。私はもう貴方にわだかまりはないという意思表示として、こちらから距離を詰めることが必要だと。後は、単純に姫川さんとお話をしてみたいという気持ちだった。

 おこがましさを感じ、どうしようかと散々思いながら、結局は送った次第である。


 返事が中々返って来なかったため、唐突な距離の詰め過ぎで、やってしまったと思ってしまった。おおよそ、私らしくない行動でもあった。


 ”あんなことがあって、言うのもどうかと思って、考えて遅くなりました”


 ”美並さんがいいのなら、私の方はもちろんです”


 姫川さんから返事が届いた。

 姫川さんからすれば、あの諍いの原因は自分にあるとのことだったので、原因の自分が私と仲良くするのはどうかと思ったようだけど、最後には了解してくれてよかった。


 ”よかった”


 それだけ送った後で、思った。


 本陣くんと勉強、いや、話すようになってから、私とその世界はどんどん変わっていっているなぁ。


 ※ あの諍いの一件について、美並が姫川に送ったメッセージにあった一文とその顛末。諍いの元となった姫川に美並が近付くことに違和感を覚えて没に。



 秘密裏に姫の寵愛ちょうあいを受ける者は疎まれる。


 ※ 集団に属することなく、個別な特別扱いを受ける者は疎まれる。その改訂前の文章。さすがに詩人すぎるというか、姫扱いが強いというかで改訂。




 結果が出された日の夜、家の自室で眠る少し前に、姫川さんとメッセージアプリで会話をした。


 ”完敗した”


 ”どんな勉強したの?”


 姫川さんとは、あの一件から頻繁ではないけど少しメッセージアプリで会話するようになって、今では砕けた文章になっている。


 ”ふふ”


 ”ちょっと、お友達と勉強したの”


 ”次も負けないね”


 姫川さんから矢継ぎ早にメッセージが飛んでくる。遥さんも文字を打つのが早いけど、姫川さんは更に早い。


 あれだけの友達の数だし、相当打ち慣れているんだろうなぁ。


 ”うう”


 ”勝者の風格”


 私も以前に比べれば早くなったけど、遥さんにも遠く及ばない。姫川さんは嫌に思っていないだろうか。”打つの遅くてごめん”と送ったことはあるし、”大丈夫だよ”と返ってはきたけど、嫌だとして、正直には言わないよね。


 ”私は肩で風を切る”


 ”ごめんなさい 冗談”


 姫川さんの返信が少し遅くなった。

 人気者だから、他にやり取りしている人がいるのかもしれない。私は自重しよう。


 ”敗者はそろそろ休みます。おやすみなさい”


 ややあって、姫川さんから返信がある。私の推測は当たっているのだろうか。


 ”おやすみ、美並さん”


 最後に名前を出されてドキッとした。名指しの破壊力。姫たる所以か。

 少し心を乱されてしまったけど、布団に入って横になっていると段々と落ち着いてきて、いつの間にか眠ってしまっていた。


 ※ 二学期末テストの結果後のやり取り。美並と姫川が仲良くならないので、当然なしに。少し話のテンポを悪くしてもいた。



 その日の夜、私はその難題に対しての相談をしようと、自室にて遥さんと姫川さんにメッセージを送ろうとしていた。

 本陣くんに此処ここはどうかな?とは聞くつもりだけど、肝心の此処ここが出てこない。女子とですら何処に行けばいいのか分からないのに、男子は更に分からない。

 一人では無理難題。でも、今の私には頼れる強力な二人がいる。二人とも人付き合いは多いし、きっと参考になる。


 二人と同時にやり取りすると、私の返信が追いつかないだろうから、一人ずつやり取りをすることにした。


 まずは遥さん。


 何て送ろう? 男子が喜びそうな場所って何処かな、とか?単純に聞くと、『遂に本陣とデートか』なんて茶化されそうだし。


 ここは少し遠回しに——。


 ”こんばんは”


 ”遥さんって、外でよく遊ぶ?”


 何だか子供がお外で遊ぶみたいな感じになってしまったけど、多分意味は通じるだろう。


 ややあって、返信がある。


 ”砂場のお城づくり?”


 通じなかった。いや、遥さんなりの冗談だろうか?


 ”いや、外出しての遊びって意味で”


 ”ああ、そっちね”


 本気か冗談なのか読めない。


 ”まぁ、それなりじゃないか。部活やってない連中には負けるだろうけど”


 週一しか部活していない私よりも、圧倒的に勝ってます。


 遥さんは週一程度しか休みのないバレーボール部に所属していた。その休みも大体は平日のはずで、それでそれなりは凄いな、と思う。その平日の放課後や土日の部活終了後だろうか。体力も人と会う力も、私とは桁違いだ。


 ”友達と、どういうところに行く?”


 ”部活仲間が多いけど、ショッピングモールやカラオケ、ボウリングあたりかな”


 この辺りで聞いてみるのが自然だろうか。


 ”男子と行くこともある?”


 何て返ってくるかドキドキする。何となく、先程までより返信に時間が掛かっているような。


 ”ああ”


 ”たまに一緒に遊ぶことはあるね”


 来た。

 ほっと胸を撫で下ろす。どうやら、このまま本陣くんの話題は出ずに話を進められそうだ。


 ”行くところは、特に変わらない?”


 ”そうだな”


 ”どこが楽しそうとか、ある?”


 少し間が空く。基本ぽんぽんと返ってくる人だけど、何かあったのだろうか?


 ”菜水が行きたいところなら、どこでも楽しいと思うぞ”


 ……えっと、これは。


 ”な、なに? 急に”


 ”本陣とどっかに行くんだろ?”


 そのメッセージを見た瞬間、一気に顔が熱くなった。

 遠回し作戦は、無事に失敗したようだ。


 ”なんのことだかさっぱり”


 それでも、一応とぼけておく。


 ”まぁいいけど”


 ”ひとりごと”


 ”本陣は変わってるから、他の男子は参考にならないと思うぞ”


 とぼけたのに付き合ってくれる遥さん、優しい。

 そして、参考にならない——か。考えてみれば確かに。参考になると思った私が浅はかだったかもしれない。


 ”ごめんなさい”


 ”変なこと聞いて”


 ”忘れて”


 うう。これじゃただ、遥さんに本陣くんと遊びに行く報告をしただけみたいだ。

 そう思って頭を抱えていると、遥さんから返信がくる。


 ”本陣はどうか知らないが、男子はあいつらカレーパンでも食わしとけば喜ぶぞ”


 ”じゃ、グッドラック”


 最後によく分からない情報が来て、遥さんとのやり取りは終わった。


 次は姫川さんと思っていたけど、どうしよう?

 いや、本陣くんに適した場所かは分からないにしても、選択肢は多く欲しい。ここはやはり姫川さんにも聞いてみよう。


 ”こんばんは”


 ”姫川さんは男子と遊ぶことある?”


 姫川さんは私と本陣くんとのことは知らないはずだから、ストレートに聞いても問題はないはず。


 十分ほど経っただろうか。画面を見つめていても中々返信が来ないので、姫川さんとの今までのメッセージ履歴を見返していた。

 遥さん程ではないけど、それなりの履歴がある。私が姫川さんとこんな風にやり取りするとは、考えもしなかったことだ。


 感慨深く思っているところに、姫川さんからの返信があった。


 ”小学生のころはあったけど”


 ”今はない……”


 悲しそうなスタンプ付きでそんな言葉が送られてきた。

 あれだけ女子に囲まれているなら、誰かが男子との約束を取り付けてきてもよさそうなものだけど、姫川さんに関しては、男子に触れさせないように囲っているのかもしれない。


 ”そうなんだ”


 ”私も似たようなものだけど”


 ”もし、遊ぶことになったら、どこに行きたい?”


 男子の行きたいところではなくて、姫川さんの行きたいところになってしまったような気がするけど、この際もういいか。


 ”ひょっとして美並さん、誰か男の子と遊びに行くの?”


 しまった。姫川さんにまで勘繰られてしまった。


 ”想定、想定で”


 一応、ごまかしておく。


 ”うーん”


 ”行きたいところを擦り合わせして”


 まぁ、そうだよね。擦り合わせしてくれない相手なんですが、それは。


 ”その想定は、多数? 二人きり?”


 誰か男子と遊びに行くであろうことを、薄々察している姫川さんにどう言ったものか。


 迷いはしたけど、ここは素直にいくことにした。


 ”二人きり”



 ”それは、好きな人?”


 好きという言葉にドキッとする。

 突っ込んでくるなぁ、姫川さん。


 ”よく分からない人”


 嘘ではない、と思う。恋愛的な好きかと言われればという意味でも、人間性そのものにしても。


 ”笑”


 ”どこでも楽しそうだけど”


 ”ゆっくりと映画とかいいんじゃない”


 映画か。遥さんが男子と行く場所には挙がってなかったな。あれは、男女共に複数の場合だろうけど。


 ”映画ね”


 ”ありがとう”


 ”貴重な意見だった”


 この期に及んで、何かのデータでも取っているような体を出しておいた。姫川さんには滑稽に映っているかもしれない。


 ”どういたしまして”


 ”参考になったら嬉しいです”


 ”頑張ってね”


 うん。ほぼバレている気がする。


 ”あ、男子はカレーパンを食わせておけば喜ぶって聞いたことあるよ”


 流行ってるのか?男子とカレーパン。


 さて、二人とやり取りして出てきた場所を確認して、考えてみる。


 ※ 美並と姫川が仲良くならないので没に。また、遥とのやり取りも何か違うと書き直し。美並と姫川の関係性に違和感をずっと覚え続け、姫川とのやり取り前に没にすることに決定。ただ、没にするにしても、姫川とのやり取りだけは一応書いておいた。

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